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2021/2/11 18:00

イエロー&レッドカードが13.5%も減!「無観客試合」が選手におよぼす意外な影響

現在、国内外の多くのプロスポーツでは無観客で試合が行われています。スタジアムでは試合を盛り上げるために、サポーターの姿をスクリーンに映したり、声援を流したり、さまざまな工夫が行われていますが、その影響は意外なところに出ているようです。

↑こんなシーンを見ることが減っているかも

 

オーストリアのサッカー・ブンデスリーガでは、2020年5月末から無観客試合でリーグを再開しました。観客の不在は選手の行動にどんな影響を及ぼすのでしょうか? オーストリアのザルツブルク大学の研究者たちが調査を行いました。

 

この調査の対象は、ザルツブルクを拠点とするレッドブル・ザルツブルク。研究者たちは試合中に起きる選手たちの口論や審判への抗議、タックル、ファウルなど、感情的になる行動について分析するシステムを開発しており、これを使って2018-19年シーズンの10試合と、コロナ禍で無観客で行われた2019-20年シーズンの10試合について比較しました。

 

すると、無観客試合では口論のような感情的な行動が、観客がいた試合に比べて19.5%も少ないことが判明。審判の行動も見てみると、そのような口論が起きた場合に制止するような行動はコロナ前の試合では39.4%見られたのに対して、無観客試合では25.2%に減少していました。審判も選手たちのケンカや抗議に積極的に関わろうとしないようです。

 

さらに感情的な行動が起きた時間について比較してみると、コロナ前の試合では合計41分42秒だった一方、無観客試合ではわずか27分9秒に減少。観客がいないと、選手やコーチ陣が議論するのが4.7%減り、激しく口論することも5.1%少なくなることがわかりました。

 

サッカーでは「サポーターは12番目の選手」と言われるように、スタジアムが観客で埋め尽くされ、サポーターの声援と熱気が溢れれば、それはピッチの選手に自然と伝わるもの。声援に後押しされて、選手やコーチ陣が興奮しやすくなるのもうなずけますが、今回の研究結果はそのことを客観的に物語っているでしょう。常に冷静でいなければならない審判も、そんな熱気からは完全に免れないみたいですね。

 

意外と選手は集中しやすい?

選手同士が試合中に口論になるのは、それだけ試合が白熱している証。そんなシーンも含めたスポーツの熱狂は無観客試合では薄れてしまうのかもしれませんが、それにはそれで良い面もあるようです。

 

研究チームは、コロナ前とコロナ禍のリーグ戦を合わせた全120試合(各60試合)におけるファウルとイエローカード、レッドカードの数を集計しました。すると、コロナ禍の無観客試合ではファウルは3.8%、イエローカードとレッドカードの数は13.5%減っていたのです。

 

さらに、レッドブル・ザルツブルクはコロナ前のシーズンでは10試合での得点数は28点だったのに、コロナ禍のシーズンでは10試合で36得点を記録。リーグ戦全60試合でもコロナ前は95得点だったのに、コロナ禍では114点と、約20%も得点数が増加しました。

 

これらのデータは、無観客試合では口論や抗議が減ることで選手がプレーにもっと集中できるようになり、その結果としてファウル数は減り、ゴール数は増える可能性があることを示しています。

 

選手同士の熱い闘いを間近で見られるのはスポーツの醍醐味のひとつ。しかし無観客試合であっても、選手が試合に集中して素晴らしいプレーが生まれているのかもしれません。そう言われるとサポーターは困ってしまいますが、無観客試合には無観客試合だからこその楽しみ方があるのでしょうね。

 

ちなみに、オーストリア・ブンデスリーガは2020-21年シーズンの開幕当初は観客数を制限していましたが、その後は新型コロナの感染者数の増加に伴い、無観客試合が続けられています。観客数の制限が選手などの行動にどのような影響を与えるのかは興味深い問題ですが、さらなる研究報告を待つことにしましょう。

 

【出典】Leitner, M.C., Richlan, F. (2021). Analysis System for Emotional Behavior in Football (ASEB-F): matches of FC Red Bull Salzburg without supporters during the COVID-19 pandemic. Humanities Social Sciences Communications, 8, 14. https://doi.org/10.1057/s41599-020-00699-1