デジタル
2023/2/10 11:15

【西田宗千佳連載】ソニー・ホンダのAFEELAに見る「EVはスマホ化する」仕組みと理由とは

Vol.123-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはソニー・ホンダモビリティがCES 2023で披露したEVの話題。EV設計の考え方を解説する。

↑AFEELA(アフィーラ)というブランド名は同社がモビリティ体験の中心に掲げる「FEEL」を表したもの。本プロトタイプをベースに開発を進め、2025年前半に先行受注を開始し、同年中に発売を予定。デリバリーは2026年春に北米から開始する

 

ソニー・ホンダモビリティの川西 泉社長兼COO(最高執行責任者)は、「AFEELA」のプロトタイプのデザインコンセプトについて「スマートフォン」と明言している。確かに非常にシンプルな線で構成されており、フィーチャーフォン=既存のスポーツカーと定義すると、スマートフォン=AFEELAと言いたくなるような形状ではある。

 

これはかなりコンセプチュアルな話であり、彼らとしては見た目でEVとしてのコンセプトを表したい……という意識で作ったのだろうと考えられる。

 

すなわち、自動車がガソリンベースからEVになっていくことで、フィーチャーフォンからスマートフォンに変わったような変化がやってくる、と強く主張したかった、という話である。

 

なぜそうなるのか? それはEVをどう設計するのか、という考え方の問題になってくる。

 

ソフトウェアで機能が変わるのであれば、それを司るプロセッサーや、実行に必要なメモリーなどは十分な容量が必要になる。だが、従来のガソリン車に近い考え方で自動車を作ると、「処理」は自動車を構成する部品のひとつでしかない。多少の修正は効く、アップデートが可能なように作ることはできるが、“性能が余る”ほど与えるとコストに跳ね返ってくるので、できるだけギリギリのプロセッサーしか採用されない。逆にそうなると、アップデートでできることも限られてくる。

 

過去はそれで良かった。エンジンや足回りの完成度が自動車の出来を決める部分であり、ソフトウェアは付加価値に過ぎなかったからだ。

 

だが、今後は違う。EVになりモーター駆動になると、エンジンの時代に比べ、差別化できる領域は減ってくる。

 

もちろん過去の自動車開発で培ったノウハウは重要だし、安全性能まで視野に入れると、そんなに簡単にEVを作れるわけではない。とはいえ、EVとしてのサイズや用途が異なっても、ガソリン車時代のように多数のエンジンやプラットフォームを開発する必然性は薄くなる。同じ機構のプラットフォームを、EVのサイズや用途に合わせてバッテリー搭載量を変えるなどの“カスタマイズ”でカバーできるようになってくる。

 

そうすると、EVを他社と差別化するには、ソフトの領域と、アップデートでの価値向上が大きな役割を果たすようになる。そうなると、スマートフォンの差異がソフトやそれを支えるプロセッサーで決まったように、EVについても、いかに高性能なソフトを走らせる“余力のある”ハードを搭載し、ソフトでの違いを際立たせられるのか……という話になると考えられる。

 

これはまさに、フィーチャーフォンとスマートフォンの違いである。そこでQualcommがソニーに接近してくるのも、また不思議な話ではない。

 

では、AFEELAでは具体的にどんなことができるようになるのか? その予測については、次回解説する。

 

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