ヘルスケア
2023/5/31 19:00

苦痛が人を若返らせる! サイエンスジャーナリストが説く健康の新常識「不老長寿メソッド」とは

ベストセラーの著者として知られ、著作やブログを通じて健康や科学などの最新の知見を発信しているサイエンスジャーナリスト、鈴木祐さん。著書『不老長寿メソッド -死ぬまで若いは武器になる-』では、肉体、メンタルから快眠、美容など、科学的エビデンスに基づいた多角的な “不老長寿” 術を紹介しています。

 

そこで、私たちがすぐに始められるアンチエイジングや健康術について、鈴木さんにかいつまんで教えていただきました。聞き手は、ブックセラピストの元木忍さんです。

『不老長寿メソッド -死ぬまで若いは武器になる-』(かんき出版)
人類が抱える史上最大の難題ともいえる「不老」をテーマに、世界中から集めた、すぐに実践できる、科学的効果が証明されたメソッドだけを厳選して紹介。老いを感じやすい肌・髪・体・心のアンチエイジングをカバーするだけではなく、老化を乗り越えていくための思考法やライフプランのヒントも教えてくれる。

 

薄い毒による苦痛が人を若返らせる

元木忍さん(以下、元木):日本人の寿命が伸びて、今後は “人生100年時代” のライフプランが重要になってきました。「いつまでも元気で若々しくありたい」と考えはじめた矢先にこの本と出会い、ひとつひとつのメソッドを自分ゴトとしてとらえながら読ませていただきました。
アンチエイジングにとって、とても有意義な考え方として、 “適度な苦痛が肉体的にもメンタルでも人間の能力を高める” という「ホルミシス」をメインに取り上げていますが、わかりやすくいうとホルミシスとはどんなものなのでしょうか?

 

鈴木祐さん(以下、鈴木):世の中に存在する物質は、⼤量に使うと有害であっても、微量に⽤いれば逆に有益な作⽤を果たします。この現象がホルミシス(ギリシャ語の「刺激」に由来)です。

 

元木:例として、「毒性の弱い病原体や抗原を体内に送り、人間の防御システムを活性化させることで、同じ病原体に襲われても病気にならない体を作り上げる」、ワクチンの仕組みを上げていましたが、わかりやすかったですね。

 

鈴木:簡単にいえば「薄い毒は役に立つ」ということです。ところで、元木さんは「体を動かすとなぜ健康になれるか」、わかりますか?

 

元木:ひと言で説明するのはむずかしいですね……。とにかく、スポーツをして爽快感や達成感を得られた時に「なんか健康になったな」という気分になりますよね。

 

鈴木:そうだと思います。ただ仮説は大量にあっても、明確な答えはいまだ解明されていないんです。そのなかでもっとも有効的な謎解きのヒントが、このホルミシスです。

↑みずからも不老のメソッドを実践する鈴木さん。「体操、筋トレ、テコンドーをやっています。人によってストレス耐性が違うので、ズバリどれがいいとはいえないですね。とにかく継続できることが大事ではないでしょうか」

 

元木:スポーツが好きな人は大勢いますが、運動も “苦痛” だということですか?

 

鈴木:原始の時代から、人は食糧を得るために、いやいや体を動かしていて、食欲が満たされれば、それ以外に体を動かす意味はなかったわけです。その結果、人間の脳には「運動を嫌う仕組み」ができあがってしまい、体を動かすことが苦痛になりました。

 

元木:著書によれば、サウナもホルミシスのひとつなんですね。

 

鈴木:そうです。70℃以上の高温に身を置くことで、心拍数も一気に上がりますから、ある種の苦痛をともなっています。一方で、サウナは軽いジョギングに近い運動効果を疑似的に再現してくれるので、心臓や血管の改善に役立ちます。これはフィンランドのデータですが、週に4~7回サウナを利用するグループは、サウナを利用しないグループに比べ死亡リスクが50%下がり、認知症やアルツハイマー病の発症リスクが65%も減ることがわかっています。

 

元木:認知症にも!? さらに著書にあった、ふだん健康にいいと思って食べている野菜さえ苦痛を与えているのということも驚きです。

 

鈴木:野菜に含まれているポリフェノールには酸化ストレスを与え、肉体に軽度の炎症を起こし、人体の抑制システムを起動する役割があり、肉体のダメージを修復しています。植物から苦痛を取り込むことで間接的に肉体を若返らせているといえます。ただ、この炎症が長引くと感染症や成人病の原因となり老化の一因ともなりますから、その本質は毒物ということになります。

 

元木:まさに「薄い毒は役に立つ」。ホルミシスがアンチエイジングや健康のキーポイントですね。

 

鈴木:人がもつ機能は、使わないと衰えます。使い続けるには薄い刺激を与えないと使ったことにならないのです。ただし、あまりに負荷が大きいと潰れてしまうので、そこは注意が必要ですね。

 

↑メンタル面でも、「快いストレス」が有効だそう。自分に与えられている苦痛を計る「リスクメーター」。スタンフォード大学などで使われている人生改善テクニックです

 

ただボーっとしていても “休息” にはならない

元木:ストレスも老化の原因といわれていますよね。ストレスをどう解消したら良いか、さまざまな本が出版されています。ダラーッとソファに寝転んでいることでストレス解消をしている人も多いと思うのですが、鈴木さんの本を読んだら、これは間違った休息法だったのですね。

 

鈴木:私も、部屋にこもってネットをしながら「これは楽だな」と思い、ストレスが薄らいでいくと思っていた時期もありました。でも、そんな日常を続けていると次第にしんどくなるのです。そこには主体性がなく、人から与えられたものを消費する受け身の姿勢なので、前向きな気持ちが生まれにくくなります。自分で目的を決め、それを少しずつ達成していかないと前に進んだ気が起きず、モチベーションがわかないのです。ダラーっとしているだけでは、いわば “休まされている” だけで、メンタルを病ますことにもつながります。

 

休憩の3ステップ

1.休憩の目的を明確にする
2.目的の達成に必要な休憩法を決める
3.必ず決めたとおりに休む

 

↑苦痛による刺激が若返りのシステムを起動させ、回復が若返りシステムを実行するといいます

 

元木:“攻めの姿勢” こそ、効果的な休息なんですね。これは個人的な疑問なんですが……例えば「ハワイに行くぞ!」を自分の目標にして仕事をバリバリしても、いざ行ってしまうと3日で飽きてしまうのはなぜですか?(笑)

 

鈴木:ハワイに行くことに主体性はあっても、現地ですることを明確に決めてないからではないですか?(笑) やるべきことも決めたうえで、それをこなしていくと飽きることもなく達成感も得られると思います。それはメンタルだけではなく肉体的にもいえることで ちょっと歩くだけでも血流があがって回復のための栄養が体にいきわたるので、ホテルでダラーッと過ごすより、アクティブに過ごした方が本当の意味で休息になります。

 

元木:そこが「休み方を間違えない」ポイントですね。

 

鈴木:ボーっとするのが悪いわけではなく、あくまで主体性が大事なんです。最初から「ひたすらボーっとする」と決めてボーっとすれば、休息になり、ストレスの回復につながると思います。

↑私的(?)なお悩みも交えながら話を聞く、ブックセラピストの元木さん

 

運動以外の活動も自覚すれば役に立つ

元木:効果的な運動法では「プログレス・エクササイズ」を取り上げていました。

 

鈴木:プログレス・エクササイズは段階的に負荷を上げていく運動法のことです。少しずつ苦痛のレベルを高めてホルミシス効果を狙います。

 

元木:プログレス・エクササイズはひとつではなく、何種類も紹介されていますが、一番ラクにできそうだなと思ったのは「プラセボ・トレーニング」ですね。プラセボって、有効成分の入っていない「偽薬」のことですよね。効くはずがないのに、薬を飲んだという思い込みで症状が改善するとか。

 

鈴木:まさに思い込みの持つパワーを応用したテクニックです。例えば、散歩や、掃除、洗濯など運動以外でも体を動かすことってありますよね。日常のささいな活動を意識して「今日は駅まで10分歩いた」とか、「駅の階段を20段のぼった」とかを、思い返していくのがプラセボ・トレーニングです。「自分は体を動かしている」と自覚するのが要点で、ハーバード大学が行った実験では、調査に参加した女性に、ふだん仕事で消費するカロリー数を教えただけで、4週間後にはみな一様に体重と体脂肪が減り、血圧まで改善したという報告があります。

 

元木:それは興味深いデータですね。どれだけ体を動かしているかを自覚するだけで効果があるということですよね。しかも、今日からでも簡単にスタートできそう!

 

鈴木: プラセボ・トレーニングを含め、スポーツのような運動ではなく、日常的な活動で消費されるエネルギーはNEAT(非運動性熱産生)といわれます。肥満の人ほどこのNEATが低いので、エクササイズを始める前に日常的な活動量を増やすことを考えた方が賢明です。どこまでNEATを増やせばいいか。その目安として役立つのが診断テスト「NEATスコアリング」です。チェックリストを使って点数をだしてみてください。NEATの達成レベルが判断できますよ。

↑日常的な活動(NEAT)を計ることのできるチェックリスト。点数によってNEATレベルが判定されます

 

日常生活の中でラクに若返る方法

元木:食事でも体に適度な苦痛を与えることのできる「AMPK⾷事法」というのがありますね。

 

鈴木:「AMPK」とは燃料センサーのような役割をもつ酵素のひとつです。体に必要なエネルギーが不足すると活性化し、効率よく代謝を促す働きを持っています。AMPK食事法はこの燃料センサーを刺激するための食事法です。プログレス・エクササイズが体を動かすことで、外部から刺激を与えるのに対し、こちらは内側から刺激してホルミシスを起動させます。

 

元木:先ほどのポリフェノールも、薄い毒としてAMPKを刺激してホルミシスを活性させるのですか?

 

鈴木:AMPK⾷事法の大きなポイントのひとつです。もう一つがファスティング(断食)ですね。

 

元木:ファスティングは良いと⾔われていますが、どんな効果があるのでしょうか?

 

鈴木:体重を減らすだけではなく、体内の炎症をやわらげる作用や、アレルギー性の喘息、関節炎の改善、脳の情報処理スピードアップなどの効果があります。ファスティングには、食事の時間を前後に90分ずらすもの、特定の時間に食事を限定するものなどいくつか方法がありますから、自分の生活スタイルで続きそうなものを選んで実践してみるといいですね。

 

元木:鈴木さんも、どれか実践されていますか?

 

鈴木 朝食を抜いて約16~18時間の空腹時間をつくる方法を続けています。苦にならないので、自分には合っているようです。

 

元木:本書には「快眠の基礎がわかるスリープ・チェックリスト」がありますね。私はとても寝つきが悪く、ぐっすり眠れないことが多いんです。お酒を飲んでから寝ることも……。

 

鈴木:お酒を飲まないと眠れない入眠は、睡眠の質を下げるだけなので習慣化しない方がいいですね。本書では、「寝室の温度は18~19度にする」、「寝室には時計を置かない」などデータに基づく快眠の方法もいくつか紹介していますから、ぜひ片っ端から実践してみてください。ハードな運動をして寝落ちするとか、睡眠を最優先する考え方にもっていくというのも有効です。しっかり寝ると翌日のパフォーマンスがまったく違いますし、アンチエイジングメソッドとしてもとても重要です。有名な事例にアメリカのユニバーシティ・ホスピタルズが行った試験があります。60人の女性に紫外線をあてて意図的に肌バリアを破壊したところ、睡眠の質の低い人は30%も肌の回復力が遅く、3日経っても肌が元に戻らなかったといいます。

↑睡眠の質を判断する「スリープ・チェックリスト」。睡眠不足の改善で日常生活も驚くほど変わるといいます

 

元木:美肌を保つスキンケアについても書かれていますね。

 

鈴木:結論からいうと、美肌の保持にとにかく重要なのは保湿です。とはいってもあまりやるべきことはありません。面倒なことを考えたくなければワセリンを使えばいい。高級化粧品などを使わず、毎日、少量のワセリンを肌に塗っておけば、問題はありませんよ。

 

楽観的な人ほど、元気で長生き

元木:“脱洗脳” の章にある「幸福な⼈ほど、⻑⽣きする」という、アンチエイジング科学の金言は大好きです(笑)。

 

鈴木:楽観的な人ほど寿命が長いということは、いろいろな調査で認められています。楽観的な人は悲観的な人より50~70%長生きだという報告もあります。幸福な人ほど若々しく寿命が長い理由は実ははっきりしませんが、楽観思考がライフスタイルを整え、日々のストレスも癒してくれることで生物学的機能にまで良い影響が出るのだと考えています。

 

元木:私は楽観的なので、毎日を楽しく生きていますけど、ネガティブ思考の人はつらいところですね。

 

鈴木:現代社会では「エイジズム」も問題にあがっています。エイジズムとは老化に対するネガティブな印象を意味する言葉で、世間が高齢者を社会的弱者と見なしたり、高齢者自身が「自分は老いぼれだ」と卑下したり、逆に周囲が高齢者に過保護になるといったこともエイジズムの一種です。それが侮れないのは、「老化に対してポジティブな人の方が、認知症リスクが低い」というイエール大学の調査データもあるからです。エイジズムに立ち向かえる人が健康寿命も長くなります。

 

元木:脳をエイジズムから解放する方法も解説されていますね。外見のチェック回数を減らすというのもおもしろい。

 

鈴木:鏡を見ないことですね。自分の理想と現実のギャップに落ち込み、見た目の若さを他人と比べて無限に落ち込んでいきます。人のSNSにアップされた画像を見るのも落ち込みやすいので健康によくありません。

↑鈴木さんは次回作の「才能をみつける本」を執筆中。今夏には刊行予定だそう

 

科学の視点でアンチエイジングの要点を一冊に

元木:「不老」のメソッドがたっぷりつまっています。なぜこの本を出版しようと考えたのですか?

 

鈴木:100歳以上の人口が世界で一番多いイタリアのサルデーニャ島や、心臓病の人が皆無に近い南米ボリビアのチマネ族のように、常識を超えた若さを保ち続ける人々の肉体にはどんな秘密があるのか。科学の視点でアンチエイジングの要点をまとめてみようと思ったのがきっかけです。

 

元木:アンチエイジングに関する情報は数多く出回っていますよね。

 

鈴木:この本では、1970年代から現在までに発表されたアンチエイジングの文献から、エビデンスの確実性が高いGRADEシステムなどにもとづいて質が高いものを抽出し、3000超えのデータを参考にしました。つまり信頼できる手法だけを集めた不老長寿メソッドの “ベスト盤” といえます。

 

元木:データの裏付けのあるものだけを集めたということですね。

 

鈴木:その方が、実践するうえでもモチベーションが上がりますから。

 

元木:その通りですね。私自身も日常的に参考にさせていただきます!

 

プロフィール

サイエンスジャーナリスト / 鈴木 祐

1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。近年はヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。

 

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブに在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」