スニーカーが好きだ。取材中もよくスニーカーを履いているし、高校時代もローファーではなくスニーカー愛用者だった。そんな私が小学生だった1990年代は、スニーカーブームの最盛期だった。ブームが過熱しすぎて、東京では大変な事態になったことがあったのだ。
異常なまでのエアマックス人気
“マックス狩り”という言葉をご存じだろうか。おそらく、20代前半から下の世代は、なにそれ? と思うかもしれない。
90年代にナイキのエアマックスというスニーカーが爆発的な大ブームになった。
そのため、プレミアが付き、数倍の値段で取引された。スニーカーショップへの入荷には数か月、1年待ちという状態。このスニーカーを履いて渋谷の街を歩いていると、チーマーという不良がやってきて、暴行を加え、スニーカーを奪って逃げるという犯罪が多発していたのだ。
エアマックスは保存が難しい
さて、90年代に苦労して入手したエアマックス。一度も履かないで、箱に入れたまま保存していたという人も多かったようだ。では、そのスニーカー、いまはどうなっているのだろうか?
実は、悲惨な状態になっているという話をよく聞く。
スニーカーの底の部分が加水分解してしまい、なんと箱の中で粉々になって、とても履けるような状態ではなくなっていることもあるようだ。何を隠そう、これは私の友人のスニーカーマニアが実際に体験したことである。押し入れの中に入れていて、久々に鑑賞してみようと思ったら、箱を開けて愕然としたそうだ。
意外や意外、かなりデリケートなスニーカーだったのだ。
スニーカーは履きつぶすのが正解
なぜ加水分解が起こってしまうのかというと、空気中の水分と、スニーカーの底に使われているウレタンが化学反応してしまうためだそうだ。エアーが入っている部分にウレタンが使用されているものは特に加水分解しやすく、ゴム系の素材も加水分解が起こるという。
すなわち、湿気がすごい押し入れの中はスニーカーにとって最悪の環境なのだ。加水分解を完全に防ぐ方法はなく、除湿剤や乾燥剤を箱の中に入れておけば、進行を遅らせることはできるようだ。しかし、最初からこういった特殊なスニーカーには寿命がある、と考えておいたほうがいいのかもしれない。逆に、設計が古いスニーカーのほうが、長持ちするようである。
スニーカーを入手したらもったいないと思うのではなく、ガンガン履きつぶすのが、スニーカーにとって幸せなことなのかもしれない。
スニーカーブーム再来
さて、現在はかつてほどではないものの、スニーカーの人気は高いといえるだろう。ABCマートなどの靴店に行くと、スニーカーは売れ筋商品になっていて、目立つ場所に陳列されている。ファッションアイテムとして、コンバースやニューバランスのスニーカーは定番になっている。
そんな日本人とスニーカーの歴史をまとめた一冊が『東京スニーカー史』(小澤匡行・著/立東舎・刊)だ。巻末には懐かしのスニーカーから定番品まで、憧れのモデルがたくさん紹介されている。スニーカーには数十年単位で愛されている定番モデルが多い。VANS、ニューバランス、ナイキ、コンバースのベーシックなモデルは永遠の名作だ。
前述のように、スニーカーは気に入ったものを買ったら履きまくるのが正解だ。4月は絶好のお出かけ日和。お気に入りのスニーカーでぜひ、外に飛び出してみたい。
(文:元城健)
【文献紹介】
東京スニーカー史
著者:小澤匡行
出版社:立東舎
運動用の靴として誕生しながらも、その後さまざまなカルチャーを吸収し、現在ではファッションアイテムとしても人気の高いスニーカー。日本でも90年代には一大ムーブメントとなり、その盛り上がりは社会現象とも言えるほどのものでした。本書ではそんな日本のスニーカー史を中心に、スニーカーの歴史を紐解いていきます。東京のスニーカームーブメントの中心にいた関係者たちからの証言をもとに綴られた物語は、当時の空気感をリアルに伝えてくれるはずです。もちろん、スニーカーの誕生から進化という視点でも、細かくその過程や史実を紹介しています。今までになかった、“スニーカーの歴史とカルチャー”を解説する1冊です。