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2018/7/3 6:00

「負け犬」。自らをそう呼ぶナイキ創業者が教える目標を達成するまでのメソッドとは?――『SHOE DOG』

サッカーのワールドカップも決勝トーナメントに入り、連日熱戦が続いている。ピッチを駆ける選手たちのユニフォームの胸、そして足元のシューズの“スウッシュ”が何度も映し出される。“スウッシュ”とはナイキのロゴだ。

 

今や世界一のスポーツ用品メーカーとなったナイキだが、『SHOE DOG』(フィル・ナイト・著/東洋経済新報社・刊)を読むと、創業者フィル・ナイトが成功するまでに辿ってきた道は険しく、挫折と苦悩の連続だったことがわかる。それでも立ち止まることなく“最高の靴を作る”ことだけに情熱を傾けてきた彼とその仲間たちの生き様が、負け犬でも諦めなければ勝てることを、私たちに教えてくれる。

 

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羽のように軽いシューズ

私がはじめて履いたナイキは“エアジョーダン”だった。NBAのスーパースター、マイケル・ジョーダンとナイキがコラボしたバスケットシューズで、1990年初めにはあまりの人気でシューズを巡って本国アメリカでは強奪や傷害事件も起こったほどだった。エアソールを用いたエアジョーダンの履き心地はそれまでのどのスニーカーとも違っていた。私はバスケットをやるわけではなくタウン用に履いていたのだが、その感覚はまさに羽が生えたように軽やかに歩き走れるものだった。

 

すっかりナイキの虜となった私はその後に生まれた娘のはじめての靴にも、幼子の足を守るべく迷わずにベビーナイキを選んだ。

 

 

SHOE DOGとは?

さて、本書のタイトルにもなっているシュードッグとは、靴の製造、販売、購入、デザインなどすべてに身を捧げる人間を指すそうだ。

 

熱中の域を越し、病的と言えるほどインソール、アウターソール、ライニング、ウェルト、リベット、バンプのことばかり考えている人たちだ。だが私には理解できる。人が1日に歩く歩数は平均7500歩で、一生のうちでは2億7400万歩となり、これは世界一周の距離に相当する。シュードッグはそうした世界一周の旅に関わりたいのだろう。

(『SHOE DOG』から引用)

 

そう語るフィル・ナイトも靴にすべてを捧げてきたひとりだ。スタンフォード大学で経営学を学んでいた彼は最終学年の時、起業についてのセミナーで靴に関するレポートを書いた。

 

ランナーだった私は、ランニングシューズについて知っていたし、ビジネスについても詳しかったので、かつてはドイツの独壇場だったカメラ市場に日本のカメラが参入したことも知っていた。

レポートの中で、日本のランニングシューズにも同じように可能性があると力説した。私はそのアイディアに強い興味を持ち、刺激を受け、そしてとりこになった。

(『SHOE DOG』から引用)

その後、フィル・ナイトのシュードッグとしての旅はハワイ経由で日本に行くことからはじまったのだ。

オ二ツカの靴をアメリカで売るビジネス

1962年、フィル・ナイトはたったひとりで神戸のオ二ツカを訪問した。タイガーのアメリカでの販売権を得るのが目的だった。

 

「ミスター・ナイト、何という会社にお勤めですか?」

「ああ、それはですね」と言いながら、アドレナリンが体中を流れた。逃げて身を隠したい気分になった。

私にとって世界で最も安全な場所とはどこだろう。そうだ、両親の家だ。(中略)陸上競技で勝ち取ったブルーリボンも壁に飾られている。人生で胸を張って自慢できるものだ。どうしよう。

「そうだ、ブルーリボンだ」と私はつぶやいた。「みなさん、私はオレゴン州ポートランドのブルーリボン・スポーツの代表です」

(『SHOE DOG』から引用)

 

すべてはこのはったりの発言からはじまったのだ。

 

彼は、オ二ツカのタイガーを店頭に置き、アメリカのアスリートがみんな履いているアディダスより値段を下げれば、ものすごい利益を生む可能性があると力説したそうだ。するとオ二ツカ側は思いがけない提案をしてきた。

 

「御社は……どうでしょう……タイガーの代理店になる気はありませんか。アメリカで、ですが」。

「ええ」と私は答えた。「もちろんです」(中略)私はすぐにサンプルを送ってくれるように頼んだ。住所を知らせ、50ドルの前払い金を約束した。(中略)私はオ二ツカから最寄のアメリカン・エキスプレスのオフィスに直行し、父に手紙を送った。「父さんへ。至急、神戸のオ二ツカまで50ドルを送ってください」

フッフー、ヒッヒー、……不思議なことが起ころうとしている。

(『SHOE DOG』から引用)

ナイキという世界ブランドを創った人物にこんな始まりの物語があったとは驚きだ。

 

 

ナイキ・ブランドとスウッシュ

成功する人たちの傍らには必ずよき仲間がいるのものだが、フィル・ナイトにも彼を理解し応援する家族、そして仕事仲間たちがいた。

 

そもそも、はったりではじめたビジネスなので、ブルーリボン社は常に資金繰りで苦しみ、また販売がうまくいきはじめるとライバルが出現したり、裏切りがあったり、フィル・ナイトの前には次から次へと壁が現れた。

 

しかし彼と仲間たちは何が起ころうとも立ち止まることはなかった。そうして1971年ついに自社製品のナイキ・ブランドが誕生する。ナイキの名は正社員第1号が真夜中に夢の中で浮かんだネーミングだそうだ。ナイキ(二ケ)はギリシャの神、勝利の女神の名だ。

 

そして翼がピューッと飛んでいくようなロゴはフィル・ナイトがポートランド大学で出会ったアーティストが考案したもので、スウッシュと呼ばれることとなった。スウッシュは、翼のようであり、風が吹いてくるようであり、あるいはランナーが走った跡のようでもある。フィル・ナイトと仲間たちは全員がこれが斬新で、かつ、なぜか古代を彷彿させると感じたそうだ。つまり時代を超越したロゴというわけだ。

 

今ではあらゆるスポーツの試合中継で私たちは頻繁に映し出されるスウッシュを見る。しかしブランドができたばかりの頃は違った。本書にはフィル・ナイトをサポートし続けた父親のこんなほほえましいエピソードがある。ナイキのロゴが全米に注目された日のことだ。

 

「カメラが寄って、はっきり見えた……(中略)スウッシュだ。スウッシュがずっと映っていたぞ」

そこまで自慢げな父の声を聞くのは初めてだった。父は“誇り”という言葉を実際に使ったわけではない。だが父が誇らしい気持ちになったことを感じて私は電話を切った。

もう少しで何もかもうまくいく。私は自分にそう言い聞かせた。もう少しだ。

(『SHOE DOG』から引用)

 

さて、ナイキを立ち上げてからも銀行口座の凍結、裁判などの問題がフィル・ナイトを苦しめることとなった。彼は自らとその仲間を「負け犬」と言っている。しかし、負け犬でも、力を合わせれば勝つことができるとも断言している。

 

すべての人に勇気をくれる一冊だ。

 

 

【書籍紹介】

SHOE DOG(シュードッグ) 靴にすべてを。

著者:フィル・ナイト
発行:東洋経済新報社

父親から借りた50ドルを元手に、アディダス、プーマを超える売上げ300億ドルの会社を創り上げた男が、ビジネスと人生のすべてを語る!

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