前回は、FUJIFILM「X-E3」に似合うMF(マニュアルフォーカス)レンズを探して、焦点工房より「七工匠(7Artisans)」の交換レンズを借用して撮影を開始、「魚眼」と「超広角」、「標準レンズ」をレビューしました。
今回は「広角」、「中望遠」、「マクロレンズ」の3本が登場。広角と中望遠の2本は、LEICAの交換レンズを思わせるシルバーカラーがポイントで、価格もU2万円と気軽に手が出せるハイコスパレンズになっています。
スタンダードな広角レンズ「7Artisans 25mm F1.8」
「7Artisans 25mm F1.8」はシルバーが似合うレンズです。焦点距離的には38mmと中途半端ですが、18cmまで寄れます。そして開放絞り値F1.8と明るいので標準レンズとして使えます。
本来なら18mmが欲しいところなのですが、7Artisansのラインナップは12mmの次は25mmとなっており、18mmはありません。それからこのレンズはOLYMPUS「OM-D E-M10 Mark III」には装着できないので注意しましょう。
焦点距離が35mmよりも長いレンズなので、F8か16まで絞ればパンフォーカスレンズとしても使えます。やや風景寄りで人物も撮れて、ボケが楽しめて接写も得意です。重さは150gしかなく万能レンズとしてボディキャップ替わりに常時付けていてもいいでしょう。1万2000円という価格も相まって、気兼ねなく使えそうです。
【作例】意外に良好なボケ味で被写体を選ばない
開放絞り値が明るくてもボケ味がイマイチというレンズがありますが、25mmF1.8はゴチャゴチャしない素直なボケ味で好感が持てました。F1.2とかF1.1まで明るいとピント合わせがシビアになり、ボケが大きすぎて背景に何があるのかまったく分からなくなりますが、F1.8ぐらいだと何か分かる程度にボケるのでいい感じです。もちろんF1.2のレンズをF1.8まで絞れば同じことですが、明るいレンズはなるべく開放で使いたいものですからね。
女性を撮るならこれだけは欲しい中望遠「7Artisans 55mm F1.4」
55mmF1.4はAPS-Cサイズ専用設計のレンズで、FUJIFILMのボディに付けると83mmになります。何か中途半端な数字と思われるかもしれませんが、85mm前後から90mm前後は中望遠レンズと呼ばれ、ポートレート撮影の定番レンズ。50mmよりも歪みが少なく、ボケ味が美しい、被写体との距離感がちょうどいいことから人物撮影に重宝されました。
逆にいえば、それ以外の使い道があまりなく、80〜200mmF2.8を手に入れたらお役御免という感じのレンズでもありました。当時の85mmの開放絞り値はF2かF1.8で、F1.4は結婚式場のカメラマンが使う高級レンズでしたが、それが1万7417円なら「1本いっとく〜?」という気分になりますね。
【作例】美しいボケで誰でもプロ並みの写真が撮れる
最大撮影倍率1:1で撮れるマクロレンズ「7Artisans 60mm F2.8 Macro」
昔のレンズは接写が苦手でした。いまのコンデジやスマホのように、被写体まで数センチというのはかなり難しく、特にズームレンズは1mまでしか寄れない製品もありました。そこで必要だったのがマクロレンズです。近接撮影時にその光学性能をフルに発揮できる設計で、しかも無限遠までピントが合うありがたいレンズ。交換レンズを標準、望遠、広角と揃えると、次はマクロかなと多くのカメラ好きが考えたものです。
例えば40mmMacroレンズを買っても、マクロ専用というより“近くまでピントが合うレンズ”という感じで、接写以外のシーンでも使えます。マクロで重要なのは最短撮影距離ではなく、最大撮影倍率とワーキングディスタンスなのです。どれだけ被写体を大きく撮れるかは、最短撮影距離ではなく、最大撮影倍率で決まります。これが1に近付くほど大きく撮れます。1:4とか0.25倍などと表記されます。まあマクロレンズなら1または1:1は欲しいですね。 1:1とは1cmの被写体が撮像センサー上に1cmで写ることを意味します。
最短撮影距離があまり短いと使い難いレンズになります。例えば昆虫が逃げてしまうとか。レンズフードが影になって光を遮るとか。柵などがあってそれ以上近寄れないとか。最短撮影距離は撮像センサーから被写体までの距離ですが、ワーキングディスタンスはレンズ面から被写体までの距離を表し、ある程度離れている方が撮影しやすくなります。このため105mmとか200mmといった焦点距離の長いマクロレンズが生まれました。60mmマクロはAPS-Cサイズセンサーのミラーレスに付けると、92mmになってなかなか使いやすい中望遠マクロになります。価格は27500円。
【作例】性能は◎。ピント合わせが難しく三脚が欲しくなる
日中の屋外で撮影するときは、明るいので早いシャッター速度を選べば手持ちでも撮れると思ったのですが、風の強い日はダメでした。被写体が風で動いてピント合わせが大変です。被写体との距離を詰めていくとピントの合う範囲が狭くなり、やはり三脚が欲しくなります。まあマクロレンズに三脚は欠かせないのですが、「X-E3」はボディ内手ブレ補正機能がないので、屋内の撮影では三脚が欠かせません。逆に三脚を使えばかなりの高性能を発揮してくれるレンズといえます。
三脚を立てて最新マクロレンズと比較してみた
せっかくなので仕事で使っているマイクロフォーサーズマウントの「M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro」をOLYMPUS「OM-D E-M1MK2」に装着して同じ被写体を撮影してみました。こちらのレンズは最大撮影倍率2.5倍(35mm換算)で60mm相当のマクロレンズです。焦点距離と撮影倍率、センサーサイズが違うので、どこまで拡大できるか分かりませんが、とにかく最短撮影距離まで寄って撮りました。
撮影したものを100%でモニターに表示してキャプチャーした画面を表示しました。これはリサイズした画像でさらに一部を表示したものです。
結論からいえば、OLYMPUSよりもArtisansの方が大きく撮れました。文字の盛り上がった感じも再現されています。絞り込んでもかなりピントの合う範囲が狭い、ややコントラストが弱く画像が眠いですが、ライティングでカバーできるでしょう。十分使えるレンズといえます。ズイコーレンズはハイコントラストで、階調性が豊か、ピントの合う範囲も広いので使いやすいですね。ズイコーのマクロは4万1250円なので価格差は倍近くあります。
7Artisansはハイコスパで魅力的な交換レンズだった
6本のレンズを使ってみて分かったこと、MFはなかなか楽しい。フォーカスだけでなく絞りも、絞りリングを回して設定、カメラ側での露出補正も必要でした。ミラーレスなのでピント合わせはEVFを拡大表示に切り替えて、ピーキングで細かい位置を決められ、AF以上に厳密なピント合わせが自分の意思で行えます。この作業で、どこにピントを合わせるかの重要性を再確認できました。
これとは逆に、ピントリングに触れずに被写界深度を使ってスナップするのもシャッターチャンス優先でサクサク撮影できるのが快感でした。AFレンズを使うとピントが合わないとシャッターが切れない設定がデフォルトのミラーレスもあり、思った瞬間にシャッターが押せないことがありました。
7Artisansは深センにあるメーカーですが、安かろう悪かろうの物作りではなく、MTF曲線まで公表して性能を追求する真面目な光学メーカーです。U1万円の中国製レンズと比較すると明らかに画質に違いがありました。
もちろん、プロユースに応える国産の交換レンズと比較すれば劣る部分もありますが、我々が趣味で使うには問題のないレベルでハイコスパなレンズといるでしょう。結局、撮影のあとに自分用に超広角の12mmF2.8とレトロなデザインの35mmF1.2を自腹で購入してしまったことを申し添えておきます。
モデル/こうやもゆ
撮影協力/ペンギンカフェ(Penguin café)
【フォトギャラリー(画像をタップするとご覧いただけます)】
【この記事を読んだ方はこちらもオススメ】