あなたは第三者に配偶者のことを話すとき、なんと呼んでいるだろうか。
たとえば女性の場合、芸能人が発信するブログやSNSなどを見ていると、「うちの旦那」とか「旦那さん」と呼んでいる人が多い印象だ。もしくは「パパ」、なかには「ダー」とか。「相方」も使っている人が意外に多い。いや、親しい仲間に向けての呼び方であればいいのだが、公の場ではちょっと考えものだ。
「旦那」というと、その後に悪口が続きそうな印象だし、「旦那さん」となると、今度はノロケっぽいニュアンスが含まれてしまう。「パパ」は家庭内だけにしてよ!と思うし、「ダー」は若い子ならまだしも、いい年した女性が言うのもねという感想。「相方」は、結婚前ならまだ許せるか。そういえば「殿方」と言っていた人がいたが、なんだか背中がむずがゆい。
かくいう私もどう呼ぶのが最適なのか迷った結果、「主人」という呼称にしていた。だがある日、中学校時代の恩師からSNSの投稿にこのようなコメントをもらったのだ。
「夫」と記さず、「主人」・「旦那」と記していることから、なんとなく花楓さんは昭和前期の家族観も持っているんだろうなと感じました。
あれ、ということは、「主人」は正しくないの? 正式には「夫」? 別に間違いを指摘されたわけではないが、なんだか、めちゃめちゃ恥ずかしいんですけど!
正式な場では「夫」「妻」が無難
ここはひとつ、今後恥をかかないようにマナー本で確認しておこう。早速『ニッポンのおつきあいとしきたりの心得帖』(岩下宣子・監修/学研プラス・刊)を片手に、敬語の使い方のページを熟読してみた。
すると、このような表記が。
敬称の付け方
■夫の場合
相手側:ご主人(様)、○○様、ご夫君
自分側:夫、○○(姓)、つれあい
『ニッポンのおつきあいとしきたりの心得帖』より引用
やはり、「夫」が一番無難なようだ。「つれあい」とは、今時あまり耳にしない気もするが、覚えておいて損はないだろう。
では、男性が配偶者のことを呼ぶときはどうだろうか?
周りでよく聞くのが「嫁」「嫁さん」「うちの」。「嫁」と「嫁さん」はまだ許せるが、「うちの」というのだけは受け付けない。以前見ていた連続ドラマで、主人公が浮気相手に対して、自分の妻のことを「うちの」と呼んでいて、虫唾が走ったことを思い出した。いやいや、あんたの所有物じゃないし! ネタとして言うならアリだが、間違っても公の場で「うちの」呼びは辞めておいた方がいい。
ちなみに、尊敬する人生の先輩は、いつも「愚妻」と称している。愚妻って、謙遜とはいえなんだか妻のことを悪く言っているようで、正直あまりいい気持ちがしなかった。だが、「愚」は自分のことを表しており、「愚かなる自分」の妻、という本来の意味を最近知り、これまた勝手に気恥ずかしい思いをした。なお、本書ではこのように紹介されている。
■妻の場合
相手側:奥様、ご令室
自分側:妻、家内、女房、愚妻
『ニッポンのおつきあいとしきたりの心得帖』
やはり、「愚妻」はマナー的にも◎だったようだ。さすがは先輩!
第三者の前ではもちろん、身内の前での呼び方にも注意
正式な場では「夫」「妻」と呼んでおけば、恥もかかないので間違いないだろう。少し親しい間柄なら、細かいことは気にせず、「旦那」でも「パパ」でも「嫁」でも「○○ちゃん」でもいい。ただ、気をつけたいのは、身内の前、特に相手の実家での呼び方。
私は、普段夫のことを下の名前で呼び捨てしている。だが、さすがにお姑さんの前で夫のことを話すとき、「○○が昨日~」などと呼び捨てをするのは気が引けるので、少し気恥ずかしいが「○○さん」と言うようにしている。もちろん、本人がいる前で呼ぶときは、いつも通り呼び捨てだが。
常識のない嫁の烙印を押されぬよう、結婚して10年経った今でも気を遣っているのである。
言葉の正しい意味を知ったうえで、臨機応変に使いこなすのが上級者!
少し話は変わるが、弔電を打つときの敬称も特殊だ。「ご尊父様」「ご母堂様」という呼び方は、機会がなければ、誰かに教わらない限り一生知り得ない知識かもしれない。
このように、日本には古くから伝わるおつきあいのマナーや、知っておきたいしきたりが多数存在する。長く継承されてきたのには意味があるのだ。いざというときに恥をかかないために、最低限のマナーや心得は、ぜひマナー本などを読んで身につけておくべきだろう。
そして、正しい知識を持った上で状況に応じて臨機応変に使いこなせる人こそ、ビジネスでも活躍できるはず。我が家の親愛なる愚息や愚女にも、日本のしきたりやマナーをしっかりと教えていきたい。
【著書紹介】
ニッポンのおつきあいとしきたりの心得帖
著者:岩下宣子
出版社:学研プラス
この国で暮らす私たちの生活心得をまとめた冠婚葬祭事典。マナーデザイナー岩下宣子氏監修のもと、儀礼や人付き合いのルールやマナーをくまなく収録。また日本を代表する複数の老舗企業に取材、実践的なアドバイスを頂戴し、より現実的なハウツーを実現した。
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