ライフスタイル
2024/8/28 19:30

地域経済の活性化を身近に!増える“地産地消EC”の仕組みと活用がもたらすこと

ECサイトでの買い物が当たり前になり、生鮮食品でさえも日常的にネットスーパーで調達する時代になりました。一方で、新鮮な地元産の食材を購入する、いわゆる”地産地消”をしようとすると、道の駅など地域に足を運んだり、生産者と生のコミュニケーションをとりながら買い物をしたり。そういったやや負担が増えることで、忙しい家事や仕事の合間をぬって通うとなると、選択肢から除外されてしまうこともあるでしょう。

 

今、地産地消をスマートフォンから手軽にでき、地域に貢献できる……そんな食品流通サービスが続々と登場しています。サービス登場により、消費者の暮らしはどう変わるのでしょうか?

 

農業経済学が専門で、地産地消にも詳しい千葉大学の櫻井清一教授に、そもそもの地産地消のメリットや現在抱えている課題、スマホで貢献できる地産地消について教えていただきました。

 

「地産地消」とは?
消費者・生産者・事業者の立場で見るメリット

まずは、地産地消の定義とは何か、整理しましょう。櫻井先生によると、「同じ地域でとれた農産物はじめ食品を、同じ地域の消費者が購入したり、食べたり、消費したり……いずれか1つでも当てはまれば地産地消といえます」とのこと。

 

「地産地消というと“直売所で地元の農作物を購入する”というシーンを思い浮かべる方は、多いかもしれません。このケースは「消費者」と「生産者」の2者間の関係性だけでなく、物流から販売を担当する「事業者」も含めた3者間の関係がうまく機能している例といえるでしょう。事業者というのは、広義では、消費者と生産者をつなぐ人全般のことで、もっと具体的に言うと、直売所のほか、レストランやホテル、食堂などを指します。
とはいえ、3者間すべてが機能していなくとも、2者間の組み合わせいずれかが機能している状態であれば、十分地産地消といえます。組み合わせには「消費者×生産者」「生産者×事業者」「事業者×消費者」があります」(国立大学法人 千葉大学・櫻井清一教授、以下同)

 

「消費者」のメリット

・身近な場所から新鮮な農産物を得ることができる
・消費者自らが生産状況等を確認でき、安心感が得られる
・食と農について親近感を得るとともに、生産と消費の関わりや伝統的な食文化について、理解を深める絶好の機会となる
・環境に優しい生活につながる

 

「生産者」のメリット

・消費者との顔が見える関係により、地域の消費者ニーズを的確にとらえた効率的な生産を行うことができる
・流通経費の節減により、生産者の手取りの増加が図られ、収益性の向上が期待できる
・生産者が直接販売することにより、少量な産品、加工・調理品もさらに場合によっては不揃い品や規格外品も販売可能となる
・対面販売により消費者の反応や評価が直接届き、生産者が品質改善や顧客サービスに前向きになる

 

「事業者」のメリット

・市町村や栄養士には、学校給食で地場農畜産物を利用することで、生徒等の食育の推進につながる
・スーパーマーケットには、地場農産物コーナーの設置で新鮮で安心な農産物を求める消費者を確保できる
・レストランやホテルには、地元食材を活用した特徴のあるメニューを提供することで、地元客や観光客を集めることができる
・食品製造業者には、地元食材を利用することで、流通経費や環境負荷の軽減につながる

 

引用=「地産地消って何がいいの?」農林水産省 東海農政局

 

そもそも、地産地消という言葉ができたのは1980年代のこと。農林水産省が1981年(昭和56年)から4カ年計画で実施した「地域内食生活向上対策事業」が始まりだといわれています。これは、地域内の農産物の自給率の低さを何とかしようとする計画で、同じ地域でつくられた農産物は同じ地域で消費することを活性化させることを目指していました。

 

野菜の国内生産量と輸入量の推移。野菜の生産量だけみても、高度経済成長期の1960年代から1980年代半ばにかけては、人口増加による需要の拡大や施設園芸の拡大を背景に増加していきますが、1980年代後半から農業者の高齢化や労働力不足、漬物をはじめとする需要の減少などを理由に減少の道をたどりました。

 

地産地消という言葉が生まれて、40年ほどの月日が流れましたが、令和5年8月に公表された、農林水産省による「食料需給表」によると、日本の現在の食料自給率は、カロリーベース(※1)で38%、生産額ベース(※2)で58%となっています。世界と比較すると、カロリーベースで53位、生産額ベースで29位と低迷していると言わざるをえません。そんな中で、令和3年度の東京都の食料自給率はなんと0%!(※3)。改善が求められている状況です。

 

※1 人が生きていくために必要なエネルギー量に換算する方法
※2 経済的な価値として金額に換算する方法
※3 小数点以下、四捨五入で切り捨て

 

地産地消の課題解決は
3者間のコミュニティ化にあり

地産地消は、消費者、事業者の「需要」と生産者の「供給」が釣り合うことでスムーズに機能します。では、地産地消の課題はいったいどこにあるのでしょう? ここからは、3者それぞれの視点に立った時の課題について確認していきます。

 

・消費者視点

「忙しい日々の中では、加工食品を買って食べる『中食』やレストランや食堂に出向いて食べる『外食』、これを食の外部化といいますが、現代では当たり前のようになっています。とはいえ、毎日そのような生活では、健康面、コスト面で無理が来るかもしれないので、地元の新鮮な食材を使って自炊したいもの。しかし、直売所に行こうと思っても、時間コストと移動コストを考えると、見合っていなかったり、そもそもどこで地産地消の食材を入手できるかわからなかったり……。地産地消のあり方が現代人の生活にマッチしていないこと、情報量不足が課題です」

 

・生産者視点

「地産地消を一層促進するためにはまず、地域内で農作物や食品の生産を安定的にさせることが大切です。しかし、作りすぎてしまえば、その分の労力と販売・廃棄コストがかかるうえ、食品ロスによる損失まで負わなければなりません。リスクとコスト面の兼ね合いから、既存の販路以外には販売しない選択をとる生産者も多いです。消費者と事業者の需要の見える化と確保が課題です」

 

・事業者視点

「ここでの事業者を、仮に、食材にこだわるレストランだとします。そんなレストランなら、流通コストも抑えられるし、地元の新鮮な食材を使いたい!というニーズがあるはずです。ところがレストラン側は地元の農家を知らないので、どこで入手すればいいのかわからない。そんななかで、知人の紹介などでたまたま知り合った農家と個別に知り合っているケースは実際のところ結構多いんです。しかし、いろいろなメニューを提供しようとすると、多品目の食材の入手は欠かせません。そうなると、1つの農家だけでまかなうことは非常に困難。結局、コストアップは免れませんが、様々な事業者からの取り寄せに頼らざる終えない事業者が多いのが現状です。また、複数の農家と運よく知り合った場合でも、必ずしも大量流通に対応していなかったり、物流システムが整備されていなかったりすることもあるため、ここでも品目数の確保と流通コストに悩まされる場合も。生産者と事業者の2者間のコミュニティを広げること、物流システムの整備が課題です」

 

スマホからできる!
地産地消を促進するサービス4選

地産地消の課題を解決するかのように、消費者、事業者、生産者、いずれかを繋ぐ仕組みが続々と登場しています。そのなかで今後注目されそうなのが、スマホから簡単に参加できる手軽さが魅力のアプリやサービスです。

 

・生産者に寄り添い事務処理の負担も軽減「食べる東京」

「食べる東京(食べるTOKYO)」
【生産者×事業者】

東京の生産者と東京の飲食店、小売店事業者をつなぐオンラインの直売所。必ずと言っていいほど課題になる、畑からの物流・配送システム・請求書やクレジットなどの決済機能も充実しており、事業者に寄り添います。生産者にとって負担となる野菜の登録も30秒で完了するシステム。物流に関しては、近くの集荷場に納品して完了とシンプルさを極めます。

 

「生産者と地元のレストランや小売店、ホテル(事業者)をつなげるというのは、地産地消の中でも、優先順位の高い取り組みだと思います。多忙を極める消費者たちの食生活は、すでに加工された食品を購入して食べる『中食化」、レストランや食堂といった飲食店に出向いて食べる『外食化」が進んでいます。そんなニーズに合わせるように、新鮮でコストも安い地元の食材を使いたい、という飲食店も増えている中で、速やかに食材を供給することができます。生産者の数をネットワーク化すると、当然その地元の農産物や食材が集まりますよね、事業者の選択肢が広がるのは、事業をするうえでかなりのメリットになりえるといえます。多品目の食材を欲しがっている飲食店とマッチングさせる仕組みとして面白いサービスです」

 

・マップで一目瞭然! 事業者の気軽な情報発信をサポート「ロカスタ」

「ロカスタ」
【消費者×事業者】

直売所や飲食店といった事業者が、食品情報や地産地消メニューを消費者に発信できるアプリです。情報を見た消費者は、直売所で購入したり、飲食店で食事することで新鮮な農林水産物を消費でき、地産地消につながる仕組みです。各自治体がサービスの導入元となっており、2024年7月時点では、東京都練馬区と東村山市で導入されています。アプリ開発元は、他のエリアにもサービスを拡大できるように精力的に活動中です。
例)
・練馬区「とれたてねりま」
・東村山市「ロカスタ」
※サービス名は、各自治体によって異名称が異なります。

 

「地方より、むしろ都市部でフィットするサービスだと感じました。生産者の数が多い地方では、直売所は大型化され、販売先の生産者の集約化が図られるのに対し、都市部のほうには、小規模な農家単位の直売施設が点在しています。そんな中で、消費者がどこの畑や路地に何が売っているのかをすべて把握するのは至難の業。それをたちどころにマップ上で示してくれるのは便利な情報源になりえると思います。アプリなら、情報の更新も容易ですし、時代に合ったサービスでしょう」

 

・食品ロスを減らしながら地産地消にも貢献!「タベスケ」

「タベスケ」
【消費者×事業者】

食品ロスの削減のため、消費者と事業者をつなぐフードシェアリングサービス。事業者は、あまった食材や料理をアプリ上に登録。消費者からオファーがあれば取り置きし、実店舗にてお会計と引渡しを行います。なお、サービスの導入元は自治体で、2024年7月時点で利用できるのは、全国で24の自治体となっています。
サービス提供エリア一覧
※サービス名は、各自治体によって名称が異なります。上記URLからサービス名を確認してください。

 

「このサービスは、賞味期限が近くなった商品を売り切りたい事業者とお得に買いたい消費者を繋ぐことが主目的と思われるので、食品ロスに貢献する意味合いが強くなります。ただ、実際に購入したり物流するのは、事業者と消費者です。消費者がお店に出向くスタイルなので、そこまで遠出することは想定していない。となると、協力してくれる消費者は近いところに住んでいるので、うまくマッチングできた結果としての地産地消になるでしょう」

 

・ECサイトで決済したら、あとは取りに行くだけ!「ハックツ!」

神奈川県藤沢市で活動する農家や飲食店の農産物や加工品を購入できるECサイトです。サイト上で注文から決済まで完了したら、商品は、藤沢市内の指定場所まで、消費者自ら取りに行く点がユニーク。この仕組みにより、消費者もおのずと地元民に限られてきます。地域に暮らす人たちが、よりよい暮らしのために何をするべきか考え、積極的に行動に移す「自律分散型社会」を目指す狙いがあります。

 

農家直送の野菜セット。普段の買い物では手にとらないような食材が組み合わさることで、どんな野菜に出会えるのかワクワクしたり、料理のレパートリーが増えたりと、日常生活がポジティブになったという声も。

 

「自宅の近くのスポットで多様な出荷者の産品をまとめて受け取れる点が、消費者からみれば便利なシステムだと思います。生鮮食品のバラエティもなかなか豊富です。単品での販売だけでなく、こだわりの地元野菜を組み合わせたボックス、セットの販売もみられます。こうした売り方は、アメリカやカナダでの地元野菜の販売スタイルに似ていますね」

 

 

一般の消費者が地産地消に貢献したい、と思った時に手軽なのは、まずは「ロカスタ」と「ハックツ!」。スマホ片手に地産地消を取り入れた生活にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

 

 

Profile


国立大学法人 千葉大学 教授 / 櫻井清一

1967年、群馬県生まれ。東京大学文学部社会学科卒。1989年より農水省中国農業試験場(現:近畿中国四国農業研究センター)にて農産物流通の調査研究に従事。2001年より千葉大学園芸学部助手。2003年千葉大学より博士(学術)。同年より園芸学部助教授。2010年より園芸学研究科教授。農業経営学会学術賞・農業市場学会学術賞・農村生活学会学術賞受賞(いずれも2008年)

【主な研究テーマ】
農産物および加工食品のマーケティング論。農産物直売活動(農産物直売所の組織運営、出荷者の行動、直売を介した生産者と消費者の交流など)。農村部における社会関係資本の分析(農村の伝統的集団と新たな組織の評価、住民意識の変化等)。農村経済の多角化(都市農村交流事業の評価、ローカル・フードシステム、中小食品企業の連携等)