新型コロナウイルスのまん延によって、日本のみならず世界中でエンターテイメントにまつわる活動がストップさせられた。そうした厳しい状況下で、音楽の火を絶やすまいとして、ミュージシャンたちがファンとのつながりを求めて行ったのが配信ライヴだ。
自宅にいながらにして、好きなミュージシャンのパフォーマンスに触れられる機会が一気に増えたことで、新しい音楽の楽しみ方が加わったと言っていい。また、スマートフォンやタブレットなどで場所を選ばずに気軽に参加できるのも配信ライヴの魅力のひとつとして挙げられ、没入して楽しむために高音質のワイヤレスイヤホンを買い求めたという人が筆者の周りにもいる。テレワークが進み、ノイズキャンセリングイヤホンの需要も高まっていることを考えると、高音質かつノイズキャンセリングというワイヤレスイヤホンのトレンドは今後も続いていきそうだ。
そんな中、ハイコスパで高品質な完全ワイヤレスイヤホンを多く輩出しているイヤホンブランド「NUARL」から、新たなノイズキャンセリングイヤホン「N10 Plus」が4月に発売された。
価格は1万9800円(税込)と、ノイズキャンセリング機能搭載モデルとしては比較的手ごろな価格ながら、アプリと連動して消音具合をコントロールできるなど使い勝手の良さも備えるモデルだ。
NUARLと言えば、ミュージシャンのスペシャルライブやインタビューの配信など、特設サイトを中心に展開するオンラインプロモーション「BACK TO STAGE」を現在展開しており、自ら配信ライヴを手掛けて音を届けるきっかけを生み出している。
BACK TO STAGEの詳細はこちら
配信ライヴの第二弾が6月17日に行われ、ミツメ、古舘佑太郎、松本素生(GOING UNDER GROUND)が登場。それぞれ個性の異なる3組が、こんなときだからこそ音楽をダイレクトに届けたいという思いがディスプレイを通して伝わってくるパフォーマンスを披露してくれた。今回はせっかくのN10 Plusのレビューなので、NUARLが手掛けた配信ライヴを試聴しながらその実力を確かめてみたいと思う。ノイズキャンセリングの特性を感じるためにも自宅、地下鉄、カフェと環境音が異なる3つのシチュエーションで動画を鑑賞した。
シーン1:自宅でじっくりミツメの演奏を鑑賞
下北沢のLIVE HAUSで行われた「BACK TO STAGE ONLINE LIVE」第二弾のオープニングに登場したのはミツメ。シャムキャッツやスカートらと共に2010年代から東京インディー・シーンを盛り上げてきた5人組のインディー・ロック・バンドで、ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の主題歌「Presence」を手がけたSTUTSをフィーチャーしたシングル「Basic」を4月にリリースして話題を呼んでいる。
センシティヴかつ変化に富んだギター・サウンドと、あいみょんのプロデュースも手がける川辺 素の甘いヴォーカルが浮遊するようなパフォーマンスが特色のミツメ。PCにディスプレイをつないでライヴを鑑賞したが、「N10 Plus」はその繊細な佇まいを正確に捉えつつ、ほかの音に隠されてしまいがちな音の細部も明るみにしていた。10mm径ダイナミック型フルレンジドライバーが鳴らす、高域の余裕のある伸びや低音を過度に強調しない適正な量感は耳にも優しく、約30分の演奏も聴き疲れせずに楽しむことができた。
淡々としているように見えて、起伏のあるメロディが心にいくつも引っかかりを残したこの日の演奏でひときわ印象に残ったのがラストの「トニック・ラブ」。哀愁を漂わせたサイケデリック・シティ・ポップとも呼べそうなサウンドの分離感が特に良く、バンドの息の合ったアンサンブルもすばらしかった。
【ミツメのライヴフォトを見る】※画像をタップすると閲覧できます。一部SNSからは表示できません。
シーン2:地下鉄の車内でノイズキャンセリングを試しつつ、古舘佑太郎の響く声を聴く
二番手に登場した古舘佑太郎のライヴは移動中の地下鉄で観た。車内の騒音を抑えるためにノイズキャンセリングモードの設定をあらかじめ用意されたスマートフォンのアプリから行なうことができる。ノイズキャンセリングモードには音質優先、バランス、ANC(アクティブ ノイズキャンセリング)優先があり、それぞれのモードで試してみた。
ソロでも活躍する古舘は、アコースティック・ギター一本でステージに登場。まず音質優先モードで、1曲目の「フォーピース」を鑑賞した。アコースティック・ギターのナチュラルな響きやボディを叩く音もノイズキャンセリングにありがちなこもった感じがなく、見晴らしの良い音場が広がっていく。感情がほとばしるヴォーカルもリアリティがあり、ダイレクトに飛び込んでくるようで、地下鉄の中にいることを忘れるほどの没入感に包まれていった。
続いてはバランスモード。より遮音性が高まり、音が少し丸くなった印象を受けた。しかし、音の明瞭感に変化はなく、高域が伸びて声のニュアンスもはっきり表現できていた。地下鉄のような騒々しい場所にはうってつけのモードと言える。
最後はANC優先モードを試してみた。少し音場が広がったイメージだが、音の美しさに変わりはなく、アコースティック・ギターの柔らかな音色も心地良く、最も遮音するモードでも音質がしっかりと担保されていることがわかった。耳に容赦なく入ってくる騒音を3段階で遮断し、音を再生していなくても、集中したり、心を落ち着かせたりしたいときにもノイズキャンセリングモードは使えそうだ。
【古舘佑太郎のライヴフォトを見る】※画像をタップすると閲覧できます。一部SNSからは表示できません。
シーン3:外音の入るカフェのテラスでも、しっかりと聴き込めた松本素生の名演
地下鉄から降りて、今度はカフェのテラスで仕事をしながら松本素生のパフォーマンスを聴いてみた。松本も弾き語りスタイルで、ギターを軽快にかき鳴らしながら歌っていく。やはり外でもノイズキャンセリングモードの実力を発揮。目にしているのはカフェの景色だが、まるでライヴハウスにいるような臨場感を創出してくれる。
サニーデイ・サービスの曽我部恵一がプロデュースした「望郷東京2020」で幕を開けたライヴは、実直に心を込めて歌い上げる松本の感情が静かに高ぶっていく様子をキャプチャーしており、その過程をN10 Plusはつぶさに伝えてくれる。自らのヒーローである元ザ・ブルーハーツのふたりを歌った「ヒロトとマーシー」は、今回の配信ライヴのテーマである“原点回帰”にまさにふさわしい楽曲で、ギターのストロークも思わず力が入り、疾走感が高まっていく。そんな高揚感もクリアに余すところなく届けてくれ、こちらも時間を忘れて聴き入ってしまった。
後半には「BACK TO STAGE」の監修を務めるサニーデイ・サービスのベーシスト、田中貴がスペシャル・ゲストとして登場。旧知の仲である田中を迎え、リスペクトするサニーデイのカヴァー「雨が降りそう」と「春の嵐」を披露。田中のドライヴ感あふれるベースの低音もアコースティック・ギターにマスキングされることなく、しっかりとした存在感を放っており、一体感のある演奏を楽しませてくれた。
【松本素生のライヴフォトを見る】※画像をタップすると閲覧できます。一部SNSからは表示できません。
三者三様のライヴだったが、「N10 Plus」のどんなシチュエーションでも音楽を手軽で高品位に楽しめるポテンシャルを実感させられた。日常に戻るにはもう少しかかりそうな状況で、音楽に触れる楽しさと喜びを「N10 Plus」がもたらしてくれることだろう。
撮影/古溪一道(ライヴ)、中田 悟(製品)