Vol.121-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは映像配信サービスにおけるAmazonとAppleの覇権争い。そもそも日本とアメリカで映像配信の普及には違いがあることを解説する。
映像配信というビジネス形態は、インターネットがいわゆる「ブロードバンド」と呼ばれるようになり、家庭でも高速回線を使うのが当たり前になった、2000年代にはすでに存在していた。ブロードバンドの普及が急速に進んだ日本は「映像配信先進国」になり得る可能性があったのだ。
ただし、回線インフラ側やサーバーが間に合っていなかったし、コンテンツを提供する側から見れば、まだまだDVDなどが売れていてレンタルビデオ店も盛況だったので、わざわざネット配信に頼る必然性は薄い、と思われていた。そのため、日本は先行するチャンスを逃すことになる。
しかし、アメリカではちょっと違った。
2006年にAppleがiTunes Storeで映像配信を始めると、MacやiPod(当時のことだから、iPodだけでは通信はできない)で映画を見る人が増えていった。アメリカの場合、広い国土の中を飛行機で日常的に移動している人も多いので、そこでの暇つぶしのために動画を見る人が多かったのである。アメリカの空港には安価なDVDを売る店が多数あったのだが、これ以降急激に店舗数を減らし、2010年頃までにはほとんど見かけないレベルになっていく。
そして2007年、当時はDVDの郵送レンタル事業者だったNetflixが、PC向けの「月額料金制映像配信」をスタートする。当初テレビ向けの視聴はゲーム機を介したものだったのだが、2011年頃からはテレビでの対応も広がる。2015年までには、すでにアメリカトップの映像配信事業者になっていた。
日本での動きが本格的になるのは2015年頃のことになる。同年、Netflixが国内参入するとの観測を受け、Amazon Prime Videoも国内展開を開始し、Hulu Japanも経営体制を一新、テレビ局も映像配信事業を始めつつ、コンテンツ提供の準備をスタートした。
アメリカは世界で最も映像配信の導入が進んだ国であり、日本は導入がゆっくり進んでいる「後発組」だ。冒頭で述べたように、他国に対し先行する機会はあった。しかし、2015年頃に海外系事業者を含めた多数の事業者が参入し、サブスクリプション形式でのビジネス基盤ができあがったうえで、2020年からのコロナ禍である種の強制力が働いた結果、ようやくマスに普及し始めた……と言っていいだろう。
日本の場合、家庭でのPC利用率が他国に比べて低く、サービスの基盤となりづらい。結果として、スマートフォンが普及しきったところからのスタートとならざるを得ないので、どうしても他国より遅くなる部分はあったようだ。
だがテレビでの視聴を考えた場合、2015年頃からの普及、というのは悪いことばかりではない。むしろちょうど良かったところもある。その辺の事情については次回解説しよう。
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