本・書籍
2019/6/18 20:00

蒼井優との結婚を聞き『山里亮太短編小説集「あのコの夢を見たんです。」』を読んだ。

女優・蒼井 優との結婚で注目を集めている芸人・南海キャンディーズの山里亮太。彼が2011年から『B.L.T』というアイドル雑誌で小説を連載していたことはあまり知られていない。タイトルは『山里亮太短編妄想小説集「あのコの夢を見たんです。」』、山里が今気になる女優やアイドルを主人公にした妄想ショートストーリー。

 

2019年4月、2011年から続いてきた連載が単行本となった。16ある章にはタイトルともに女優またはアイドルの名前が連なる。「天使の刃——平手友梨奈(欅坂46)」「追いかけたいの!——中条あやみ」「ガラスのカーテン——吉岡里帆」と並ぶ目次は壮観だ。あまりのインパクトに若干食傷気味となる。

 

「非モテの心」を色濃く描いた作品群

非モテ芸人だった山里の妄想録である。読者は学生時代を舞台としたスクールカースト上位の女子(女優orアイドル)と底辺の山里の恋物語を想像するだろう。マガジンで長年連載していた童貞妄想マンガの金字塔『BOYS BE…』のような物語をお望みの方は、まず「リトルスクールウォーズ——大友花恋」を処方したい。クラスの1軍に悪態をつく「闇4」という男子4人組と、サッカー部のマネージャー・大友花恋のふれあいが描かれる。

紙を中央から折る際に上底と下底を重ねるように、上位女子と下位男子が何気ないキッカケで一瞬だけ通じることがある。女子は忘れるが、男子は一生の宝として心に真空パック。ありがちな青春物語だがベタこそ美しい。

 

あくまでも妄想小説、本人の願望は色濃く表出する。よって、似た作品が多くなるのも必然。「その涙のあたたかさは——飯豊まりえ」「天使と悪魔——土屋太鳳」「鏡——松岡茉優」は、舞台設定が異なるものの描かれている内容は全て同じ。この世のものではない何かである山里と女優が出会う。結果、女優の人生が開けるといった内容。

例えば、飯豊の物語。山里と出会うことで後悔した1日をやり直せる“わがままリセットボタン”を手に入れる。しかし、飯豊はテストのヤマが外れた時、友達とケンカした時、告白に失敗した時と半径30m以内の世界だけでボタンをプッシュ。

物語の終盤には「後悔する日もあってこその人生だ!」と自らの間違いに気づき、ボタンを山里に返却。飯豊が人として成長したことが示唆されて物語は終わる。

 

「あのコ」への妄想を山里は現実にしたのか?

山里が書いた物語は主人公のモチーフとなった女優 or アイドルに読んでもらう。このシステムゆえに「あのコの夢を見たんです。」の主人公はオール清廉潔白だ。ゆえに、小説である良さがあまり活かされない。

そして、山里の芸の魅力である深い人間批評が小説内で展開されることは少ない。常人には言葉で表現できない、または人の内なる“悪意”を表出させることに長けている山里。表現するものを“悪意”から“善意”に切り替えできればいいのだが、電気のスイッチのように都合よくはいかない模様。「闇山里」から「光山里」への切り替えが出来ていない。雨上がり決死隊・宮迫博之いわくのオフホワイト状態、つまり中途半端。清廉潔白な心情への描写が読者の想像の範疇に収まっていた。

 

そのハイライトともいえるのが「すずとヤマ——広瀬すず」「マモラレ——優希美青」だろう。両作品ともに美しいヒロインの幸せを祈って、山里をモチーフとしたキャラクターが命を失う内容である。これに似た物語を誰しもが知っているため先が読め、意外な裏切りもない。

 

山里は“美しい生き物には美しい心が宿るのか”を考え抜いてきた人だと思う。僕は「あのコの夢を見たんです。」に、そういったことへの言及を期待していた。テレビで披露される批評眼が女優orタレントに向かうことを僕は求めていた。しかし、描かれていたのは性善説からなる物語。山里独自の視点を好むがゆえに残念だった。

しかし、あとがきには「本来の僕の姿が、僕がかかわるどんなものよりも出てしまっているのでは?とさえ思う」とも記載されていた。これを読むと、僕が山里を見誤っていたともいえる。普段見ている山里は悪役覆面レスラーで、マスクを取った素顔は誰よりも美しいもの愛す健全な心の持ち主なのかもしれない。プロレス業界的には善玉レスラーよりも悪役レスラーに良い人が集まるわけだし……、うーんわからない。

 

しかしあらためて、「あのコ」との妄想を繰り返してきた山里が、あの蒼井 優と結婚したというのは感慨深い。本書には蒼井 優は出てこないが、“現実は小説より奇なり”…小説にまでなった山里の妄想は現実となったというのは、あらためて本書を読むとこみ上げるものがあるのだ。

 

【書籍紹介】

山里亮太短編妄想小説集「あのコの夢を見たんです。」

著者:山里亮太
発行:東京ニュース通信社

山里亮太が綴る短編妄想小説が1冊の本になって発売! 旬な女優・アイドルをモデルに山ちゃんが妄想をして、
小説として執筆してきた連載が9年目を迎え、その数は60本を超えるまでに。そこで、連載の中から人気の高かったストーリー16本を厳選、加筆・修正を施し、連載掲載当時からさらにパワーアップしてまとめた1冊。

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