指揮者に必要な4つの能力
現代において指揮棒で命を落とす……ということはなくなりましたが、あの軽い棒で指揮者はなにをやっているのか? と聞かれるといまいちピンとこない人が多いと思います。一般的に「右手で拍を刻んで、左手で表情を示す」とも言われますが、プロの指揮者も「指揮は教えられない」というほど、明確な定義や手法が固まっておらず、「朗読」に近いものだと「指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?」では語られています。また同じ楽曲でも、指揮者が変わると演奏が変わる理由を以下のように語っています。
・基礎的能力や指揮法などのアンサンブルを合わせる能力
・楽曲を読み取る力(スコアリーディング)
・オーケストラをエンロールする(巻き込む)力
・何がなんでも目指すレベルに導いていくという意思の強さ、実行力(『指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?』より引用)
とは言ってもよくわからないなーという方のために、わかりやすい例を以下でご紹介します。
同じベートーベンの「運命」でも指揮者によって演奏時間が変わる
みなさんにお馴染みベートーベンの「運命」ですが、同じ「ンタタタ ターン」というフレーズのテンポによって、曲全体の印象を大きく変えてしまうそうなんです。
軽快に「タタターン!」とやると30分11秒で、重厚感がある「ダッ、ダッ、ダッ、ダーン!」と演奏すると38分38秒と、全部で4楽章ある演奏時間が8分も変わってくるというのです。
もちろん、「タタターン!」だけ早くしているわけではないのですが、指揮者がどんな「運命」と感じたかによって、同じ楽譜でも表現が変わるということなんですよね。自分なりの表現をしなければいけないので、プロが言う指揮は教えられないというのも納得! 演奏会で運命を聞く機会があったら、ぜひ指揮者にも注目してみましょう。
演奏も人生も止まれない! やり直せない
また、オーケストラだけでなく観客を巻き込む力をもっている指揮者のエピソードもご紹介します。
野外で演奏会をしていた時、突如雷が鳴り出し、観客は演奏に耳を傾けるどころではなくなっていたそうです。その際、指揮者(マエストロ)が行った行動で観客の雰囲気がほぐれたのですが、一体どんな指揮をしたのでしょうか?
そのとき、なんとマエストロは、突然、オーケストラではなく、雷に向かって指揮をし始めたのです。ステージ右側から雷が落ちる音が聞こえれば右に、左側から雷の落ちる音が聞こえればすぐさま左にタクトを振ります。観衆は彼のその滑稽な指揮姿にびっくりした様子でしたが、しばらくすると笑い声も聞こえてくるようになりました。
(『指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?』より引用)
演奏中に雷は鳴り止み、無事に演奏会は終了。終了後、指揮者のもとには喜びと感謝を伝えたい観客で列ができたそうです。なんだか心温まる〜♪
もう普門館で指揮者の姿を見ることはできませんが、これまでに普門館で演奏された楽曲の音源は聞くことができます。音源だけでは姿の見えない指揮者ですが、想像力を豊かにして、「この指揮者の性格は頑固そうだな」「こっちの指揮者はせっかちだな」などと、同じ楽曲で聴き比べてみるのも楽しいかもしれません。あぁ〜普門館言って見たかったなぁ。
【書籍紹介】
指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?
著者:藤野栄介
発行:学研プラス
指揮者って、いったい何をやっているの? あの指揮棒で何を指示しているの? オーケストラは、個性あふれる専門家集団。その集団を、指揮棒ひとつでまとめ、美しい音楽を奏でるための方法を、現役指揮者が公開する。