Vol.124-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはアップルの新たな「M2」プロセッサーの話題。飛躍的な進化が難しいプロセッサーで同社が用いた手法を探る。
アップルは、MacとiPadに使われる自社設計半導体について、初代モデルにあたる「M1」シリーズから「M2」シリーズへの世代交代をほぼ終えた。
M2は2022年6月に発表され、すでに1年近く採用が続いている。一方で、最初に出たのは一般市場向けの無印「M2」であり、プロ向けなどのハイパフォーマンス市場向けの「M2 Pro」「M2 Max」が出たのは今年に入ってからだ。
M2が出たとき、アップル製品のファンなどからは“あまり変化がない”との反応もあった。劇的にプロセッサーの構造が変わっているようには見えなかったからだ。
確かに、プロセッサーの性能に大きく影響する「製造プロセス」について、M1からM2では大きなジャンプはなく“改良”にとどまっていた。そこで、CPUコアやGPUコアが増えたとはいえ、「ちょっと性能が上がったくらいだろう」と多くの人は捉えていた。
そして今年M2 Pro/M2 Maxが登場したとき、「今度はどのくらい性能が上がったのだろう」と疑問に思った人が多かったようだ。
両方を試した筆者は、なかなかおもしろいことに気づいた。
M1とM2のCPU周りの速度差はだいたい2割程度、GPU周りの速度差は3割程度となっている。では、M1 ProとM2 Proの差はどうか? 実はこれも、CPUで約2割、GPUで約3割となっている。
似た名前で技術的な世代も近いが、M1とM1 Proは性能も特質も違うプロセッサーだ。M1 Proは、CPU性能で約7割、GPU性能で約8割の差がある。
ではM2とM2 Proはどうか、というと、CPU・GPUともに7割強、M2 Proの方が性能は高い。
これはどういうことか?
アップルは、プロセッサーの世代が変わる際にしろ、プロセッサーがスタンダードかProかの違いにしろ、明確に性能向上のターゲットを定めて開発しているのではないか……と予測できる、ということだ。
プロセッサーが進化する際には、半導体製造技術だけが進化するわけではない。CPUやGPUのコアを構成する技術(マイクロアーキテクチャ)の進化や製造技術の“使い方”の進化、コア同士をコントロールする技術の進化など、複数の要素が絡み合う。その中で「世代差」「製品種別」での性能差にある種の法則性が見えるのは、アップルが“性能向上の割合を一定にして、定期的に世代を切り変えていく”設計思想を持っているのでは……という感触を抱かせる。
この辺は、次の「M3」世代が出てこないと正解が見えづらいところだが、アップルなら「さもありなん」とは感じる。なぜなら、半導体は自社が使うために設計しており、他社の事業を忖度してバリエーションを作る必然性がないからだ。製品ブランドの価値を安定させ、持続的に売っていくには、性能向上のイメージもわかりやすい方がいい。
アップルの製品戦略とプロセッサー開発戦略の関係が、少し明確になってきた気がする。
ただ一方で、「Mシリーズ」を使ったMacについては、まだまだ欠けている要素もある。その点については次回解説する。
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