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2024/11/22 6:00

日本では「明らかな強み」がある! 業界初「マイクロミスト掃除機」開発・製造のこだわりを工場見学で実感

10月下旬に発売された、パナソニックの最新コードレススティック型掃除機MC-NX810KM。クリーンドック(自動ゴミ収集機能)を搭載するほか、業界初となるマイクロミスト機能を搭載し、掃除の新しい形を提案するフラッグシップモデルです。

 

今回、本機を製造しているパナソニック・八日市工場を取材する機会を得ました。本稿では、日本人の暮らしに寄り添って開発された本機の魅力、製造の様子をお届けします。

↑パナソニックのセパレート型コードレス掃除機。右端が新製品のMC-NX810KMです。収集したゴミを回収するクリーンドックが付属しています

 

業界初のマイクロミストのサポートで微細なゴミやホコリを吸引

MC-NX810KMの特徴は、何といっても業界初のマイクロミスト機能です。本機のノズルの前方には、約10マイクロメートルの微細な水の粒子が噴射され、その後に吸引を行います。このミストの役割は、目に見えないほど小さなゴミを吸着して吸い込みやすい状態にすること。従来の吸うだけの掃除機では捉えきれなかった微細なゴミやフローリングの小さな窪みに入り込んだホコリも、本機であれば吸引できます。

↑本機のノズルから吹き出すマイクロミスト。光っているのは、床のホコリを見えやすくするLEDライトです

 

マイクロミストの粒子は、一般的な超音波式加湿器と比較しても圧倒的に小さく、床についたあとすぐに揮発してしまいます。そのため、本機で掃除した直後の床を触っても、湿り気を感じることはありません。また、畳や絨毯の床にも、このマイクロミストは使用可能です。

↑マイクロミストを噴霧するデバイス。超音波振動で、水の粒子を噴き出します

 

水拭き掃除機と違ってフローリング以外にも使える

本機のマイクロミスト機能は、水拭き機能付きの掃除機と比較されがちですが、モップの洗浄が不要で、汚水が発生せず、フローリング以外の床にも使えるという3点で異なります。水拭き機能付きの掃除機では畳や絨毯の床面を掃除できないので、これは本機の明らかな強み。このマイクロミストは、パナソニックによる全く新しい掃除の形の提案なのです。

↑水拭き掃除機と違って畳の上を掃除できるのは大きメリット

 

本機のヘッドブラシは、新設計の「からまないブラシPlus」。その名の通り、髪の毛やペットの毛が、このブラシに絡むことはほとんどありません。さらに、ブラシの素材に密度の高い繊維を採用したことで、ブラシと床の接地面積が広がり、毛を吸い取る能力がアップしているといいます。工場では、絨毯に絡まった毛を吸うデモを見ましたが、確かに本機の能力は明らかに優秀だと感じました。

↑従来機の「からまないブラシ」(下段左)と、新開発の「からまないブラシPlus」(下段右)。繊維の密度や細かい構造が改善されました

 

多様な床に適応できるよう日本の住宅に合わせて開発

MC-NX810KMは、日本の住宅環境に合わせて開発された製品です。欧米では住宅内でも土足で生活するのが基本であるため、外から持ち込まれた土埃が多くなります。一方の日本人は素足や靴下で過ごすので、細かな綿埃が多くなるのです。

↑海外と日本では、床面に落ちているゴミが異なります。パナソニックの調査によると、日本では過半数の人が、自宅内では裸足で過ごしているそうです

 

また、海外の住宅の床がほとんどフローリングで構成されるのに対して、日本の住宅では、フローリング、畳、絨毯が混じっています。ゆえに、日本の掃除機では多様な床に対応できる汎用性が求められますが、マイクロミストは、こうした日本の特殊な床環境にしっかりと適応します。マイクロミストは、日本人の暮らしに寄り添うためのパナソニックなりの回答といえるでしょう。

↑細かな粉(コーンスターチ)を床面に撒き、マイクロミストあり(右上)、マイクロミストなし(左下)で掃除したあとの床面。マイクロミストなしで吸引しただけの左下には白い粉の跡が残りましたが、ミストを撒いてから吸引した右上はキレイになっています

 

本機の開発の過程では、同社の従業員の家庭で出たゴミを吸引する検証を何度も実施したそうです。一般的な掃除機の開発では、綿、髪の毛、砂を混ぜたゴミによる試験が行われます。ですが、実際の家庭で出るホコリには、ダニの死骸やフン、フケなど、多様な物質が混じっています。そこでパナソニックでは、従業員の家庭で出たゴミを加工した「家庭じんあい」を用意。暮らしの現場に近い環境での検証を経て、実際の日本の環境により適合した一台が生まれました。

↑家庭じんあいは、家庭で出たゴミに滅菌処理などの加工を施したものです

 

手作業で丁寧に組み上げ、緻密な検査を経て出荷

MC-NX810KMを製造しているパナソニック八日市工場は、1971年に操業を開始した掃除機の専門工場です。スティック掃除機、ロボット掃除機、キャニスター掃除機、あるいは業務用掃除機まで、日本の掃除機の歴史が作られてきた場所といえます。工場に併設されたショウルームに並んだ歴代の製品を見ると、その歴史を体感することができました。

↑八日市工場のショウルームに並ぶ、現行製品。日本のみならず、海外で販売されている製品もあります

 

↑現行製品の横には、歴代の製品が展示されています。右下の黒板消しクリーナーは、形を変えずにいまも売れ続けている超ロングセラー商品。学生時代に使ったという読者も多いのではないでしょうか

 

ここからはいよいよ本機の製造過程を見学。なかでも印象的だったのが、多くの手作業が必要とされていた点です。特に、持ち手周辺のモーターが内蔵された部位や、マイクロミストを噴射するノズルの組み立て作業の現場では、たくさんの人が手を動かしていました。工場の担当者によると、これらの箇所は細かな部品が多く構造も複雑なため、ロボットによる組み立てが難しいとのこと。本機のコンパクトなノズルに組み込まれている部品の数は、40にも及ぶそうです。

↑ノズルの組み立て作業の様子。集中力と手先の器用さが求められる作業です

 

たくさんの人の手がかかって製造された製品は、緻密な検査を経て、出荷されていきます。掃除機の心臓であるモーターは正しく動作しているか、感電を防ぐために重要な絶縁耐力に問題はないか、マイクロミストは適切な量がムラなく噴霧されているかなど、検査項目は多岐に渡ります。マイクロミストの検査については、タンクに入れる水の温度を水道水と同じ20度にして行うという念の入れよう。一見地味に映る検査の工程も、高品質な製品を消費者の元へ届けるため、不可欠なものです。

↑モーターが内蔵された部位に、絶縁耐力の試験をしているところ

 

↑マイクロミストデバイスの検査では、1分間連続して駆動させ、目視による確認を行います

 

再生樹脂を効率的に活用する取り組みを行う

環境への配慮も、パナソニックがこだわっているポイントです。本機を含む掃除機の多くの部品には樹脂が使われていますが、同社ではその原料に再生樹脂を用いる取り組みをしています。再生樹脂には、成形の過程で内部にガスが発生し、製品の外観を損ねてしまうことがあるという欠点もあります。この問題を乗り越えるため、同社では金型の定期清掃などの対策を実施し、再生樹脂の活用を進めています。また一部の製品には、再生樹脂に再生紙パウダーを混ぜ込んだ独自の原料を使用しています。

↑射出成形機。成形のあと、同じ機械でレーザー印刷を行います

 

↑工場の屋上には、テニスコート19面ぶんのソーラーパネルが敷かれています。八日市工場では、2030年のCO2排出量実質ゼロ達成を目指し、省エネ・創エネの取り組みを続けています

 

価格に見合う確かな品質で、初動の売上は好調

MC-NX810KMの実売価格は8万9100円(税込)。掃除機としてはかなり高価であり、業界初の新機能の搭載とあわせて、パナソニックにとってチャレンジングな製品です。しかし同社の担当者によると、売上の初動は好調とのこと。クリーンドックが付属しないかわりに約3万円ほど安価なモデル・MC-SB70KMも同時に発売されていますが、MC-NX810KMのほうが売れているそうです。価格に見合うだけの確かな品質が、支持を集めている理由でしょう。

 

業界初のマイクロミスト機能を搭載したMC-NX810KM。パナソニックの掃除機の業界初といえば、2021年、コードレススティック掃除機として初めてクリーンドックを搭載した機種を発売したのが記憶に新しいところ。コードレススティック掃除機のクリーンドックはいまでこそ当たり前の存在になりましたが、その先駆者は同社でした。それを思うと、いまから数年も経てば、マイクロミストが掃除機に必要不可欠なものになっているかもしれません。