ここ数年のディズニーは動画配信サービス「Disney+」の絶好調ぶりをはじめとして、オンライン事業での躍進は目覚ましくあります。そうしてディズニーの経営姿勢は、アップルの共同創業者スティーブ・ジョブズが、ディズニーのボブ・アイガー元会長に影響を与えたことがきっかけだったと明かした書籍が米国で発売されました。
アップルとディズニーの関係は、ジョブズがピクサー・アニメーション・スタジオをディズニーに売却した2006年にまで遡ります。ジョブズはディズニーの個人筆頭株主になるとともに同社の役員に就任し、それを境として両社は距離を縮めており、ジョブズが逝去した2011年にはアイガーがアップルの取締役に就任していたほどです(後に退任)。
さて、新たに出版された「Binge Times」という本は、動画ストリーミング業界に関する書籍です。その中ではジョブズがディズニーを味方に付けるために多大な労力を費やしたと書かれています。
その始まりは、ディズニーが海賊版の問題を解決しようとジョブズを交えて行った2005年の会議からです。ディズニー・ABCグループ元社長のアン・スウィーニーは、「デスパレートな妻たち」(2004~2012年に放送されたTVドラマ)のシーズン最終回が3000万人の視聴者を獲得したものの、放送後わずか数分で海賊版があふれたことを振り返っています。
その数か月後、ジョブズは海賊版の問題を解決する方法を(アイガーを経由して)提案し、バーバンク(ディズニー本社)に飛んで行ってiPodの動画再生デモを行ったそうです。その場でノートPCを開いてiTunes Storeの画面を表示すると、そこにはABCのテレビドラマ「LOST」の画像が大きく表示。そして、ジョブズはスウィーニーに番組をダウンロードする方法を説明し、番組のエピソードを再生したiPodを手渡したとのことです。
スウィーニーは「彼が帰るまで気がつかなかったんだが、どうやってLostのエピソードを手に入れたんだろうと思った」と振り返っています。要するに、ジョブズもおそらく事前に(海賊版を)ダウンロードしていたわけです。
取引が成立した後、ディズニーは人気番組のマスター音源を密かにアップル本社に運んだとのこと。それは2005年10月、アップルがiTunesでテレビ番組をダウンロード販売することを発表するまで秘密とされていました。
この契約をきっかけにディズニーとジョブズの関係は修復され(それ以前には悪化していた)、ジョブズのブランドと品質を重視する姿勢がディズニーの事業全体に影響を与えたと語られています。またアイガーが会長に就任したとき、ハイテクを広く受け入れるようになった前触れだったと語られています。
ジョブズの行動力や「明らかに無許諾の動画のコピーを版権元に持ち込み、プレゼンをする」度胸はすさまじいものがありますが、その突破力がiPhoneで世界を変えたことに繋がったのかもしれません。
Source:AppleInsider