冬に風邪やインフルエンザが流行るのは、乾燥や寒さが原因。そう考えられてきましたが、近年では冬期の紫外線照射不足によって、体内でのビタミンDの生成量が減り、免疫力の低下を招いていることが関係していることがわかってきました。ビタミンDは骨の生成に関わるだけではなく、免疫の調整や腸内環境の改善など、健康寿命を伸ばすために欠かせない、とても重要な栄養素だったのです。
ビタミンDの重要性を早期から訴え、積極的な摂取を啓発してきた日本機能性医学研究所所長で医師の斎藤糧三先生に、ビタミンDの隠された実力と1日に必要な量、生成に関わる効果的な習慣や摂取方法を解説いただきました。
過度なUV対策、デスクワーク…
“ビタミンD不足”が世界的に蔓延する理由
ビタミンDが世界的に不足していると言われています。日本でも、東京慈恵会医科大学の調査により約 98%の日本人が不足していることが判明しました。ではなぜ、ビタミンDが不足してしまうのでしょうか?
「紫外線照射不足が原因です。ビタミンDの主な供給源は、紫外線照射による皮膚での合成。そのため、1日に必要なビタミンDを生成するには、ある程度日光を意識して浴びることが必要です。しかし現代では、紫外線はシミ、しわを作る、皮膚がんになるなどといった害悪のイメージが強く、浴びることを敬遠される方もいらっしゃいます」
とくに若い女性で、極度に紫外線を恐れ、日傘や帽子に加えて、UVカットウェアやアームカバーなどまで駆使して、全身を防御している方も多いですよね。紫外線が照射される範囲がせまくなればなるほど、ビタミンDの生成量は減るのです」(日本機能性医学研究所所長、医師・斎藤糧三さん、以下同)
1日に必要なビタミンDを
補給するのは意外と大変だった!
日光を浴びる量が足りない分、ビタミンDは食事で補えるのでしょうか?
「ビタミンDを多く含む食品は限られているため、毎日の食事だけで充足させるのは至難の業です。また、日光は直接浴びなくてはなりません。ガラス越しの日光は、ビタミンDを作る紫外線(UVB)を遮断してしまうため、部屋の中にいてはビタミンDは作られないのです。
さらに、日光量は季節・時間帯・場所によって変わります。冬の紫外線量は、夏の約10~15分の1まで減ることも。その上、現代では過度なUV対策以外に、デスクワークや在宅ワークなどで屋内にいるライフスタイルが広がっているため、十分な日光浴ができていないのです」
【ポイントまとめ】
・毎日の食事だけでビタミンDを充足させるのは難しい。
・ガラス越しに浴びる日光ではビタミンDは生成されない。
・1年のうち紫外線量は5月〜8月がもっとも多く、多い時間帯は日中の9時~12時。
・9月~4月頃までは紫外線量が減り、充分な血中濃度を維持する量を合成できない。
いま注目される
ビタミンDの意外と凄いパワー
斎藤先生はいち早くビタミンDの機能に着目されたそうですが、そのきっかけは何だったのでしょうか?
「2007年のアメリカの機能性医学学会でビタミンDは免疫を正常に働かせる作用があることを知り、『もしかして、花粉症はビタミンD欠乏症のひとつなのでは?』と考えたことがきっかけです。
一方で、以前から『なぜ冬にインフルエンザが流行るんだろう? 花粉はいつでも舞っているのに、なぜスギ花粉の時期に症状が悪化する方が多いのだろう?』ということを疑問に思っていました」
その効果は、先生自身が体験し実感したそう。
「私自身も花粉症持ちだったため、早速ビタミンDを1日当たり100㎍(4000IU)摂取してみました。すると、症状がすぐに改善したのです。そこから花粉症のひどい関係者にも摂取をお願いしたところ、目のかゆみやくしゃみが軽減、鼻づまりがなくなるなどの花粉症の諸症状がなんと1時間ほどで改善。ビタミンDの有効性を確信し、自身のクリニックで高濃度ビタミンDサプリメントを投与する治療を開始しました。多くの方が長年悩まされてきた花粉症の完治や改善を実感されています」
ビタミンDには、ほかにも多様な働きがあるそうです。
「ここ10年ほどで、ビタミンDには、さまざまな生理作用があることが明らかになってきました。若年層女性に関わる主な働きを4つ挙げてみましょう」
1.骨代謝を正常にする
食品からのカルシウム吸収を助け、骨を作る骨芽細胞や骨を壊す破骨細胞の両方を活性化し、骨の代謝を促進します。閉経後の骨粗しょう症の発症を心配される方も多いと思いますが、骨密度は20代前半でピークに達して40代まで維持し、その後減っていきます。20代、30代では、最大骨量をできるだけ高め、減少量を抑えることが大切です。そのためにビタミンDは欠かせません。
2.免疫力・抗菌力がアップする
免疫とは体を有害物質から守る仕組みで、外から入ってきたウイルスや菌と戦う力のことです。ビタミンDにはこの免疫力を調整する働きがあります。コロナ禍では、新型コロナウイルスが重症化する原因の一つにビタミンD欠乏が関連する研究が数多く報告されました。また日本でも、ビタミンDを摂取すると、インフルエンザの発症率が低くなるという調査結果が報告されています。ほかには、歯周病にも効果があります。
3.腸内フローラを整える・粘膜を強化する
腸は免疫システムの司令塔ともいわれ、免疫細胞の6~7割が腸に集中していると言われています。花粉などのアレルギーは、免疫システムの過剰反応ともいわれ、花粉を異物とみなし、侵入を防ぐために鼻水やくしゃみなどを引き起こします。ビタミンDはこの過剰反応を抑えます。また、腸のバリア機能が失われると、腸から全身にアレルギー物質が送られ、免疫反応を増強し花粉症をひどくさせてしまことがあります。ビタミンDには、腸内の悪玉菌を減らして、腸内フローラを整える働き、腸粘膜を強化する作用もあり、腸内環境の改善に密接に関わっています。
4.セロトニンの代謝を調節する
脳の興奮を抑え、心身をリラックスさせ、情緒を安定させる効果がある、別名「幸せホルモン」とよばれる『セロトニン』の代謝を調節します。冬季うつという言葉をご存知でしょうか。冬場は一年の中でも紫外線照射量が最も減り、セロトニンの代謝が低下し、イライラする、不安を感じやすい、睡眠の質が低下することで自律神経機能が低し、めまいや頭痛になるなどの症状を引き起こします。このため、冬場はより一層、ビタミンD摂取を心がけていただきたいと思います。
「そのほかにも、筋肉量を維持したり、慢性的な痛みを緩和する、美肌の維持に貢献するなど、さまざまな効果があります」
近年もっとも注目される
「がん」発症後も死亡率減少の効果が実証
近年、ビタミンDでもっとも注目されている健康効果について教えてください。
「2023年に東京慈恵会医科大学が発表した国際共同研究によると、ビタミンDサプリを適切に摂取することで、がんの死亡率が12%減少していることが明らかになりました。また、発症前から内服していた場合は13%、発症後でも11%の癌死を予防、発症後のビタミンD摂取でも効果があることがわかったのです。
また国立研究開発法人国立がん研究センターが行った血中ビタミンD濃度とがん罹患リスクとの関連を調べた調査では、血中ビタミンD濃度が上昇すると、何らかのがんに罹患するリスクが低下することが分かっており、ビタミンDはがんの予防効果も期待できます」