文房具ライターという仕事柄、「万年筆について語ってほしい」という依頼を受けることがある。特に「初心者におすすめの万年筆を教えて」という要望が多いのだが、その場合これまでは「パイロットの『カクノ』がいいですよ」と答えてきた。
なにしろ、1000円+税という低価格ながら3000円級のニブ(ペン先)を搭載し、コスパは言うことなし。軸も握りやすく、字幅もEF(極細)・F(細字)・M(中字)と使いやすいところが揃っている。
逆にもう「スターターとしてこれ以外になに使うの?」というレベルの優秀さなので、本当に「カクノ」が発売されて以降、ずっとオススメしてきた次第。
そこへ昨年末、同パイロットが新たに、初心者に良さそうな万年筆の新製品を発売してきたのだが……お値段は「カクノ」の倍=2000円+税。果たして、1000円の価格差を払ってまで「カクノじゃない万年筆で始める」価値はあるのか? 今回はそこのあたりを検討してみようと思う。
シン・初心者用万年筆!?「ライティブ」登場
そのウワサの新しい万年筆というのが、パイロット「ライティブ」である。正直これまで、万年筆ビギナーの皆さんは1000円の「カクノ」でだいたい満足していたはずだし、ハマッた人はここを起点に5000円オーバー、1万円オーバーの万年筆へとステップアップしていたと思う。
そこをあえて「2000円+税って、どうでしょ?」と問いかける意味は、どこにあるのか?
パイロット
ライティブ
F(細字)・M(中字)
各2200円(税込)
まずポイントとなるのは、ビジュアルだろう。「カクノ」は鉛筆モチーフの太め六角軸で握りやすさを優先したデザイン。結果、雰囲気はどうしてもチャイルディッシュ寄りになる。
対して「ライティブ」は、メーカーリリースで「30~40代をメインターゲットに、ビジネスパーソンが初めて手にするアイテム」と謳っているぐらいで、なるほど、大人が握っていてもまったく違和感のないビジュアルと言える。
樹脂軸ながらメタリック塗装やマット加工のものをラインナップしており、さほどチープには感じない仕上がりだ。それでいて、重量は約12.4gと非常に軽い。見た目もあって「茶碗を陶器だと思って持ち上げたら樹脂製だった」的な、うわっと驚くような軽さを感じてしまう。
そもそも万年筆は筆圧を必要としない筆記具なので、単純に軸重量が軽いと手が動かしやすく、書くのがラクなのだ。逆に、金属軸のずっしりした万年筆に慣れている人は、少し違和感と書きづらさを感じるかもしれない。
ちなみにニブは「カクノ」と同様、3000円帯の万年筆「コクーン」用のものを搭載。鉄ペンのほどよいカリカリ感はありつつも、充分に万年筆らしい書き味は味わえる。
焦点になるのはここでもビジュアルで、「カクノ」ニブに刻印されたスマイリーな顔がカワイイと取るか、子どもっぽ過ぎて恥ずかしいと取るか、ということだろう。
そしてなにより「ライティブ」最大のポイントにして、「カクノ」にないメリットが、本体キャップの性能だ。
キャップ内部に新仕様のインナーキャップを採用しているのだが、メーカーリリース曰く「ネジ式キャップとほぼ同等」という気密性なのである。(おそらく、プラチナ万年筆の「スリップシール機構」に似たものではないか?)
なにしろ万年筆ビギナーにもっとも多いトラブルが、筆記せずにしばらく放置したことでインクがドライアップして書けなくなる、というもの。であれば、メンテナンスの頻度を減らしてくれる高気密性構造は、初心者にとって非常にありがたい……というより、もはや必須の機能なのだ。
現時点ではまだインクを入れて1か月ほどなので、この新インナーキャップの性能を実感するまでには至っていないが、それでも「カクノより乾きにくいかも……」とは感じている。
これはあくまでも筆者個人の感覚だが、高気密の新インナーキャップだけでも充分に+1000円の価値はあると思う。
なにより、「カクノは子どもっぽ過ぎるから、もうちょいスタイリッシュかつコスパの良い万年筆が欲しい」という要望がパイロットに寄せられていたであろうことは想像に難くないし、「ライティブ」はまさにそのものズバリの回答と言えるだろう。