アップルの「AirPods」と言えば、いま世界で最も売れている左右独立型の完全ワイヤレスイヤホンとして知られています。そんなAirPodsに、待望の第3世代にあたる新製品が登場しました。ここでは、新しいAirPodsの購入を検討するうえで注目したい機能、従来モデルとの違い、注意したいポイントをまとめて紹介します。
アップル独自の「空間オーディオ」体験にフル対応
新しいAirPodsは、従来の“無印”AirPodsと同じ、「ノイズキャンセリング機能を搭載しない」ワイヤレスイヤホンです。iPhone、iPadとのワンタッチペアリングのような、アップルデバイスとスムーズに連携する機能はもちろん受け継いでいます。価格は2万3800円(税込)。
前モデルの第2世代AirPodsはエントリーモデルとして1万6800円(税込)で販売を継続します。また、ノイズキャンセリング機能を搭載する上位の「AirPods Pro」も引き続き併売。ハイエンドクラスのワイヤレスヘッドホン「AirPods Max」も含む4機種が“AirPodsファミリー”として出そろいました。
そのなかで、新しいAirPodsの最大の魅力は、ミドルレンジにあたるモデルながらアップル独自の立体音楽体験「空間オーディオ」に関連する技術「ダイナミックヘッドトラッキング」に対応したことです。現在、ダイナミックヘッドトラッキングが利用できるイヤホン・ヘッドホンは世界に、新しいAirPodsのほか、AirPods ProとAirPods Maxの3機種しかありません。
ダイナミックヘッドトラッキングにより、空間オーディオに対応するコンテンツを再生したときに、顔や体の向きを変えてもコンテンツの音があるべき位置に定位したまま聞こえてくる効果を体験できます。
たとえばiPhoneで映像を視聴する際、画面を見ながら顔を横の方に向けると、顔を向けている耳から役者のダイアローグがより強く聞こえてきます。このように、ダイナミックヘッドトラッキングは、コンテンツ視聴の没入感をさらに高めてくれる機能で、アップルのApple TVほか、Netflixなどの動画コンテンツを再生したときに楽しめます。
また、2021年の夏から、Apple Musicにも「ドルビーアトモスによる空間オーディオ」を使って制作された楽曲が次々に増えています。楽曲の情報を開いて「Dolby Atmos」のロゴが掲げられているタイトルの場合、iPhoneやiPadなどのアップルデバイスに新しいAirPodsを接続した環境で、ダイナミックヘッドトラッキングを使った立体再生が可能になります。
さらに、iOS 15/iPadOS 15以降から、通常のステレオ音源にバーチャル処理をかけて空間オーディオのようなリスニング感に変換できる「ステレオを空間化」機能が追加されました。Apple Musicのステレオ制作の楽曲はもちろん、SpotifyやAmazon Musicで配信されているステレオ制作の楽曲、YouTube動画のステレオ音声も“空間化”できる機能です。バーチャル処理ではあるものの、元から空間オーディオの技術を使って制作されているコンテンツに引けを取らない立体音楽体験が手軽に味わえます。
新しいAirPodsなら、このステレオを空間化されたコンテンツにおいても、ダイナミックヘッドトラッキングの効果を合わせて楽しめます。iOS/iPadOSの場合、コントロールセンターを表示して新しいAirPodsの音量メニューを長押しすると、空間化とダイナミックヘッドトラッキングのオン・オフを切り替えることができます。
開放型イヤホンならではの爽やかなサウンド
では、肝心の音質はどうでしょうか。新しいAirPodsは、ハウジングと呼ばれるイヤホンの外殻に空気の通り道となる小さな孔を設けて、大型のダイナミック型“Appleドライバー”を力強く動かしてパワフルなサウンドを再現する開放型(またはオープン型)の構造を採用しています。
イヤホン本体のトップにある黒いメッシュのところなどに配置されている孔から、ドライバーのピストンモーションの背圧により生まれる空気が抜けて、切れ味鋭く躍動感に富んだサウンドを楽しめます。
新しいAirPodsでボーカル系の楽曲を聴くと、とても爽やかな声の余韻に驚くはずです。同じ開放型のワイヤレスイヤホンである第1・第2世代のAirPodsから、クールで煌びやかな高音域の特徴は健在。また、ピアノやギターのハイトーンが高く突き抜けるスピード感も、AirPodsで聴く音楽の醍醐味だと思います。
さらに新しいAirPodsは、従来のAirPodsに比べて低音再生の表現力が大幅に向上しました。音に厚みとパワーが感じられるだけでなく、ベースやドラムスのディティールが豊かになっています。バンドやオーケストラにおける、低音楽器の演奏をとても正確に再現してくれるため、そうした楽器を担当するミュージシャンが新しいAirPodsで聴いても、そのサウンドに納得するはずです。
一方で、ロックやEDMのアップテンポなサウンドは低音のビートがしっかりと安定するので、ボーカルやメロディを演奏する楽器の抑揚感がいっそう艶やかに感じられます。
ただし、開放型のイヤホンであるAirPodsは、ハウジングに孔が空いていることから、やはり騒々しい屋外では音楽が聴こえづらくなる場合があります。
それでも、従来のAirPodsに比べると新しいAirPodsは、低音を中心に音楽再生のエネルギー感がアップしているため、音楽再生のボリュームを余計に上げなくても、屋外で十分に心地よいリスニングが楽しめました。
ただ、騒音の強い地下鉄の車内、そしておそらくは飛行機の機内では音楽や映像コンテンツのダイアローグが聞こえづらくなるでしょう。コンテンツ再生を楽しむ環境や場面に合わせて、ノイズキャンセリング機能を搭載するAirPods ProやAirPods Maxを上手に併用するスタイルが理想的です。
耐水耐汗に明瞭なハンズフリー通話対応など、使えるシーンがさまざま
新しいAirPodsはそろっている機能も非常にバランスがいい完全ワイヤレスイヤホンです。本体、および充電ケースがともにIPX4等級の耐水耐汗に対応しました。雨の降る屋外やスポーツで汗を流しながら音楽を聴きたい場面、キッチンで過ごすエンターテインメントの時間などがよりいっそう楽しくなります。
もちろん、ハンズフリー通話にも対応しています。ユーザーの発話する音声を高精度にピックアップするデュアルビームフォーミングマイクを搭載しているので、iPhoneの内蔵マイクに引けを取らないほど明瞭な声を通話相手に届けられます。
なお、イヤホンは1回のフル充電から最大4時間の連続音声通話をサポートします(音楽再生の場合は最大6時間)。長時間に渡るオンラインミーティングにも十分なバッテリー容量が確保されていることと、開放型のイヤホンなので耳に装着した状態で自然に周囲の環境音が聞こえてくるため、疲れを感じにくいところも新しいAirPodsの魅力だと筆者は感じています。
新旧AirPodsで装着感が変わるはず。購入前の試着が大事
最後に、AirPodsを選ぶうえで、ひとつ注意したいポイントがあります。新しいAirPodsはイヤーチップなどを装着せずに裸の本体をそのまま耳に乗せるように装着するイヤホンです。AirPods Proのように、シリコン製のイヤーチップを使う耳栓タイプのイヤホンは、イヤーチップのサイズを変更して耳へのフィットを調節できるところにもメリットがあります。反対に、この耳栓タイプの装着感が苦手という方も多いことから、耳乗せスタイルのAirPodsが定番として人気を獲得しているのでしょう。
新しいAirPodsは、第2世代AirPodsからデザインが変更されています。ハウジングのサイズはほんのわずかながらも大きくなっているので、第2世代AirPodsから買い換え・買い増しを考えている方、あるいは新しくAirPodsを買う方は、購入を真剣に検討する段階になったら、ぜひフィッティングを入念に確認することをおすすめします。Apple Storeなどや量販店であれば試せるでしょう。
左右独立型の完全ワイヤレスイヤホンは、今どき5000円前後で良質な製品も見つかるようになりました。それに比べると、2万円台の新しいAirPodsは一見するととても高価な製品のように思えるかもしれません。ですが、充実したアップルデバイスとの連携、空間オーディオへのフル対応など、ほかのイヤホンにない魅力を満載していることを考えれば、きっと後悔しない買い物になるはずです。
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