日本政府は2030年までに温室効果をもたらす二酸化炭素(CO2)排出量を46%削減する目標を掲げている。そのためには、化石燃料の使用抑制が不可欠だ。
身近な脱化石燃料ツールとして挙げられるのが電気自動車(EV)。だが、EVの普及に向けての課題は多く、そのひとつが充電問題だ。この記事で紹介するのは、その課題を解決すべく開発されたソリューション「Charge-ment(チャージメント)」。EVの充電を効率化し、ピーク時の電気使用量抑制などの効果をもたらすという。
EVを多数運用する拠点の電力コストを抑える方法
パナソニック エレクトリックワークス社(以下、EW社)が開発した「Charge-ment」は、複数台のEVを同時運用する施設向けの充電インフラソリューションだ。EVを営業車・公用車として利用する企業・公的機関や、カーシェア施設などを、主な導入先として想定している。
複数台のEVを充電する施設では、ピーク時の電力使用量が多くなるため、それに従って電気料金、つまり充電コストが大きくなってしまう。ピーク時の電力使用量が大きくなってしまうと、電力契約の基本料金が大きく跳ね上がってしまうからだ。それをどのようにして防ぐのか。Charge-mentの仕組みを紹介しよう。
たとえば、10台のEVを運用している拠点があるとする。この拠点での電力使用量がピークに達するのは、無論、10台のEVを駐車し、それらに最大出力で充電を行なっているときである。しかし、10台同時に最大出力での充電を行いさえしなければ、つまり、多数のEV停車時に限って、1台ごとの充電速度を抑制すれば、ピーク時の電力使用量を下げられるのだ。
Charge-mentは、多回路エネルギーモニターと連携したクラウドを通して、そのコントロールを自動で行う。どの程度出力を抑えるかは、利用者がオンライン・リアルタイムで調整できるほか、EW社側でも効率化のためのコンサルティングをしてくれるので、EVの運用に支障がでないようにしながら、電力コストを極力抑えられるという仕組みだ。
EVを10台運用する拠点では、年間で120万円のコスト削減に
Charge-mentによるコスト削減率は大きい。たとえば10台のEVを運用し、それぞれが1日100kmの走行を行う拠点(低圧電力契約)の場合、年間コストはCharge-ment未導入時と比べて、年間約25%、金額にして120万円も節約できるという。(金額の計算は、2022年5月の電気料金をもとに試算)しかも、拠点のEV運用台数が増えれば、そのコスト削減率はさらに大きくなるそうだ。
なおCharge-mentは、クラウドと通信するゲートウェイ1つあたり、EV32台までの充電管理に対応している。33台以上のEVを運用する拠点の場合、ゲートウェイを増やして対応することになる。
現状では営業車や公用車を運用する拠点への導入が主であるため、一般消費者への恩恵は薄いと思われるかもしれない。だが、企業や自治体の業績は、最終的には消費者に影響してくる。また、カーシェア施設にこれが普及すれば、EVカーシェアの利用料抑制にも一役買うだろう。ましてや、この夏ではピーク電力消費量抑制が社会的なテーマとなっている。その点でも、Charge-mentは社会的意義のあるソリューションといえるだろう。
コスト削減効果を見える化し、運用状況の変化にもスピード対応
Charge-mentには、コスト削減以外の効果もある。それが、EW社による導入後の運用管理によるさらなる効率化アシストと、充電状態やコスト、CO2の削減率の見える化だ。
Charge-ment導入前にもEW社による運用やコスト削減効果のシミュレーションは行われるが、実際に運用を始めたあとにも、EVの利用状況に応じてさらなる効率化を提案してくれる。そのため導入後に、クルマの利用が増える、減る、という事態が起きてもすぐ対応できるというわけだ。EW社は全国に拠点があるので、運用に問題が起きた場合でもスピード対応をしてもらえる点でも安心感が大きい。
Charge-mentのサービス開始は2022年10月と発表されている。また、2030年度までに売上規模を14倍に拡大する目標を掲げているそうだ。
EVの普及だけでは、地球温暖化抑止への力は限られている。それでも、毎年のように暑さの記録が更新されるような強烈な猛暑が、少しでも緩和されてほしいと祈ってやまない。Charge-mentは、そのための、小さいながらも確かな、希望の光といえよう。