2016年の12月15日に、本年の活動の千秋楽となるツアーファイナルを終えたサニーデイ・サービスの田中 貴さん。秋からはじまった本連載も月1回のペースで掲載してきましたが、そこには多彩なラーメンと個性的な店主の笑顔がありました。今回は総集編として、その4店の魅力を振り返ってみたいと思います。
贅沢な香りはもはやラーメンという名のふぐ料理
銀座の新生ファッションビルにある「八代目けいすけ」
2016年の春にオープンし、大きな話題となった「東急プラザ銀座」。そのなかにあるのが「ふぐだし潮 八代目けいすけ」です。店名が示すように、ふぐを贅沢に使ったラーメンが看板メニューですが、同店をセレクトした理由を田中さんが教えてくれました。
「買い物などで銀座を訪れた女性が、ゆっくりと楽しめることを観点にチョイスしたのがここ。八代目けいすけは無二といえる上品な味わいもさることながら、テーブル席が豊富にあるので居心地が抜群なんです。女性同士であれば、ラーメンを食べるだけでなくおしゃべりもしたいと思うんですよ。その点でいえば、カウンターだけの店よりもリラックスできる同店は穴場ですね」(田中さん)
ラーメンの特徴はふぐのダシ。しかも、とらふぐ、まふぐ、白さばふぐと3種類使うとともに、提供直前に“追いがつお”ならぬ“追いふぐ”でとらふぐのあらのダシを追加して、より芳醇な風味を際立たせています。
「ふぐは味が繊細なのですが、重ねることで旨みを高める技が秀逸ですね。全粒粉をブレンドした香り高い細麺が、スープと抜群にマッチしておいしい! 香味油にはイタリア産のトリュフオイル、トッピングにはふぐの刺身で使われる高級な『ふぐねぎ』や、通常より柔らかい希少な穂先メンマを採用するなど随所に贅沢な素材が散りばめられています。昆布締めされたふぐの身は旨みがジュワっと凝縮していて、そのほかワサビやスダチなど、さっぱりと味を変えられるアイテムもイイ! ラーメンという名のふぐ料理として、完全に成立していますね」(田中さん)
麺をたいらげた田中さんが「〆にぜひ試してほしいスペシャルメニューがあるんです」と、追加でオーダーしたのは「ふぐ茶漬け」(¥400)。食べ終わった後のラーメンのスープで楽しむという、ここならではの逸品です。
「お茶漬けとはいえ、ごはんがふぐのダシで炊かれているので香りが豊か。また、昆布締めのふぐが付いてくるのも嬉しいですよね。まずはそのままごはんの味を堪能し、次に切り身と一緒にまたひと口。そうしたら備え付けの焼き石をスープに入れて温度を上げ、切り身をのせたごはんに投入して食べるのがオススメですよ」(田中さん)
Shop Data
ふぐだし潮 八代目けいすけ
住所:東京都中央区銀座5-2-1 東急プラザ銀座B2
電話番号:03-6228-5033
営業時間:11:00~23:00(L.O.22:45)
定休日:不定休(東急プラザ銀座に準ずる)
アクセス:銀座線ほか「銀座駅」直結
取材・文=中山秀明 撮影=村田卓(go relax E more)
濃淡で選べるハイレベルな二枚看板メニューと
本格甘味を楽しめる渋谷のラーメンカフェ「九月堂」
お次は最先端トレンドが発信される街・渋谷から。にぎやかな駅前からは少し離れた、人気セレクトショップなどが点在する丘の上にあるのが「らーめんと甘味処 九月堂」です。
「雰囲気だけのカフェ“風”ラーメン店ではなく、ここは正真正銘のラーメンカフェ。パティシエ自家製のスイーツも楽しめる、ガチな店なんです。渋谷だけど、喧騒とは無縁の静かなロケーション。そして白が基調のお洒落な空間もイイですよね。もちろん、肝心のラーメンが抜群においしいのは言うまでもありません。ゆっくりできて甘味も楽しめるなんて、女性に嬉しい要素が満載ではないでしょうか」(田中さん)
メインのラーメンは、動物系スープと魚介ダシをブレンドした深みのある醤油味。そして「こってり」または「あっさり」から選べるのが特長です。女性向けということで田中さんにあっさりかを確認すると、意外な答えが返ってきました。
「マニアや行きつけの店があれば別ですが、普通はラーメン店ってたまに行く存在だと思うんです。なので、『どうせならこってり』っていう女性が僕の周りには多いんですよ」(田中さん)
そうして登場した「らーめん(こってり)」は、動物系スープが魚介ダシに対して6倍の割合で入ったとろみのあるタイプです。
「鶏ガラと豚骨のほか香味野菜の旨みも効いて、濃厚ながら優しさあふれる味がこってりの真骨頂。麺は国産小麦をメインに、外国産小麦を加えてコシを強めた中細タイプですね。濃度のあるスープをしっかり持ち上げるしなやかさを持ちながら、伸びにくいので女性がゆっくり食べるのにもオススメです」(田中さん)
洒落た店構えなので、こってりといっても濃度は控えめかと思いきやインパクトは十分。それは、店主の井上さんが濃厚豚骨の家系ラーメンの大ファンだからとか。とはいえ、もともと井上さんは淡麗系ラーメンで人気の「AFURI」出身。田中さん自身も「井上さんの実力の高さは、あっさりを食べるとよくわかりますよ」と腕前を絶賛。
こちらはカツオや煮干しなどの魚介ダシを、動物系スープの5倍になるよう配合。繊細な香りがふんわりと広がる、さらっとした味で絶品でした。そして食後のお楽しみといえば甘味です。実は甘いものも大好きという田中さんが、数あるメニューのなかから今回選んだのは「桜パフェ」。食べ終えると、深く感心しながら感想を聞かせてくれました。
「僕は甘すぎるくらいのスイーツが好きですが、ラーメンの後はさっぱりしてるほうがいいと思うんですよ。その点、さすがにここのパフェは計算されていて、甘さは十分にありながらも後味はすっきりしていてちょうどいいですね」(田中さん)
Shop Data
らーめんと甘味処 九月堂
住所:東京都渋谷区神南1-15-12 佐藤ビル2F
電話番号:03-6327-4056
営業時間:平日11:00〜22:00、土祝、11:30〜22:00、日11:30〜21:00
定休日:月(祝日の場合は翌火曜日が休み)
アクセス:JRほか「渋谷駅」徒歩8分
取材・文=中山秀明 撮影=石上彰(gami写真事務所)
名実ともに世界一!?
ミシュランガイドで星を獲得した大塚の「鳴龍」
本連載の取材から数日後、『ミシュランガイド東京2017』で一ツ星に輝いたラーメン店が、大塚の「創作麺工房 鳴龍」です。ほかの一ツ星ラーメン店は巣鴨の「Japanese Soba Noodles 蔦」だけなので、きわめてハイレベルですよね。居心地も素晴らしく、明るく清潔感あふれる店内にはボサノバが流れ、まったりとした雰囲気を醸し出しています。
おいしさに関しては、スタンダードなラーメンのほか担担麺も秀逸とか。骨格となるスープの完成度が抜群に高いので、何を食べても抜群においしいと田中さんは言います。
「例えば『醤油拉麺』。鶏と牛骨による動物系スープに牡蠣のエキスを加えた味わいは、重層的で奥行きがある感動的なウマさです。麺も、味が異なる担担麺とは別に打った、滑らかな中細タイプを使用。このスープと麺のコンビネーションがまた最高なんですよ」(田中さん)
田中さんは、この醤油拉麺あっての担担麺であるとも。ハイレベルなスープから生み出される担担麺に関しては、もはや”世界一”と断言するその味とは?
「店主の齋藤一将さんは、ホテルの高級中華レストランを経て、カリスマ的人気を誇った伝説のラーメン店で腕を振るっていた名手。担担麺の味のベースになる芝麻醤(チーマージャン)も手作りする本格派で、スープと麺は専門店ならではの高い完成度。本格的な中華料理店であってもスープはそこまで凝ったものではないし、自家製麺であることは稀。僕はこれよりおいしい担担麺を食べたことはありません」(田中さん)
ミシュランガイドで星を獲得したことは、田中さんとしても至福の喜び。しかも、実は田中さんは蔦の大西祐貴店主とも仲がよく、その大西さんと齋藤さんも親しい間柄だったというからその嬉しさもひとしおでしょう。ただ、「両店ともさらに人気が高まり、気軽に行けなくなってしまったので複雑な気持ちです」と田中さん。
Shop Data
創作麺工房 鳴龍
住所:東京都豊島区南大塚2-34-4 SKY南大塚1F
電話番号:03-6304-1811
営業時間:11:30~15:00、18:00~21:00
定休日:火(月は昼の部のみ)
アクセス:JR山手線「大塚駅」徒歩5分
取材・文=中山秀明 撮影=若林良次
おいしいものを知り尽くした店主ならではの
ラーメンと夜限定のかき氷が絶品な「KABOちゃん」
店主との交友も深く広い田中さん。なかには食べ歩き仲間だった友人が開業して人気店になるというケースも。それが2013年にオープンした駒込の「麺屋 KABOちゃん」です。同店の窪川剛史さんはラーメンだけでなくほかの料理にも精通しており、田中さんは窪川さんと一緒に全国食べ歩きの旅に出かけたこともあるとか。
「まさかラーメン屋になるとはと驚きましたが、当時は多くの有名ラーメン店主が『カボちゃんのためなら』って味作りのアドバイスをしてましたね。また、オープン後も定休日を使って研究を重ね、その年の新人賞レースにノミネートされるほどの実力店に。その他の新人賞候補は有名店出身の実力派ぞろいだったから、そこに肩を並べるカボちゃんはやはり只者ではないなと」(田中さん)
そんな同店の定番は「しもふり中華そば」。煮干しと削り節はそれぞれ4種、さらに昆布や椎茸をダシに重ね、醤油は濃口に加えて薄口と再仕込みの生醤油を使うという奥深い仕上がりになっています。
「昔ながらの中華そばの見た目を持ちながら、スープには鶏の旨みが満ちていて、醤油の豊かな風味が生きた最新型のラーメン。チャーシューも肉好きならではのおいしさで、あふれる旨みとプルンとした食感が絶品ですね」(田中さん)
一方で、田中さんが「ほかにない味」とオススメするラーメンが「スパイシー味噌中華そば」。明らかに普通の味噌ラーメンとは違う、旨みの奥にある魅惑的な味わいは「時に無性に食べたくなる一杯」と田中さんは言います。
「和の食材である味噌に、クミン、コリアンダー、カルダモンなどのスパイスでオリエンタルな香りをプラスしたのは大発明といえる独創的なもの。和山椒や、四川料理などで使われる花椒(ホアジャオ)のピリっとした刺激も絶妙で、クセになる風味なんですよ」(田中さん)
でも「女性向けという点においてはさらにとっておきの魅力がありますよ」と田中さん。それが旬のフルーツを使った数種類のかき氷。味わえるのは夜の部だけですが、かき氷マニアや食べ歩きの女性も多く訪れ、その評価も高い逸品なのです。この日食べた「イチゴみるく」は、5年熟成のバルサミコ酢を使った濃密なイチゴシロップや、練乳を使わず絶妙な甘さに仕上げたミルククリームがふわふわの氷とベストマッチ。
「ラーメンひと筋の店主って、けっこういると思うんです。でも、カボちゃんはおいしいものなら何でも好きで追い求めるタイプ。そんな彼の美食愛をよく表しているメニューがかき氷といえるでしょう。僕はここに来たらラーメンのあとに必ず頼みますし、公式ツイッターのお知らせで食べたいフレーバーが登場した時も来ちゃいますね」(田中さん)
なお、かき氷は「霜降銀座商店街」の八百屋さんから毎日旬の果物を仕入れているのも特長。田中さんは「昭和の温かさがあふれる商店街の人たちに、カボちゃんが愛されているのがよくわかりますよね」と微笑みながらかき氷を完食。続けて、「店内も、狭いわりに居心地がいいのはカボちゃんの人徳あってのことでしょう。店名も、看板のデザインもかわいらしくて、雰囲気的に女性も入りやすいので本当にオススメですよ」と語ります。
Shop Data
麺屋 KABOちゃん
住所:東京都北区西ケ原1-54-1
電話番号:非公開
営業時間:11:30~14:00、18:00~21:00 ※売り切れ次第終了。かき氷は夜の部のみ。
定休日:水
アクセス:JR山手線「駒込駅」北口徒歩7分
取材・文=中山秀明 撮影=若林良次
2016年の秋からはじまった本連載。毎回、田中さんの見識と人脈から様々なラーメン店が紹介され、抜群においしい一杯と魅力的な店主が登場しますが、これからもますます凝った内容でお届けしていきたいと思います。2017年もご期待ください!
Profile
田中 貴
2008年に再結成を果たし、以来ライブを中心にマイペースながらも精力的に活動を続けるサニーデイ・サービスのベーシスト。年間600杯以上を食べ歩くラーメン好きとして知られ、TVや雑誌などでそのマニアぶりを発揮することも多い。バンドとしては2016年8月3日に通算10枚目のアルバム『DANCE TO YOU』を発売しリリースツアーも敢行。全国各地でファンを熱狂の渦に巻き込んだ。年納めのライブは12月30日の「COUNTDOWN JAPAN 16/17」となり、音楽好きの注目を集めている。
http://www.sokabekeiichi.com/
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何気ない日常を、大切な毎日に変えるウェブメディア「@Living(アットリビング)」