ネットスラングを話すマリー・アントワネット、異世界で娼婦になるJK
上記三冊もそうなのだが、ここのところ、現代小説家の歴史小説が存在感を放っている。その中でも独特の輝きを見せつけた本と言えばこちら「マリー・アントワネットの日記(Rose/Bleu)」(吉川トリコ・著/新潮社nex・刊)である。名前の通り、マリー・アントワネットの日記という体裁を取っているのだが、何と本書のアントワネットはギャル語・現代語・ネットスラングを多用するのである! けれど、この軽妙、軽薄な語りが200年以上前のブルボン朝と現代のわたしたちを橋渡ししてくれるとともに、歴史のヴェールに隠された実在の人物であるアントワネットを、血の通う一人の女性として読者の目の前に引き出してくれるのである。いちいちフランス流のしきたりに反発するアントワネットの姿に、会社や組織の虚礼に反感を抱く自分自身とを重ね合わせ、うんうんと頷く読者の方も多いはずである。
取り合わせの奇抜さという意味では、「JKハルは異世界で娼婦になった」(平鳥コウ・著/早川書房・刊)にも度肝を抜かれた。女子高生のハルが異世界に飛ばされて娼館で働き始める……というタイトルそのままの小説であり、いわゆる「なろう系」に属する小説なのであるが、本書は普段当ジャンルに親しんでいる人ほど衝撃を受けることであろう。「なろう系」の持つお約束や共通設定を逆手に取り、体一つで異世界を生き抜いてやろうと決心するハルの姿は、「なろう系」の生んだ異色の主人公像と言えるだろう。ただし、本書は扱うテーマがテーマだけに読み手を選ぶ。その点だけご注意願いたい。