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2019/12/25 18:00

ついに始まったハイレゾ定額配信「mora qualitas」――サービスインから約2か月の「良いトコロ」「悪いトコロ」

排他モード標準対応に音質へのこだわりを感じる

先行体験含め2か月間にわたり使ってみた感想としては、まず音がとても良い。音質への配慮はmora qualitasのアドバンテージのひとつで、WindowsではASIOとWASAPI排他に対応、Macでは排他モード(Exclusive)に対応している。詳細は割愛するが、PCからDACまでの音楽データの通り道をシンプルにすることで、音をより良い状態でデジタルからアナログに変換できるよう配慮がなされている。そのため、同じ音源をmora qualitasとAmazon music HDで聴き比べると、驚くほどmora qualitasの音が良い。具体的には、楽器音の鮮度やディテールの細かさ、音場の立体感などが俄然優れている。CD音源で比べても一発で分かる音の違いのため、ハイレゾのそれは言うまでもない。

↑USB-DACを使う場合の例。WASAPIには(event)と(push)があるが、比較的音質が良くPCへの負荷が少ない(event)を選ぼう

 

↑Windows環境で外付けUSB-DACがない場合は、基本的に[WASAPI(event)デバイス名]を選ぼう

 

↑USB-DACに専用のASIOドライバーが提供されているときは、ドライバーをインストールしてASIOを選ぶことを勧めたい。WASAPIよりも音質が良い場合もある。安定性に問題あるときは、WASAPIに戻せばよい

 

↑Macはデバイスを選んで、排他モードのチェックを入れるだけ

 

また、現在ストリーミングで定番となっている「ラウンドネスノーマライズ」は行っていないとのこと。これは音圧が過剰に高い、いわゆる「海苔波形」の楽曲の音量を強制的に下げて平準化する機能で、過剰な音圧競争への抑止力になると一部で期待されている。mora qualitasはいまのところ、本機能については検討段階とのこと。

 

権利元から納品された音源に何も手を加えることなくそのまま配信するということにこだわっているmora qualitas。そのポリシーは、サービスローンチからWASAPI排他やASIO、排他モードに対応してきたことにも表れている。黒澤氏いわく、「ストリーミングが流行っているからそれに乗っかろうというのではなく、スタジオマスターをリスナーに届ける活動の一環として、moraのプラットフォームのひとつにサブスクを追加した」とのことで、その心意気には筆者もグッときた。実際、アプリケーションの開発こそ海外のチームが手掛けているようだが、排他モードへの対応や再生時の安定性には入念に時間を掛けて詰めていったそうだ。それが音質にストレートに現れているのは、さすがmoraが立ち上げたサービスだと感心する。

 

筆者の環境は、Wi-Fiによるネット接続で回線はVDSL(下り23MB/s程度)だが、ほぼ安定して96kHzの楽曲も再生できていた。推奨される通信速度は下り10Mbps以上とのこと。ストリーミングということで、コアなオーディオファンの方は音質面の心配もあるかもしれない。あらかじめダウンロードしてから再生するオフライン再生は、PC版では非対応なものの、ダウンロード配信で入手した同じ音源のローカル再生に比べて音質面のデメリットはあまり感じなかった(PCオーディオやネットワークオーディオは、ノイズや電源、振動への対策が著しく音質に影響する。結果として、優位性は簡単に逆転したりするので注意が必要だ)。

 

楽曲ラインナップや検索性は改善の余地あり

一方、手放しで賞賛できることばかりではない。いくつかの要素には改善の余地がある。まず、楽曲のラインナップの充実度。ダウンロード販売では長年ハイレゾで配信しているアーティストもmora qualitasに存在しない場合が散見され、物足りなさは否定できない。ただ、こちらについては前向きな話を聞くことが出来た。既にmoraでハイレゾ配信を行っているレーベルは、その多くで順次追加をしていく予定とのこと。

 

契約の面で言うと、ダウンロード販売とサブスク配信は契約が別になるので権利元とそれをやり直すファクターが存在する。我がBeagle Kickも手続きに時間が掛かっているとアグリゲーター(仲介業者)から聞いており、mora qualitasでの配信開始は年明け以降にずれ込む見込みだ。ともあれ、ラインナップが充実すれば、mora qualitasでハイレゾ版を試聴して、気に入った音源はダウンロード購入して手元に置いておくという楽しみ方も普通になるだろう。

Beagle Kickのオフィシャルサイト

 

次に気になるのは、検索性やジャンルカテゴライズだ。これについては、厳しい評価を下さざるを得ない。検索レスポンスがやや遅く、日本語のアーティスト名は、まったく関連の無いアーティストが大量に表示されてしまう。アニソンなのにJ-POPのジャンルに振り分けられているケースも見つかった。極めて希だが、ライブラリに追加しても一覧で楽曲が参照できずやむなくお気に入りに登録したケースもあった。これらについては、問題意識を強く持っているとのことで、開発を担当するRhapsodyとも共有して改善に取り組んでいくという。

↑画像の楽曲は、ライブラリに追加してもなぜか参照できなかった。お気に入りに登録すると、必ず閲覧できる

 

ユーザー同士の交流機能や読み物も追加される予定

プロフィールページは、サブスクに慣れていない自分にとって、ちょっと小っ恥ずかしいものがあった。自分の試聴傾向が赤裸々に表示される。いわゆる何をどれだけ聴いたかによって、ランキングが作成されるので、「貴方の趣向はこうですよ!」と詳らかにされるのは新鮮だった。

 

加えて、ユニークな追加サービスとして、「リスナー向けのコミュニティサイトの開設」も予定している。音楽の話はもちろん、ハイレゾをどうやって聴けばいいのか、オーディオの音をよくするコツとか、音楽ファン・オーディオファン入り乱れて活発な情報交流があったら楽しそうだ。本サービスは年が明けて冬の間には始まる予定だそうだ。当面はアプリとは別に、ブラウザ上で展開されるとのこと。

 

また、mora qualitasの注目機能のひとつに「読み物」がある。現在、ごく一部の有名アーティストにコンテンツがあるのみだが、今後バイオグラフィーやレビューなどをまずは充実させていくそうだ。既成の音楽データーベースを流用するだけでなく、読み応えのある記事を来年春以降掲載していくとのこと。音楽雑誌に代わるような存在になれば、利用料を超えた満足感を得られるのは間違いなさそうだ。

 

「予定していた機能でまだ実装前ものもありますし、検索性やラインナップの充実はこれからも頑張って改善していきます。来年は、もともと告知していたことや、私たちが必要だと思っているものを実装していく年になるでしょう。ほかにもネットワークオーディオ機器に対応していくといったハード面の対応や、皆さんも期待されているソフトウェア面の対応も予定しています。オーディオファイルの方々に加えて、音楽ファンにも広くいいねと言ってもらえるサービスに成長させていくために、多面的なご提案をしていきたいですね」(黒澤氏)

 

最初は探り探りな試用だったが、いつの間にかライブラリにアルバムを追加するのが楽しくなり、ニューリリースに期待する日々に変わっていた。「気になっていたけど、購入したりレンタルしてはいなかった楽曲」を見つけたときの感動はサブスクならではだ。それを最低でもCD品質で聴けるのは本当によい時代になったと思う。特に印象に残ったエピソードとして、声優の堀江由衣の楽曲がハイレゾで追加されたときは心底感謝した。少年時代、お小遣いではCDを買えなかったけれど、意識していた声優だったので、新旧含めスタジオマスターで聞ける喜びと言ったらなかった。月額1980円というのは高額かもしれないが、ハイレゾクオリティ(最低でもCD)で聞けるなら、月に何枚かアルバムを聴くだけで満足感は得られそうだ。

 

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