本・書籍
自己啓発
2019/7/22 21:45

「レンタルなんもしない人」は、現代人の心の奥底にある願望を満たす最強のサービスだ。

世の中には、どんどんと新しい職業が誕生している。

 

たとえばユーチューバー。いまさらの説明かもしれないが、「動画共有サービス『YouTube』上で独自制作した動画を公開している人」のことで、学研ホールディングスが発表した『小学生白書』によると、小学生が将来つきたい職業の第3位にランクインするほど、いまや子どもたち憧れの的である職業だ。

 

「職業」という括りからは少し離れるかもしれないが、「ホームレス小谷」という人物の生き方も、新時代の生業のひとつ。彼の自叙伝があるので、折を見てこちらでも紹介できればと思うのだが、彼の職業を一言でいえば「1日50円で自分を貸し出して、何でもする」人だ。

 

1日50円で、しかもホームレスで、どうやって生計を立ててるの? と訝しく思ってしまうが、1日50円で何でも一生懸命やってくれるから、お昼ご飯や夕飯をご馳走したくなるし、話せば話すほど仲良くなって、飲みに連れていきたくなるほどの関係性となり、結果ホームレス小谷氏の信用度がめちゃめちゃ上がる。そうして信用を積み重ねていると、何かお金が必要な局面に立ったとき、周りの人みんなに助けてもらえる。ホームレス小谷氏がクラウドファンディングを立ち上げると、これまで彼に依頼したことがある人たちは、我先にと助ける=結果的に必要なお金が集まる、という流れ。

 

にわかに信じがたいと思う人も多かろうが、時代は刻々と移り変わり、世の中のニーズがどんどん変化してきている。よって、時代に合った職業が生まれていくのだろう。

 

またまた新ジャンルのサービスが誕生!その名も「レンタルなんもしない人」

最近、また新たな職業(というかサービス?)が話題だ。その名も「レンタルなんもしない人」。2018年6月にスタートして以来、瞬く間にTwitterのフォロワーが増え、メディアでも続々と取り上げられるようになった。

 

レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』(レンタルなんもしない人・著/晶文社・刊)という本まで発売に!

 

どんなサービスは、その利用規約を読めば明らかだ。

 

【利用規約】

「レンタルなんもしない人」というサービスを始めます。

一人で入りにくい店、ゲームの人数あわせ、花見の場所とりなど、ただ一人分の人間の存在だけが必要なシーンでご利用ください。

国分寺駅からの交通費と飲食代だけ(かかれば)もらいます。

ごく簡単なうけこたえ以外なんもできかねます。

(『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』より引用)

 

つまり、国分寺駅(東京都)からの交通費さえ支払えば、一人ではやりにくかったこと、どうしてもあと一人いてほしいことなどを請け負ってもらえる。

 

…いや、請け負うというと「なにかしてもらう」定義になってしまうので間違いか。レンタルなんもしない人は、「なんもしない」ことが大前提。そこに「なにかする」が発生しそうな依頼は引き受けてもらえない。

 

たとえば「大人気店のスイーツを買ってきてほしい」という依頼は、「おつかいは僕の中では十分なんかしていることになり、お断りしてます」。でも、「行列に一緒に並ぶ」のならばOK。また、なんもしない依頼だとしても、「キャッチボールの壁になってほしい」だと、「ケガする可能性高いことはしません」と断られるのだそう。下記Q&Aからわかるように、依頼を引き受けるか否かは、レンタルなんもしない人の判断に委ねられているようだ。おもしろい。

 

Q「この依頼、地味だが責任重大ですし、『なんもしない』ではないですね」

A 俺の「なんもしない」は俺が決める……!

(『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』より引用)

 

 

「レンタルなんもしない人」の依頼例

さて、いったいどんな依頼が集まっているのだろうか。『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』からいくつかご紹介しよう。

 

・引っ越しを見送ってほしい

10年住んだ東京を離れて地元に帰る依頼人。東京駅まで誰かに見送りに来てほしいけど、友達だとしんみりしすぎてしまうため、レンタルなんもしない人にお願いした。

 

⇒これから旅に出る感あって、ワクワクしたとのこと。レンタルさん(レンタルなんもしない人)が家にいるシュールさもめちゃめちゃおもしろかったし、変に寂しい気持ちにならなかった点もよかったとは、依頼人の後日談。

 

 

・授業に間に合わない

朝が弱く、単位を落としそうな大学生。誰かと待ち合わせをすれば起きれるのでは?とレンタルなんもしない人に依頼。

 

⇒定刻通り依頼者が現れ、無事に授業に出られたとのこと。出会った瞬間別れるという、最短レンタル記録樹立。

 

・カラオケ同席、いろいろ

自分が好きなアーティストやミュージカル作品などの良さを知ってもらうための布教活動、とにかく歌いまくりたいけどお一人様に抵抗ありなため同席してもらう、友人と一緒だと気を遣って歌いたい曲が歌えないから、などなど、カラオケボックスに同席してほしい依頼もさまざまな様子。

 

・他人がいることで頑張れる

勉強が進まない、レポートが完成しない、原稿がはかどらないなどの悩みを抱える依頼者から、とにかく同じ空間に居てほしい、との依頼も多数。第三者の存在が、迫り来る提出期限や納期に向かって自分を奮い立たせるエネルギーとなるようだ。

 

・子連れ主婦ならではの悩み

ベビーカーの幼児と買い物をしたいが、自分がトイレに行きたいとき、洋服を試着したいときなどに、子どもを見ている目がないため、常々困っていた。あやす必要はなく、ただ見張るだけでいいので、買い物に付き合ってほしい。

 

⇒見ず知らずの人には頼めないけど、信用できる共通の知り合いがいることが判明して安心して依頼できたとのこと。

 

 

普段は接点がなく、ちょうどいい距離感で気を遣わない相手とだから叶えられること

「レンタルなんもしない人」の依頼例を見ていると、ものすごくユニークなものもあるが、多くは「私も依頼したい!」と共感できてしまう。

 

たとえば、私はジェットスターが大好きで、フリーパスを使って何度でも絶叫マシンに乗りまくりたい!という願望があった。学生時代は、幸い同じように「絶叫マシン狂」の友人を見つけたため、気が済むまで繰り返し乗りまくった想い出があるが、いまもう一度同じことをしたいと思っても、相手が見つからない。ある程度の年齢になると、無心になって好きなことに熱中する機会も少なければ、同じ仲間を見つけることも難しいのだ。家族や友人たちを誘うのも気が引けるし、結局楽しめない。

 

ほかにも、自分や周囲の人間を知っている人には話せないけど、誰かに話を聞いてもらいたいとき。まったく自分と関係ない人に、そっと背中を押してほしいとき。

 

そんなとき、レンタルなんもしない人に依頼すれば、絶妙な距離感で、気を遣わずに、かつ自分の欲求が満たせるのだ。

 

「レンタルなんもしない人というは、なんもできない僕がかろうじて見出した自分特有のボジション」だと御本人は語っているが、人の心の奥底にある願望にベストマッチした、素晴らしい職業ではないだろうか。

 

ただひとつ気になるのは、レンタルなんもしない人の収入だ。家族がある身とのことで、いくら交通費+αの贈り物や臨時収入があったとて、なかなか厳しいだろう。

 

実はもう一冊、『〈レンタルなんもしない人〉というサービスをはじめます。』(河出書房新社・刊)という本が発売された。こちらには、レンタルなんもしない人の考えや生き方について詳しく記されているというから、近々読もうと思っている。

 

おや? もしや、こうやって話題になり、着実にファンを増やし、本が売れ、印税につながり、結果的にレンタルなんもしない人の懐が潤うという仕組みなのか! やはり、レンタルなんもしない人は、時代の先駆けとなる生業である。ぜひ一度、何か依頼してみたいものだ。

 

 

【書籍紹介】

レンタルなんもしない人のなんもしなかった話

著者:レンタルなんもしない人
発行:晶文社

本書は2018年6月3日に「レンタルなんもしない人」というサービスがスタートした時から、2019年1月31日「スッキリ」(日本テレビ)出演まで、半年間におこった出来事をほぼ時系列で(だいたい)紹介するノンフィクション・エッセイです。本当になんもしてないのに次々に起こるちょっと不思議でこころ温まるエピソードの数々。

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