本・書籍
2022/2/13 6:00

日本の近代建築50選!エピソードと見どころをその道のプロが解説~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。建物って非常に身近ながら、もっとも大きい芸術作品のひとつですよね。私も好きで一般公開されている昔のお屋敷をよく見に行くのですが、その存在感と整った姿には圧倒されます。

 

しかも、グリコ以上に“1粒で2度美味しい”(笑)。外観はもちろん、中に入ると装飾やディティールにこだわりの美が満ちている。ふたつの楽しみ方ができるのもいいですね。

 

日本の近代建築、ここに注目!

今回紹介する新書は日本の近代建築ベスト50』(小川 格・著/新潮新書)。著者の小川 格さんは建築専門誌「新建築」の編集を経て、建築書の出版に携わったあと、建築専門の編集事務所「南風舎」を神保町に設立し、2010年まで代表を務めてきました。50年にわたって日本の近代建築を見つめてきた、いわば“建築ソムリエ”の小川さんによる初の著書。どの近代建築をベストに挙げたのか、それだけでも気になりませんか?

 

本書は、各4ページで50の名建築が竣工年順に紹介されていく形式です。ひとつひとつのテキスト量はそれほど多くないものの、建築家のエピソードや建物の特徴がわかりやすくまとめられています。建築に詳しくない門外漢でもすっと頭に入ってくるのがいいところ。

 

建築家がどうしてその建物を造るに至ったのか、そんな壮大な物語の一端が見えてきて、読んでいて引き込まれます。原則、建物の内外ともに見学可能なものという選考基準も読者にとって親切です。

 

普通の日本家屋に見える前川國男自邸の秘密

私は東京・小金井市の「江戸東京たてもの園」に何度か行ったことがあるのですが、ここに移築されている「前川國男自邸」(1942年)もベスト50に選ばれていました。正直なところ、前川國男自邸の凄さはあまりわかっていなかったのですが、この本を読んでもう一度じっくり見学してみたくなりました。

 

書かれているエピソードにはドラマを感じます。1928年(昭和3年)、前川國男は東京帝国大学の卒業式のその日に夜行列車で神戸へ向かい、船出して大連へ。17日間シベリア鉄道を乗り継いでパリへたどり着き、憧れだったモダニズム建築の巨匠ル・コルビュジエに弟子入りする……。

 

一見、木造の日本家屋なのに、大きな吹き抜けの居間と背後の中二階という前川國男自邸の構成は師匠譲りだとか。今でこそ自由に使える広いリビング空間は当たり前とはいえ、当時はさぞかしモダンだったことでしょう。

 

コンサート会場としてもおなじみの「国立代々木競技場」(1964年)もベスト50入りしています。設計したのは戦後の復興期から高度経済成長期に数多くの名建築を手がけた丹下健三(前川國男の弟子でもあります)。

 

1964年の東京オリンピックに用いる1万5000人の観客を収容するための大規模な第一体育館は、新たな構造と技術を導入する必要がありました。そこで丹下健三は両端に2本の支柱を立て、掛け渡した2本のケーブルから巨大な屋根を吊り下げるという前例のない形式を選んだそうです。しかしコンピュータのない時代、構造計算は簡単ではなく、工期も限られ予算も足りない。それを解決したのは……。今度、コンサート前にじっくり屋根を見上げてみようと思います。

 

天才青年が遺した優美な白鳥を連想させる「小菅刑務所」(1929年)、4×2.5m(10平方メートル)の立方体を積み重ねた集合住宅「中銀カプセルタワービル」(1972年)、外壁がすべて曲面ガラスという透明感ある「金沢21世紀美術館」(2004年)……。近代建築の魅力と設計に関わった人々の想いが伝わってくる一冊。時代順に並んでいるので、タイムトラベルしている感覚もありました。

 

【書籍紹介】

『日本の近代建築ベスト50』

著者:小川格
発行:新潮社

建築は、時代と人々を映す鏡である――日本で近代建築が始まって約100年。この間、数多くの建築が作られ、また破壊・解体されてきた。本書では、半世紀以上にわたり専門誌・書籍の編集に携わってきた著者が、ル・コルビュジエから丹下健三、磯崎新や隈研吾まで、現存するモダニズム建築の傑作50を選び、写真やエピソードとともに徹底解説。戦前から戦後の高度成長期、さらに現代まで流れる建築思想をたどる。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。