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2023/3/9 10:30

「未利用材」が美しいテーブルに。オフィス家具大手「オカムラ」が取り組む森林整備の社会課題

製品などの材料として使えない間伐材や、枝、葉、樹皮などの不要部分を「未利用材」と言います。森林整備の際に発生する未利用材が残されたままだと、木材搬出の妨げになったり、土砂災害で大きな被害をもたらしたりする危険性があり、実は社会課題にもなっています。その解決にひと役買おうとしているのが、オフィス家具メーカーの株式会社オカムラ。未利用材を使用した製品の発売を2022年11月からスタートしました。

 

未利用材を活用してテーブルの天板に

「きっかけは、当社のお客様でもあるエースジャパン株式会社様からのご提案でした」と話すのは、マーケティング本部の白井秀幸さん。

 

「エースジャパン様は京都にある物流の会社で、京都府森林組合連合会および各森林組合と連携し、CSRの一環として未利用材を活用した輸送用パレットを製造していました。商談の際、“学校の机など、未利用材を活用した製品を何か一緒に展開できないでしょうか”とご提案いただいたのです。当社は元々『オカムラグループ 木材利用方針』をかかげ、生物多様性の保全、木材の合法性の確保、森林認証材や国産材、地域材の利用など、森林資源の持続可能な利用を推進していました。すでに流通経路は確立されていましたし、社会的な意義とビジネスの可能性を感じ興味を持ったのです」(白井さん)

 

府域の75%を森林が占める京都府は、府民みんなで京都の森を守り育むための取り組みとして「京都モデルフォレスト運動」を展開しています。モデルフォレストとは、1992年の世界地球サミットでカナダが提唱した持続可能な地球づくりの実践活動のこと。京都発祥の企業や団体、大学、行政が協力し、エースジャパンも参加していました。

↑マーケティング本部 パブリック製品部 部長の北川博一さん(左)と、マーケティング本部 企画部 部長の白井秀幸さん

 

「最初にお話をいただいたのは2021年9月ごろ。翌月には契約に至り、協議の結果、まずはテーブルの天板から始めることに決まりました。強度や重量はもちろん、反ったり割れたりしないためにどう成型するか、喧々諤々しながら進め、製品化したのは2022年11月。クリエイティブファニチュア『SPRINT』シリーズの1つとして、未利用材天板を使用したテーブルをラインアップに追加したのです」(北川さん)

 

↑未利用材天板を使用したクリエイティブファニチュア『SPRINT』のテーブル

 

環境問題と向き合い、資材として有効活用を

先述したように、「未利用材」という言葉は定義付けられていて、森林整備の際に発生した不要な樹木や切り捨て材のうち、未使用の材のことを指します。今回同社では、低質材や根元部、曲がり材、枝や葉なども積極的に活用。回収した材を粉砕機でチップ化し、乾燥させた後に成型することで製品に使用しています。

 

↑未利用材の例と活用の流れ

 

「このお話をいただくまで私どもも知らなかったのですが、放置された未利用材が雨などで川に流れ込み、ダム湖の水面を覆うように溜まることに電力会社は頭を痛めていたそうです。今回、ダム湖を見学したのですが、遠くから見て陸地だと思っていた部分が、実は流木だと知って衝撃を受けました。電力会社は定期的にすくい上げて破棄していたのですが、森林からの未利用材だけでなく、そちらも回収して使用しています。

↑写真の左側はすべてダム湖に流れ着いた流木。まるで陸地のように見える

 

材の回収はエースジャパン様が行っているので、現在回収を行っているのは京都府内だけですが、未利用材の適切な処理はどの自治体も課題として捉えています。昨年11月に開催した当社の製品発表会の際も、多くの自治体や電力会社、企業が、未利用材の活用について関心を寄せていました。未利用材の活用は、森林整備に寄与すると同時に、災害時の被害の防止など、社会課題の解決にもつながります。すでに複数の自治体や企業から具体的な相談も受けていますし、今後は他の都道府県での展開も進めていきたいです」(北川さん)

 

のしかかる責任と多くの課題

現時点では『SPRINT』のテーブルだけですが、回収エリアの拡大と共に、今後は学校の机などいろいろな製品に未利用材を使用していきたいそうです。ただし課題もあります。

 

「未利用材の回収には森林組合や自治体の協力が不可欠ですが、当社の取り組みに興味を持つ自治体が多い反面、一企業が正面から未利用材の回収と活用を提案しても、簡単にはいかないのが現実です。仮に合意したとしても、加工できる工場の確保をどうするか、現在の工場へ輸送するとしても、コストや輸送によるCO2排出の問題があります。

↑朽ち果てた木々がチップ化され天板に成形される

 

また家具メーカーとして最も重要なのは製品の品質。チップ化すると強度を高めるために凝縮する分、重たくなります。例えば天板1枚にしても、大きくすればするほど反る確率が高くなるのでそれをどう対処するか、小学校1年生の机が重たくていいのかなど、クリアしなければならない課題は尽きません。また、どんなに“未利用材を回収します、使用します”と言っても、当社が売らなければ社会貢献が持続できない。そのあたりの責任も強く感じています」(北川さん)

 

目指すは47都道府県での地産地消

まだスタートしたばかりの取り組みですが、今後の展開についてはどう考えているのでしょうか。

 

「最終的には47都道府県での地産地消を実現したいと考えています。それが実現できれば、輸送に関する課題が解決するだけでなく、新しい雇用も生みだせます。そして何よりも、自分たちの住む地域の課題解決につながりますし、学校などで子どもたちにとっては木育の一環にもなります。例えば、道の駅で地元の野菜を販売していたりしますが、商品棚や箱、商品を袋に詰め込むためのカウンターなどに未利用材を使用することも考えています」(北川さん)

 

「自治体をはじめ、一般のお客様の中にも、国産材にこだわる方は一定数いらっしゃいます。未利用材の家具は、正真正銘100%国産材ですし、これまでの国産材の家具よりも安価なので需要は見込めると思います。また、SDGsをはじめ社会貢献が当たり前となった昨今、未利用材を活用した製品ということで、企業にとっても導入しやすいのではないでしょうか。今回の取り組みは、社会貢献活動に寄与できることはもちろん、ビジネスとしての可能性にも期待しています」(白井さん)

 

実は同社では、環境課題の解決に向けた取り組みとして、「サーキュラーデザイン」思考による製品開発をしています。未利用材を使用した製品についてもそれは当てはまるそうです。

↑オカムラの製品開発におけるサーキュラーデザイン思考

 

「限りある資源をより長く有効に使用し、廃棄物の発生を最小化するものづくりを当社は目指しています。未利用材を使用した天板は接着剤を使用しているため、すぐには再利用とはなりませんが、ゆくゆくは廃棄される製品を材に戻し、製品に再生することも考えています」(北川さん)

 

国土の約7割を森林が占める日本だけに、同社の取り組みは、社会的にも大いに注目されそうです。