私は若いころからシャネルの大ファンだ。とはいえシャネルの洋服もバッグも1点も持ってはいない。しがないライターの私にはそれらは高価すぎるから。
シャネルというブランドが好きというより、シャネルの生き方に憧れ、彼女の残した数々の言葉が勇気をくれるから好きなのだ。シャネルの伝記は何冊も繰り返し読み、映画でもシャーリー・マクレーンが演じた『ココ・シャネル』や、オドレイ・トトゥが演じた『ココ・アヴァン・シャネル』を夢中になって観た。
そして最近、書店で見つけた『仕事と人生がもっと輝く ココ・シャネルの言葉』(高野てるみ・著/イースト・プレス刊)を読み、ますますシャネルって最高!と思っているところだ。
非常識を新常識に変える
英国の劇作家バーナード・ショーは「20世紀最大の功績を遺した女性は、キュリー夫人とシャネルだけ」と言ったそうだ。
シャネルが活躍した20世紀前半は女性は生活力のある男性に頼るのが当たり前で、装いも男性が好む女性像を象徴するものばかりだった。シャネルはそのことに憤り、女性をコルセットから解放し、着心地がよく自由に動けるファション・アイテムを次々と生み出していった。シャネルは常に非常識に挑戦し、それを新常識として世界に認めさせた発明家だったのだ。
本書は60の名言とその解説で構成されている。さっそく心に響くいくつかの言葉を紹介してみよう。
「わたしの人生の出発点は、本当に幸いだった。」
シャネルは恵まれない子どもだった。幼いころに母親が死に、父親には捨てられ修道院で育ったのだから。しかし、彼女は、それを幸いだったと言い切っている。裕福でヌクヌクと育った子女を羨むこともなく、むしろ、ファンションデザイナーとしての成功は厳しい修道院生活があったからこそ成し得たと振り返っていたそうだ。修道女の凛とした白と黒の装いを、のちにシャネルはデザインに取り入れ、これが世界で高く評価されることとなった。
ネガティブな精神は、何かを成し遂げたいと思うシャネルには無縁で、ポジティブに生きる先に必ず成功があると信じていたそうだ。
「わたしの最上の友は本である。ラジオが嘘つき箱とすれば、本は宝物だ。」
学校に行けなかった少女シャネルが多くを学んだのは読書からだったそうだ。
学びと気づきの達人ですから、たとえばお伽噺や三文小説のような本も熱心に読破して人生の片鱗を学ぶ、良き読書家だったのです。(中略)一方的な情報を電波に乗せて伝えるラジオやマスメディアを鵜呑みにしてはいけないとし、読み解いて自分で考えることが出来る本は、知性を得たり磨いたりするのに最適だと言っています。
(『仕事と人生がもっと輝く ココ・シャネルの言葉』から引用)
「翼を持たずに生まれてきたのなら、翼を生やすためにどんなことでもしなさい。」
これはすべての女性、いや男性たちにも贈りたいシャネルからの最大最強のメッセージと言えるだろう。仕事が行き詰まっていたり、やりたいことがあるのに無理だと諦めかけている人に、勇気と希望を与えてくれる名言だ。
さまざまなコンプレックスに囚われていないで、運命は自分で切り開けばいい。気に入らないことを変えるのは自分次第であることをシャネルは自らの生き方で手本を示してくれたのだ。さらに、それはシャネルだからできたのではない、と彼女はそうも言ったという。
仕事を続ける力は「少女力」の精神と「孤独力」という武器から生まれるそうだ。
ココ・シャネルがいかに偉大な女性であったかということよりも、少女のような目線を失わなかったことこそ、注目に値するところなのです。「わたしがやってきたことは、みんな子どものような無邪気さでやったことなの。」という言葉がありますが、生涯錆びつかせなかった、彼女の「少女の精神」。
(中略)加えて彼女が生涯を通じて手にした確たることが、仕事に必要なのは「孤独力」であること。(中略)彼女が信じて身につけたのが、「孤独力」。ぶれないこと、群れないこと、付和雷同しないこと、などなど。今の時代にこそ、最強の武器になりそうです。
(『仕事と人生がもっと輝くココ・シャネルの言葉』から引用)
「働いていることへの感謝を忘れて、そんなに働きたくないなら、働くのをやめなさい。働かないことが、どんなにみじめなことか、知るがいいわ。」
もしも会社の経営者なら大絶賛しそうな言葉だ。もっとも雇用者側からすれば強烈なパワハラ暴言でもあるが……。
1936年からシャネルの店でゼネラルストライキが起こり、1939年にはシャネルはこう啖呵を切り、3000人もの従業員を解雇して、なんと店を閉じてしまった。媚びることや妥協はしない生き方をしてきたシャネルは、自分と一緒に働く意思のない人たちばかりならば、自分も辞めましょうと、いったん幕を引いたのだ。その時、シャネルは56歳。
そして戦争を経て、1954年、71歳で店を再開、見事にカムバック。そして87歳でなくなる2時間前まで仕事を続け、伝説の人となったのだ。
生きるということは、仕事をするということ。働けることは幸せなことだと思うことの大切さをシャネルは今も私たちに伝えている。
「失敗しなくちゃ、成功しないわよ。」
成功した先人たちが皆口を揃えて言ったのが、失敗は成功の元。
15年間のブランクの後、シャネルはフランスのコレクションで再デビューしたものの不評で、マスコミからもさんざん叩かれた。その時落ち込むスタッフたちに言ったのがこの言葉。
負のパワーに動揺することなく、ダメを認めて次に進む、悩むことなく次を目指す。その信じる力がやがては成功を呼び寄せることになる。
シャネル・ファッションはその後アメリカで大評判となり、やがて世界に名だたる不滅のシャネル・スタイルが作られていくことになった。
失敗を成功に導く力は、打たれ強いポジティブ精神に尽きる。
この他にも本書には、「自分を信じる力」をよみがえらせてくれるメッセージがいっぱいだ。
【書籍紹介】
仕事と人生がもっと輝くココ・シャネルの言葉
著者:高野てるみ
発行:イースト・プレス
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