世界中のスポーツカーは大型化、高級化傾向にあり、マツダ「ロードスター」のように小型軽量で手頃に買えるスポーツカーは珍しくなった。そもそもスポーツカー自体が希少なこの時代にあって、30年以上、4代に渡って販売が続いているのは、ひとえにロードスターが魅力的なクルマであることにほかならない。最新のRSグレードに乗って、そのあたりを考察してみた。
■今回紹介するクルマ
マツダ/ロードスター
※試乗グレード:RS・6速MT
価格:268万9500円~342万2100円(税込)
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まるでクルマと身体が一体になったような感覚が味わえる
ロードスターは、日本を代表するスポーツカーだが、トヨタ「スープラ」や「86」、あるいは日産「GT-R」や「フェアレディZ」とは決定的な違いがある。それは、ほかのスポーツカーと違って屋根を開けることができるオープンカーであるということだ。
一度でもオープンカーに乗ったことがある人ならわかるかもしれないが、屋根を開けて走ると周囲の風を感じられる。適度に風を浴びながら走ると、まるでクルマと身体が一体になったような感覚が味わえて、運転することの気持ちよさが、より深く感じられる。この感覚は、よく「人馬一体」などとも表現されるが、ロードスターはまさにこの「人馬一体」の権化のようなクルマである。
「人馬一体」の感覚は、1989年に登場した初代モデルの頃からしっかり味わえた。そしてそこが高く評価されたこともあって、ロードスターは世界的な人気車となり、現在まで販売されるロングセラーモデルとなった。
もちろん、屋根が開くことだけで長く支持されてきたわけではない。ステアリングを握ってすこし走っただけで、「すばらしい」とため息がでるクルマはそう多くは存在しないが、このロードスターは、乗った後にそんな気持ちにさせてくれるクルマなのだ。きっと多くの人が、期待以上のものを得られるに違いない。
ステアリングのフィーリングは若干軽めで、足まわりもソフトな味つけになっている。一見イージー過ぎてクルマ好きには物足りないかと思いきや、コーナーを攻めてみるとしっかり踏ん張るので、かなりの速度域でコーナリングが楽しめる。逆にいえば、誰でも操作しやすくて乗りやすい、ピュアなスポーツカーにしつらえられていて、“走りの楽しさ”というものを直球で味わえる。
エンジンは自然吸気式の1.5L、一種類のみだが、ボディが約1tと軽いため、加速感が気持ちいい。それに加えて、なんといっても重心が低いので、ノンターボの健やかな加速でもスポーティ感がたっぷり味わえる。走りの味付けとしては全体的に風情があって、ゆっくり走っていても楽しいのだが、これが屋根をあければ、2倍や3倍にも感じられるのだ。
なんだかこれで結論のようになってしまったが、現行型ロードスターの美点は走りだけではない。英国の古き良きライトウェイトスポーツカーをモチーフにした初代モデルのデザインは、レトロな趣で現在でも高い評価を獲得している。次の2代目モデルはスポーティさを誇張してワイドになったが、現役時代はさほど評価を得られなかった。そして3代目では原点に立ち返り、初代モデルのような丸みを帯びたノスタルジックな形状になったがボディは大型化していた。
こういった流れを受けて、2015年に登場した4代目となる現行型では、まずなによりボディサイズが小型化された。そこに、引き締まったモダンなスポーティデザインがまとめられることになった。昨今の高級スポーツカーにありがちな“無駄”なラインが省かれており、とにかくシンプルで美しい。サイズ感にもピッタリ当てはまる。
フロントまわりには無駄なエッジがなく、シャープでありながらどこか彫刻的だ。サイドからリアにかけては微妙なうねりがあって、動物の肢体を想像させる有機的なデザインにまとまっている。つまり、顔は清楚でありながら、お尻はセクシーなのである。
さらに、幌を閉じた状態で見てもスタイリッシュなのは、このクルマのバランスの良さや完成度の高さを物語っている。早くも「21世紀の傑作デザイン」という高い評価を得ているが、きっと10年経っても、20年経った後でも、高く評価されるに違いない。