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2022/4/27 19:15

たった12年で49%の省エネに成功!「最新オフィスビル」凄すぎる中身

日本政府は、2030年までに温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減するという目標を掲げています。この目標はかなり高いものであり、実際に達成できるのか疑問を持たれる方もいるでしょう。

 

しかし、これに近しい実績をすでに出しているオフィスビルが存在します。それは、2008年度から2020年度にかけての12年間で、エネルギー消費量の49%削減に成功したパナソニック広島中町ビルです。2021年度省エネ大賞省エネルギーセンター会長賞も受賞したという、同ビルの試みを取材しました。

※エネルギー消費量はCO2排出量とイコールの関係ではありません。つまり、エネルギー消費量を50%削減すれば、CO2排出量が50%削減できるということにはなりません。ですが、電力などのエネルギーを産出するためにはCO2の排出がセットになるため、エネルギー消費量を抑制することは、CO2の排出抑制につながります。

 

49%のエネルギー消費量抑制って一般家庭で言うとどれぐらい?

↑ビルの上階にはパナソニックのオフィスがありますが、1階は同社のショウルームとなっています

パナソニック広島中町ビルが竣工したのはいまから36年前の1996年。地上7階、地下2階建てのこのビルは、竣工当時から高効率機器を導入し、ガス・電気のベストミックスを意識した熱源機器を装備していました。つまり、設立当初から省エネを大いに意識した施設であったわけです。

 

2004年には、ビルのエネルギー使用状況を見える化・最適化するビルエネルギーマネージメントシステム(BEMS)を導入。継続して、省エネへの試みを続けてきました。

 

“すでに省エネだった”このビルに転機が訪れたのは2009年のこと。CO2排出抑制に向けての世界的要求の高まり、空調や照明といったビル内の設備老朽化を背景として、省エネ施策をパワーアップすることになったのです。2009年度を皮切りに省エネの取り組みを一段強化した同ビルは、2008年度から2020年度までに、エネルギー消費量を49%抑えることに成功しました。これは原油換算で197kL(キロリットル)ぶんの節約になるそうです。

 

原油の量で説明されてもピンとこないでしょうから、一般家庭に置き換えて説明します。環境省が2017年度に行った調査によると、一般家庭1世帯が1年間で消費する電力量は平均4322kWh。この消費電力量を、東京都地球温暖化防止活動センターが公開している計算ツールを用いて原油換算した場合、1.09kLという結果が出ます。つまり、同ビルが達成した原油換算197kLという省エネの規模は、一般家庭約180軒の年間電力消費量に匹敵するのです。

オール電化によってガスも一般家庭約180軒ぶん以上を節約

上で述べた通り、同ビル竣工時のコンセプトには「ガス・電気のベストミックス」というもの。しかし、2008年度までに行われていた省エネ施策が功を奏し、電気設備の消費電力には余剰が出ていたといいます。その余剰電力を活かすべく行われたのが、空調熱源のオール電化です。結果として、電力消費量は2割程度増えたものの、3万8413㎥あったガス使用量がゼロに。先述した2017年度の環境省の調査では、一般家庭1世帯あたりの年間都市ガス使用量の平均は204㎥となっていますから、一般家庭180軒ぶん以上のガス使用量を削減できたことになります。

 

また、オール電化によってガス空調に必要な冷却塔も不要になったことから、使用水量も年間1700㎥節約できたとのこと。国土交通省の資料では、2018年度に日本人が1日に使用した生活用水の量は1人あたり287Lだそうで、これを年換算に直すと約105kL(=約105㎥)となります。つまり、パナソニック広島中町ビルの空調熱源オール電化による水の節約量は、日本人16人が年間に使用する量よりも多いというわけです。電気使用量の増加分を考慮しても、空調熱源オール電化の省エネ効果は大きく、この改修による総エネルギー削減量は原油換算で24.4kLになりました。

※空調熱源オール電化による省エネ効果の数値は、改修前の2008年度と、改修後の2009年度で比較したものです。同ビルでは空調を含む、設備の更新・省エネ化を積極的に行なっているため、2008年度と2020年度を比較すると、設備改修による省エネ効果はより大きくなっています。

 

↑ビル内のオフィス。現在は空間の改善にも力を注いでおり、緑や木の温もりあふれるオシャレスペースになっています。写真は「Commu」と名付けられた5階オフィス。「自然体でおしゃべりや意見交換ができるコミュニケーションの場」をコンセプトにしています

 

空調設備のつぎに着手したのが、照明のLED化です。2011〜2019年度にかけて行われたこの改修では、57%の電力消費量削減に成功しました。実数値では、11万6396kWh、原油換算で29.9kLの削減となっており、一般家庭電力消費量の平均換算で27軒ぶん以上になります。

↑廊下のLED照明。なお、ビル内に設置された照明の台数は、LED改修後の数値で1582台にのぼります

 

また、ビル運用面での省エネ施策も進めています。その内容は、通信機械室の機器小型化、過度の明るさが不要なエレベーターホールの照明の節約といったものです。前者の施策では、機器の小型化が放熱の減少にもつながり、通信機械室で稼働するエアコン台数を2台から1台に削減できました。施設の運用変更による省エネ効果は、原油8.6kLぶんに及んでいます。

↑エレベーターホールの明るさはオフィススペースと比べてやや控えめに設定されています。とはいっても、機能性の問題はまったく感じさせません

 

ほかにも、PCスリープモード設定の徹底や夏場のトイレ便座ヒーターオフ、クールビズ・ウォームビズといった取り組みを実施。これが積み重なって、従来比49%、年間で原油197kLぶんの省エネが実現されました。省エネ効果の規模は設備改修によるものが大きいものの、それ以外の施策も並行して取り入れることで、より大きな成果へとつながっています。

 

省エネ大賞受賞の決め手! 2020年に行われた新たな実証実験

パナソニック広島中町ビルでは、新たな省エネ施策を生み出すべく、様々な試みを行なっています。毎年のように実証実験を重ねており、その積極性が省エネ大賞省エネルギーセンター会長賞受賞の決め手になったそうです。2020年に行われた実証実験から、その事例を紹介していきます。

 

まずは、天井面への配線ダクトの組み込みです。照明器具の代わりに配線ダクトを組み込むことで、任意の位置・向きに照明を設置できるようになり、レイアウトの自由度が格段に増しました。この改修は、近年の潮流である座席のフリーアドレス化にも対応するものです。そのほか、窓のカーテンをレースカーテンに変えることで外部光を取り入れ、昼間の照明を削減する取り組みも行なっています。

↑オフィスの天井。写真縦方向には照明が、横方向には配線ダクトが組み込まれています。配線ダクトには照明のほか電源コードが設置されており、社員がどこに座っても電源に困らないようになっています

 

2020年といえば、新型コロナウイルスが日本に上陸した年でもあります。そのため同ビルでは、省エネと並行して感染対策にも注力しました。換気の必要性が叫ばれる一方で在宅勤務も普及したことから、在席人数を画像センサで検出しながら、換気量を調節するシステムを導入。在席人数が少ないときは換気量を減らして省エネ運転ができるようになったほか、局所的に密になった場合の換気量増強も可能になりました。

 

さらにユニークな試みとして、冷暖房の運転状況に応じて照明の色を変化させるというシステムも試されました。冷房時には寒色の照明で涼しさを演出、暖房時には暖かさを感じさせる赤色に変化します。こういった実証実験の成果は、定数的なデータに加え、社員からのアンケートによる定性的評価も踏まえながら計測しています。

↑冷房運転中、寒色に切り替わる会議室の照明

 

成功施策の水平展開も想定。社会への効果波及に期待

2021年度以降も、前年比1%のエネルギー消費量削減を毎年度達成するという目標を掲げているパナソニック広島中町ビル。同社製の温水洗浄便座・アラウーノの最新機種導入による節水、断熱性の強化による冷暖房使用の抑制といった手段で、達成を目指しているそうです。同ビルの試みは、パナソニック製の最新省エネツールを試す場としても機能しています。

 

また、同ビルの管理を行うパナソニックファシリティーズでは、自社内で成功した省エネ施策を同社が管理する他社所有のビルにも水平展開するという試みも進めています。多くのエネルギーを消費するビル群の省エネ化が進めば、CO2排出量の抑制効果も当然高くなります。”46%”という高い目標の達成に向けて、同社の努力が社会に波及することを期待したいですね。