本・書籍
2019/7/16 21:45

さくらももこ『ももこの話』で鮮やかによみがえる故郷・静岡の夏、フェスタの夏

清水市(現在は静岡市清水区)を舞台にした小学校3年のまる子の日常生活を描いたコメディ漫画「ちびまる子ちゃん」が来年2020年にアニメ化30周年を迎えるそうだ。

 

私も静岡市の出身だが、上京してしばらくの間は「ご出身は?」と聞かれるのが嫌だった。理由は簡単で都会人に見られたかったからだ。それが「ちびまる子ちゃん」以降は「まるちゃんと同じ、静岡です!」と堂々と答えられるようになった。作者のさくらももこさんが”故郷を素直に愛する心”を教えてくれたからだ。

 

悲しくても笑えてしまう

さくらさんが突然、この世を去ってからもうすぐ一年になる。「ちびまる子ちゃん」はもちろんのこと、彼女が書いた数々のエッセイ本の大ファンである私は、さくらさんの早すぎる死が悲しくて悲しくて、本棚にあったいくつかのエッセイ本の中から『ももこの話』(さくらももこ・著/集英社・刊)を引っ張り出し、あらためて読みはじめた。

 

本書はさくらさんの子ども時代の思い出を綴ったもので、作者の投影である「ちびまる子ちゃん」でもアニメ化された話もある。さくらさんを偲びながら静かに読んでいたのだが、2本目の「風呂で歌をうたう」で、こらえきれずゲラゲラと声をあげて笑ってしまった。

 

親子で湯船につかりながら父親のヒロシに流行歌を教える話だが、何度教えてもヒロシは間違える。きっとあのころ、どこの家庭でもあっただろう日常のひとこまを、ここまで愉快に文章にできるさくらさんは、やっぱり天才だ!とあらためて思ったのだ。

 

 

おもしろい文章こそ難しい

しかし、笑える愉快なエッセイを書き上げるのに、さくらさんはとても苦労をしていたらしい。本書のあとがきにはこう記されている。

 

七枚もすすめたところで”なんかコレ面白くないなァ”と思い、書く気がなくなりボツにした。このように私は、せっぱつまっていても「もういいやコレで」などと自分を甘やかさないのだ。自分にムチを打ち、また新たに書き始めた。五枚すすんだところでまた気に入らなくなりそれもボツにした。計十二枚、OKなものが書けてりゃ一本あがった枚数である。

(『ももこの話』から引用)

 

スイスイと読めて、思わず笑い出してしまう、みんなに愛さるエッセイこそ、書き上げるのはとても難しいことなのだ。きっと世に出た文章より、さくらさんが自らボツにした原稿のほうがはるかに多いだろうことは想像に難くない。

 

 

懐かしの”フェスタしずおか”

さて、本書の中で、私がいちばん好きな話は「フェスタしずおか」だ。このエピソードは「まる子 フェスタしずおかへ行くの巻」でアニメ化もされている。

 

フェスタしずおかは、1972年から1999年までの毎年8月に静岡市の駿府公園で行われていた夏祭りで、野外ステージでは人気歌手によるミニコンサートが開かれ、スターたちを無料で観られるとあって、大いに盛り上がったのだ。

 

私が小学校三年生の時、フェスタしずおかに西城秀樹と山本リンダと城みちる他が来ると新聞に大きく発表された。(中略)これはもう、三日間ぶっ続けでフェスタしずおかに行くしかない。(中略)小学校三年生の時にお祭りで人気タレントを見たという思い出は、大人になってからもずっと素晴らしいものを見たという大切な思い出として残るに違いない。

(『ももこの話』から引用)

 

 

しかし、三日間は許されず、父親のヒロシにどっちか一日に決めろと言われたそうだ。

 

ヒデキかリンダかどっちかにしろなんて、腹が減ってる時にスシか天プラかどっちかにしろと言われた時より悩むところだ

(『ももこの話』から引用)

 

結局「ヒデキは去年も来たから来年も来てくれるだろう」と考え、山本リンダと城みちるを見に行くことにした話でまとめられている。

 

そのころ、私は高校生だったので、親の同伴なしで毎年友だちとフェスタしずおかを楽しんでいた。もちろん女子高生たちのお目当ては西城秀樹で、ある年は突然の雨に濡れながらもみんなで「ヒデキー!」と叫んでいたものだ。ヒデキはフェスタしずおかの最多出演者で、静岡の人々は彼を「ミスター・フェスタしずおか」と呼んでいた。

 

そのヒデキも去年、さくらさんより2か月先に天国へと旅立ってしまった。なんとも寂しい限りだ。しかし、さくらさんのこのエピソードを読むたびに、懐かしい静岡の夏が鮮やかに蘇ってくるのだ。

 

 

”ちびまる子ちゃんのマンホール”を見に、ぜひ静岡へ

故郷をこよなく愛したさくらさんは生前、静岡市に”まる子のマンホール”をデザインし寄贈していた。静岡市が発行する「広報しずおか」にさくらさんからのメッセージが掲載されていたが、その日付はなんと亡くなる直前の2018年8月7日で、

 

――マンホールのデザインに色々なものがあることを知り、静岡にまる子のマンホールがあれば可愛いなと思いました。今回、「お茶、富士山、駿河湾」をコンセプトに、2つのマンホールが出来ました。まる子デザインのマンホールの蓋も、みなさんに喜んで頂けるとうれしいです。--

 

と、あった。

 

マンホールはさくらさんの死後、昨年秋に設置された。一枚はJR清水駅の西口、もう一枚は、静岡鉄道・新静岡駅の南側だ。静岡鉄道は静岡と清水を結ぶ電車で、フェスタしずおかにも電車に乗って行ったと書かれていたので、きっとさくらさんもよく利用していたはずだ。

 

2か所のゆかりの地に設置されたマンホールを見るために今では全国からファンが訪れているという。

 

この夏、さくらももこさんのエッセイを読み、そして夏休みには、ちびまる子ちゃんの舞台を満喫できるを静岡市を旅してみてはいかがだろう。

 

【書籍紹介】

ももこの話

著者:さくらももこ
発行:集英社

いつも食べきれなかった給食。父ヒロシに懐メロを教えるのに苦労したお風呂の時間。おこづかいをつぎこんだ紙しばい屋。黄金の小学三年生時代―まる子だったあのころのつきない思い出と、爆笑エピソードの数々。涙が出るほど笑ったあとは、ほんわか胸があったかくなる、ベストセラーエッセイのシリーズ完結編。巻末Q&A収録。

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