Vol.118-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはFacebook改めMetaが手がけるVRヘッドセット「Meta Quest 2」。Metaはこの製品、ひいてはVRのどこに可能性を感じているのか。
Metaが主力VRハードウェア「Meta Quest 2」を値上げしたこと、そして同社の第2四半期売上高が上場以来初の減少となったことから、「Metaは、すぐに売上のたたないメタバース事業を減速するのではないか」との観測がある。
だが、実際に彼らが展開していることを見ると、そうでないことはわかる。決算説明でも投資自体を減らす、という言及はしていない。ハードウェア事業の赤字を減らし、より安定的なビジネスを考えるようになったのだろう。これは、9月15日から値上げされるPlayStation 5とはかなり事情が異なる。
PS5は急速な「ドル高」の影響からアメリカ以外の国での販売価格が極端に安いものになり、需給バランスをさらに崩す可能性があったために価格を変えた。日本人からすると「売っていないうえに値上げ」な訳でかなり微妙な話なのだが。
話をMetaに戻そう。彼らは「東京ゲームショウ」など多くのイベントでMeta Quest 2をアピールする予定であり、ゲーム機としてのHMDも展開する。
ただ、いまのVRを考えた場合、ゲーム以外にも大きな可能性があり、Metaはそこにも目を向けている。むしろ、将来的なビジネス規模としては、ゲーム以外の方が大きいと思っている節がある。
その方向性とは「ビジネスツール」としての価値、別の言い方をすれば、PCと同じように仕事で使う道具としてのVR機器だ。
Meta Quest 2はゲーム機として使えるが、ほかのゲーム機と違う点として、「システムソフトウェアが恐ろしい勢いで進化している」ということが挙げられる。現在のソフトウェアを使うと、机とその上に置かれたキーボードを認識し、複数のWeb画面を開いて「HMDを被ったまま」仕事をすることや、スマホの通知を把握したり、メッセンジャーで他人と会話したりすることも可能になっている。
Metaがテスト中の会議サービス「Horizon Workrooms」も、現状ではMeta Quest 2を使う前提で開発されたサービスだ。
Metaのメタバース投資はハードウェアだけに限ったものではない。むしろ、ソフトウェアやサービスに関わる部分の方が大きいくらいだ。Meta Questはよくできたハードウェアだが、決して高性能ではない。Metaはそのハードウェアに独自開発したAI技術を加え、「ビジネスに使えるVR機器とはどんなものなのか」を世の中に示すテストベッドとして活用しているわけだ。
ガジェット目線で言えば、ゲームやVRそのものにあまり興味がなくても、「OSのアップデートで進化し続けるガジェット」のひとつとしてチェックしておいて損はない。
では、なぜMetaは「ビジネスでの活用」に大きな可能性を感じているのか? そして、その路線でのこれからの武器は何になるのだろうか?そのあたりは、次回解説しよう。
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