本・書籍
2019/5/15 21:45

英語は本当に日本人に必要なのか?――『英語コンプレックスの正体』

ブームっていうのは、さまざまある。でも、世代に関係なくかなりの勢いでアピールし続けているのは、ダイエットと英語じゃないだろうか。特に英語に関しては、最近はFacebookでもあおりまくりのバナー広告が日替わりで登場する。英語・英会話学習法ウォッチャーを自認する筆者は、いちいちツッコミを入れたくなる。

 

 

“勉強して当たり前”の英語

日本の場合、英語が絶対に必要な状況が続くのは高校卒業までだろう。それ以降は、大学に進学しても、避けて通ろうと思えばできる。ただ、中学・高校と少なくとも6年間は関係せざるを得ない。それに、最新の指導要領の施行後は小学校から正科として英語が加わる。

 

そもそも日本の英語教育は1947年の教育基本法・学校教育法の公布を受け、新制中学校が発足するタイミングで英語が義務教育に導入された。日本人にとって英語が“勉強して当たり前”なものになったのは今から72年も前だったのだ。

 

 

違う方向から風を吹かせる男

この時点で指摘しておきたいのは、日本の教育界側が自ら英語に“寄せていく”態度で英語教育の礎が築かれた感が否めないことだ。それから47年後の1993年、当時の総理大臣小渕恵三氏が「英語の第二公用語化」を打ち出した。スタートの時点でも90年代でも、そして最近のFacebookの広告でも“寄せっぱなし”なのだ。

 

こうした姿勢に疑念を隠さず、独自の論陣を張っている人たちがいる。興味がある分野なので、筆者は現行の英語学習法推進派の人たちの意見にも、英語教育偏向姿勢を憂慮する人たちの意見にも可能な限り触れてきた。その中で、中島義道さんという突出した人物がいる。マスコミでは“闘う哲学者”として有名な人だ。筆者は、日本の英語教育に“違う方向から風を吹かせる人”と形容したい。ここでは、その中島さんが手がけられた英語(学習)論についての本を紹介する。

 

 

英語力はそのまま知力?

英語コンプレックスの正体』(中島義道・著/講談社・刊)は、2004年に刊行された内容にアップデートを加えた構成になっている。中島さんを“違う方向から風を吹かせる人”と思う理由の一部は、以下に示すまえがきの文章から推し量っていただけるはずだ。

 

あなたは、英語コンプレックスを抱いているであろうか? 英語コンプレックスは、なにも英語ができない人が抱くとは限らない。あらゆるコンプレックス同様、客観的能力はひとまず関係なく、英語がかなりできる人がもつときもあり、英語がかなりできない人がもたないこともある。

『英語コンプレックスの正体』より引用

 

この文章の響きは、まだとてもマイルドだ。でも次の段落の冒頭から、話はいきなり核心に入る。

 

しかし、英語コンプレックスを独特の厳しいものにしているのは、英語が高校入試や大学入試の受験科目になっているから、しかも主要科目だからである。英語の能力は、知力一般(知能指数、偏差値)を測る目安として機能してしまい、英語ができないことは受験勉強の敗者のみならず、知力戦争の敗者とみなされてしまうのだ。

『英語コンプレックスの正体』より引用

 

ちょっと独特な言い方だ。でも、大人になればなるほどつきまといがちな英語コンプレックスの源を目の当たりにしている感覚を抱くのは、筆者だけではないだろう。

 

 

英語帝国主義

根源がわかったところで、話を進めていこう。

 

英語コンプレックスは多様である。そのうち、本書が照準を定めるのは「国際語」としての英語が引き起こす独特のコンプレックスである。わが国には、日本人が英語を「国際語」として学ぶことに何の疑いも感じていない人が多数棲息している。彼らは、英米人と日本人が同席すればそこで(日本語ではなく)英語をしゃべるのが当然だとみなし、学問における世界レベルの研究成果は(日本語ではなく)英語で発表せねばならないと信じ切っている。

『英語コンプレックスの正体』より引用

 

中島さんは、こうした現状を“英語帝国主義”と形容する。ちょっと想像していただきたい。大きな駅の券売機の前で不安そうな表情を見せている、いかにも旅行者といった家族と出会ったとしよう。助けようという気持ちが少しでもあったら、国際語である英語で話しかけてしまう人がほとんどなのではないだろうか。知らず知らずのうちに、英語帝国主義の影響を受けている人は想像以上に多いのかもしれない。

 

 

英語に対するバランス感覚

章立てを紹介しておこう。

 

第一章 英語コンプレックスとは何か

第二章 英語コンプレックス状況の変化

第三章 私の英語コンプレックスの変化

第四章 英語コンプレックスの自然治癒

 

こうした視点から「国際語」としての英語が引き起こす独特のコンプレックス”が論じられるわけだが、あとがきの文章で、立脚点と同じく着地点もわかりやすい言葉で説明されている。

 

本書は、英語ができるようになる(する)ための本ではなく、英語なんかできなくてもいいと宣言する本でもなく、英語はできたほうがいいけれど、妙なコンプレックスを削ぎ落したほうが断然愉快だ、ということを伝える本である。

『英語コンプレックスの正体』より引用

 

英語というものと向き合っていく上でのそれぞれのスタンスを決めたり、距離感を知ったりするのに抜群に役立つ本だ。わずかな期間でネイティブ並の英語力をつける教材に頼る必要は一切ないし、かといって英語にかかわるものすべてを遮断し、反英語帝国主義的思想を声高に訴える必要もなさそうだ。

 

英語が大好きな人も大嫌いな人も同じ目線で読むことができ、英語に対する健やかなバランス感覚を保っていくための一冊になるはず。

 

【書籍紹介】

英語コンプレックスの正体

著者:中島義道
発行:講談社

ヨーロッパ中心主義、英語帝国主義の欺瞞を明晰に論じ、返す刀で、日本人のコンプレックスをあざやかに削ぎ落とす、エッセイの名手による英語論。著者自身が留学時代はじめ研究者生活のなかで味わった英語にまつわる理不尽や、自らのコンプレックスの根底を、名調子で読ませる、言語文化論エッセイ。

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