電動自転車で約50%シェアを誇るパナソニック サイクルテックは、自動車との衝突を防ぐための通信機器を搭載した、電動自転車の実証実験を開始すると発表。その仕組みは自転車と自動車の接近を自動で感知し、双方にアラートを出すというもの。実験の模様を取材しました。
出会い頭の衝突をなくすための仕組みとは?
今回の実証実験が想定しているのは、見通しの悪い交差点での出会い頭の事故です。このようなケースを想定している根拠には、2点の調査結果あります。
まずは、自転車の死傷事故のうち約8割が自動車との事故であるという、警視庁交通局による調査。そしてもうひとつは、交差点の死角が原因で自動車と出会い頭の事故に遭いそうになったという人が、自転車ユーザーの6割近くもいたというインターネット調査です。
これらの結果から、自動車との出会い頭事故を防ぐことが、最も効率よく自転車事故を減らす方法であると推察できます。
自転車と自動車の衝突を防ぐために活用するのが、GNSSとITSです。GNSSは、GPSよりも精度の高い衛星測位システム。またITS(高度道路交通システム)は、専用の帯域により遅延なく通信を行えるシステムです。
実験では、自転車と自動車の双方にGNSSとITSのアンテナを設置。GNSSは自車の位置・速度・方位を常に計測しており、その情報をアンテナから発します。そして、自転車と自動車のITSが通信を行う“車車通信”を介して衝突するリスクがあると判断された場合、互いの端末にアラート画面が表示され、音でも注意が促されます。
さらに自動車が停止した場合、自転車側の端末には「お先にどうぞ」と表示され、安心して横断できることが通知されます。自転車から自動車へ、道を譲ってくれたことに対する感謝を示す機能も搭載されており、ライダーとドライバーのコミュニケーションまで考慮されているそうです。
見通しの悪い交差点を再現した実証実験
実証実験では、曲がり角の右車線にトラックを設置して、見通しの悪い交差点を再現。実際に事故が起こりうるシチュエーションを作っています。
実験の模様を見たところ、自転車がトラックによる死角に差し掛かったあたりで、アラートが発出。交差点に入る前に十分に減速できる距離を確保されている状態でアラートが出ており、急ブレーキをかけずとも停止できていました。
“出会い頭以外”の事故も減らすシステムに発展するか
今回の実験で想定されているシチュエーション以外にも、車車間のITS通信によって防止できる自転車事故は考えられます。それは、右折時の衝突事故、追突事故、自転車同士の衝突事故といったものです。
また今回は、車車間通信を活用しての事故防止の試みですが、通信機器やディスプレイを搭載した電柱(スマートポール)と自動車・自転車が通信を行えるようになれば、歩行者が関わるものなど、防止できる事故シチュエーションは大きく広がります。この実証実験が秘めるポテンシャルは大きいといえるでしょう。
自転車の市場規模は、人口減に伴う形で、近年はおおよそ年率3%減で推移しています。しかし電動自転車の市場は年率6%の割合で堅調に成長しており、自転車の電動化が進行中です。電動自転車であれば、今回紹介したような通信機器を搭載した場合の給電の問題もありません。今後の技術開発に、期待が高まります。