ラーメン好きなミュージシャンとして知られる、サニーデイ・サービスの田中 貴さん。年間600杯以上を食べ歩く田中さんが、女性にイチオシのお店を紹介するとしたら? そんな発想からはじまった本企画も4回目。今回は異色の経歴を持つ店主の一軒にお邪魔しました。
おいしいものが大好きな店主のラーメンはやっぱりウマい!
前回の大塚と同様、山手線沿線の街のなかでは穏やかな駒込。しかも、駅から徒歩数分の場所にある、昔ながらの雰囲気が心地よい「霜降銀座商店街」にそのお店「麺屋 KABOちゃん」はあります。ここを知るきっかけは何だったのでしょうか。
「店名は主のニックネームなのですが、カボちゃんはもともと食べ歩き仲間。現在の『すごい煮干ラーメン凪 新宿ゴールデン街店 本館』が復活オープンした2008年ごろにお互いよく入り浸っていて、仲よくなったんです」(田中さん)
ラーメン好きの間で知らない人はいないというほど、窪川さんはラーメンマニアとか。ただ、ほかの料理にも精通しており、田中さんは窪川さんと一緒に全国食べ歩きの旅に出かけたことも。
「ラーメン以外だと、肉とスイーツが好きという印象。でも、たとえば京都の名割烹『祇園 さゝ木』から謎の超コスパドカ盛り焼肉店『焼肉はせ川』まで、色んなジャンルの人気店に行きましたね。当時のカボちゃんはサラリーマンだったので彼の休みの日とかに行ってましたけど、ラーメン屋になってからはなかなか遠出する時間がとれないみたいで。でも、作るラーメンは凄くおいしいので流石です!」(田中さん)
そうして、まずは定番の「しもふり中華そば」が到着。煮干しと削り節はそれぞれ4種、さらに昆布や椎茸をダシに重ね、醤油は濃口に加えて薄口と再仕込みの生醤油を使うという奥深い仕上がりになっています。
「昔ながらの中華そばの見た目を持ちながら、スープには鶏の旨みが満ちていて、醤油の豊かな風味が生きた最新型のラーメン。チャーシューも肉好きならではのおいしさで、あふれる旨みとプルンとした食感が絶品ですね」(田中さん)
そんな「麺屋 KABOちゃん」誕生のきっかけも、先述のラーメン店・凪が深く関係していました。この場所にもともとあった、凪グループの「西尾中華そば」を居抜きの形で受け継いだのが同店なのです。
「当初は凪の生田智志大将をはじめ、多くの有名ラーメン店主が『カボちゃんのためなら』って味作りのアドバイスをしてましたね。また、オープン後も定休日を使って研究を重ね、当時2013年の新人賞レースにノミネートされるほどの実力店に。その他の新人賞候補は有名店出身の実力派ぞろいだったから、そこに肩を並べるカボちゃんはやはり只者ではないなと」(田中さん)
メニューはバラエティ豊富。 特にスパイシーな味噌ラーメンは個性的
田中さんが「ほかにはあまりない味」とオススメするラーメンが、「スパイシー味噌中華そば」。そう、それはスパイシーなテイストにあります。明らかに普通の味噌ラーメンとは違う、旨みの奥にある魅惑的なアロマ。個性的ともいえるその味わいは「時に無性に食べたくなる一杯」と田中さんは言います。
「和の食材である味噌に、クミン、コリアンダー、カルダモンなどのスパイスでオリエンタルな香りをプラスしたのは大発明といえる独創的なもの。和山椒や、四川料理などで使われる花椒(ホアジャオ)のピリっとした刺激も絶妙で、クセになる風味なんですよ」(田中さん)
このほか「塩中華そば(¥750)」や「柿酢のつけ麺(醤油or塩 ¥850)」とメニューの種類が豊富なのも見逃せません。定番は醤油ですが、珍しいもの好きなら味噌、あっさり系が好みなら塩。さらにつけ麺派も楽しめるという間口の広さは、女性にオススメできるひとつのポイントだそうです。
女性に絶対食べてほしい旬の果物を使った夜限定のふわふわかき氷
でも、女性向けという点においてはさらにとっておきの魅力がありました。それが旬のフルーツを使った数種類のかき氷。味わえるのは夜の部だけですが、冬の寒い日でもオーダーが入る人気メニューなのです。たとえば「イチゴみるく」は、5年熟成のバルサミコ酢を使った濃密なイチゴシロップや、練乳を使わず絶妙な甘さに仕上げたミルククリームがふわふわの氷とベストマッチ。
「ラーメンひと筋の店主って、けっこういると思うんです。でも、カボちゃんはおいしいものなら何でも好きで追い求めるタイプ。そんな彼の美食愛をよく表しているメニューがかき氷といえるでしょう。僕はここに来たらラーメンのあとに必ず頼みますし、公式ツイッターのお知らせで食べたいフレーバーが登場した時も来ちゃいますね」(田中さん)
おいしいものがたくさん存在するなかで、窪川さんがかき氷を提供したいと思った理由。それは店舗の設備もさることながら、食べ歩くなかで衝撃的なお店に出合ったことと、そこでかき氷という料理の奥深さを知ったからだと言います。
「ラーメンとかき氷。どちらもそれなりに歴史のある料理ですが、ここ数年で劇的においしくなったと思うんです。それは研究熱心な先人のおかげというのもありますし、自由な発想で革新的な調理法や味わいが次々に登場して進化したからだと思います。僕はラーメンでは横浜の『吉村家』、かき氷では鵠沼の『埜庵(のあん)』が食べ歩きの原点ですね。どちらも、それまでの概念を覆すおいしさで、のめり込んでいきました」(窪川さん)
なお、かき氷は「霜降銀座商店街」の八百屋さんから毎日旬の果物を仕入れているのも特長。田中さんは「昭和の温かさがあふれる商店街の人たちに、カボちゃんが愛されているのがよくわかりますよね」と微笑みながらかき氷を完食。続けて、「店内も、狭いわりに居心地がいいのはカボちゃんの人徳あってのことでしょう。店名も、看板のデザインもかわいらしくて、雰囲気的に女性も入りやすいので本当にオススメですよ」と語ります。
ラーメンがおいしくて種類が豊富、さらにかき氷も絶品なのが「麺屋 KABOちゃん」の特長ですが、それを根底から支える店主の料理愛と人柄のよさが、その素晴らしさをより際立たせているのでしょう。絶品ラーメンとともに魅力的な店主が登場する本連載、次回もお楽しみに!
取材・文=中山秀明 撮影=若林良次
【Shop Data】
麺屋 KABOちゃん
住所:東京都北区西ケ原1-54-1
電話番号:非公開
営業時間:11:30~14:00、18:00~21:00 ※売り切れ次第終了。かき氷は夜の部のみ。
定休日:水
アクセス:JR山手線「駒込駅」北口徒歩7分
【Profile】
田中 貴
2008年に再結成を果たし、以来ライブを中心にマイペースながらも精力的に活動を続けるサニーデイ・サービスのベーシスト。年間600杯以上を食べ歩くラーメン好きとして知られ、TVや雑誌などでそのマニアぶりを発揮することも多い。バンドとしては2016年8月3日に通算10枚目のアルバム『DANCE TO YOU』を発売。そして10月21日の大阪を皮切りに、「サニーデイ・サービス TOUR 2016」を各地で興行している。ファイナルとなる12月15日の東京公演まで、音と麺の旅は終わらない。
【URL】
何気ない日常を、大切な毎日に変えるウェブメディア「@Living(アットリビング)」