長年、数多くの高級車を試乗レポートしてきた清水草一が、「これは謎の円盤だ!」と言うクルマ。それは、近年モデルラインナップにEV(電気自動車)を増やし続けてきた、メルセデス・ベンツの最新EV「EQS」だ。メルセデス・ベンツでは、車名のアルファベットで車格が表されており、「S」はフラッグシップモデルであることを示す。世界的ラグジュアリーメーカーによる、最高級EVの仕上がりとは?
■今回紹介するクルマ
メルセデス・ベンツ/EQS
※試乗グレード:EQS450+
価格:1578万円~2372万円(税込)
最高級EVの仕上がりは、例えるなら「謎の円盤」?
これまで試乗したメルセデスのEVは、どれもこれも、いまひとつな印象だった。ボディ骨格はガソリンエンジンモデルの流用だったし、航続距離も意外と短くて、実質300kmくらいしか走れない。ベンツの威光で効率がよくなるわけではないので、航続距離はバッテリー容量にほぼ比例する。贅沢なベンツだからこそ、贅沢装備が電気を食っているのか? などと想像していた。
ついでに書くと、ガソリン/ディーゼルエンジン搭載の新型Sクラスの印象もイマイチだった。これまでのSクラスのような、圧倒的な何かがなく、「先代のほうが凄かったなぁ」と感じさせた。メルセデスはすでに電動化に舵を切っている。だから内燃エンジン専用車であるSクラスの開発に手を抜いたのだろう。が、しかし肝心のEVモデルもいまひとつ揃い。「これで大丈夫なのかメルセデス!」みたいなことを密かに思っていた。
そんな状況で、ようやく主役が登場した。メルセデスの新しいフラッグシップ、EQSである。このクルマこそが、新しいSクラスなのだろう。いわゆるSクラスは、出たばっかりで「お古」になった。デザインを見た瞬間に、それが実感できる。EQSのフォルムは、横から見ると「謎の円盤」である。全長はしっかり5.2m以上あるが、前後の部分が極端に短く、どちらもなだらかに傾斜したどら焼き風味(どら焼きと書くと語感がアレなので、やはり謎の円盤とさせていただきます)。
超古典的な超高級セダンの象徴・Sクラスが、謎の円盤にリボーンしたのだから、時代の変化を感じざるを得ない。謎の円盤フォルムには理由がある。EVのモーターは、内燃エンジンに比べると断然コンパクトだ。逆にバッテリーは、できるだけ車体の中央部分に薄く広く敷き詰めたい。前後の短い謎の円盤形状になるのは、機能の要請なのである。
ライバルであるBMW「i7」が、内燃エンジンを積む7シリーズとボディを共用し、超伝統的な四角っぽいセダンフォルムで勝負をかけているのとは対照的だ。「この対決、どっちが勝つのか?」、外野としてはそこも興味深い。
話がそれた。EQSのドアを開けようとすると、ドアと一体化していたドアノブが、ドライバーを手招きするようにせり出してきた。さすが謎の円盤。ドアノブを引いて運転席に座ると、これがまた謎の円盤だ。運転席から助手席まで、3つの液晶パネルをガラスのカバーが覆っている。これまでも、左右にながーい液晶パネルは存在したが、EQSのソレは、インパネ形状の新しさと相まって、明らかにこれまでとは別の何かに見える。つまり謎の円盤のコクピットに見えるのである。
この「MBUXハイパースクリーン」、デジタルインテリアパッケージというオプションに含まれていて、価格は105万円。さすがSクラス! というお値段だが、これを付けないと、インパネのレイアウトは内燃エンジン車のSクラスと同じような感じになってしまう。EQSのお客様は、もれなくこのオプションを注文するに違いない。「これがついてなければ謎の円盤じゃないゼ!」なのだから。