ついに始めてしまった。株式投資。60歳になる前に本格的に始めたかったので、タイミングは悪くない。ゲームやシミュレーターで自分なりの理論を構築して完全に自分のものにしてから、と思っていた部分もあるんだけれど、筆者は走りながら考えるタイプだ。とにかく好きな銘柄から買ってみることにした。
株式投資を始めて変わったこと
走りながら考えるタイプとはいったものの、筆者には瞬発的な決断力も冷静な戦略眼もない。性格的にはきわめて慎重、ともすれば臆病な部類に入ると思う。だから、お金について漠然とした心配を抱くこともある。
そんな筆者が現時点での指針としているのが、『臆病者のための億万長者入門』(橘 玲・著/文藝春秋・刊)だ。投資との距離感が筆者のそれときわめて近く感じられるので、とても気に入っている。
資産運用は金儲けの手段ではなく、人生における経済的なリスクを管理するためにある。そんな「臆病者の投資家」にとって、資産運用でもっとも大切なのは目先の利益ではなく、将来の予期せぬ経済的な変動から自分や家族の生活を守ることにあるはずだ。
『臆病者のための億万長者入門』より引用
筆者の父は自営業者だった。そして筆者と同じく、お金に関しては臆病なタイプだった。具体的な行動としては生命保険に加入するくらいで、“攻め”の手は一切打たず、できるだけ支出を控え、“持っている”という形でお金に関する不安を消そうとしていた。でも、筆者は思う。お金というものはただ追い続けるだけでも、ただ守ろうとするだけでもだめなのではないか。
武器は“増やしたい”気持ち
章立てを見てみよう。
第1章 資産運用を始める前に知っておきたい大切なこと
第2章 「金融の常識」にダマされないために
第3章 臆病者のための株式投資法
第4章 為替の不思議を理解する
第5章 「マイホーム」という不動産投資
第6章 アベノミクスと日本の未来
終章 ゆっくり考えることのできるひとだけが資産運用に成功する
筆者に“資産”と呼べるものがあるわけではない。ただ、不安要素を消したいという気持ちはものすごく強い。ひょっとしたら、それは“資産”を持っている人たちのモチベーションに勝るかもしれない。少なくとも負けることは絶対にないはずだ。
モチベーションを高いレベルで保っておく
自分なりのモチベーションに盛り上がっている筆者が一番興味を持ったのは、現状とリンクする第3章だ。そもそも株価というものはどのように決まるのか。本書では、「株価は、将来の一株あたりの利益の総額を現在価値に換算したものである」と明快に定義されている。
この定義から始まり、ひと株あたりの割高・割安感--筆者自身も最近覚えた言葉だ――について触れ、株が預金や債券などと同じ金融商品であるという目線で話が進んでいく。
そもそも筆者が株を始めたのは、銀行に預けているだけではお金は絶対に増えないからだ。「預けておけば減ることは絶対にない」と言う人もいるだろうけれど、筆者のお金に対する姿勢はそこまで消極的ではない。だから、リアルなリスクにならない範囲内の金額で増やす努力をしていくことにした。
株という言葉に独特なアレルギー反応を見せる人はいまだにいるだろう。それは、株というものの不確実な部分を必要以上に意識してしまうからだと思う。しかし、株式投資についてのすべてが不確実であるわけでは決してないのだ。
現代のファイナンス理論は、因果論的な株式市場の解釈を“占い”として否定することから始まった。だがこれは「未来のことなんかわからない」という不可知論ではない。1年後の株価を知ることはできないとしても、理論上は、株式市場のおおよその傾向を判断することは可能なのだ。
『臆病者のための億万長者入門』より引用
日足、週足、月足。株価の推移を表すチャートは、日単位で見ても年単位で見ても、確かに何らかの法則性が感じられる。そういう気がしはじめている筆者にとって、この文章はとてもリーズナブルに響く。
指針でもあり、優秀なサバイバルキットでもある一冊
不動産投資についての第5章も面白かった。命題とも思える「持ち家VS賃貸論」も、橘さんによれば、市場経済ではどちらかが絶対に得だということはあり得ない。ローンを組んでのマイホーム購入を一種の投資ととらえるか。あるいは、賃貸物件の家賃は生活を営む拠点の使用料であると考えるか。ひとつだけ言えるのは、臆病者にとっては、マイホームの価値を信じ過ぎないほうが安全策であるようだ。
筆者は、億万長者になろうと思っているわけではない。将来生まれるかもしれないお金の不安をひとつでも多く払拭したいだけだ。そういう意味で、きわめて優秀なサバイバルキットを手に入れたと感じている。
【書籍紹介】
臆病者のための億万長者入門
著者:橘 玲
発行:文藝春秋
臆病者だからこそ億万長者になれる! 年金崩壊に国家破産…。不安が尽きない時代に「虎の子」をいかに守り、増やせばいいのか? 宝くじ、年金、保険、為替、株、投資信託、不動産…。投資術を極めた作家が、資産運用で成功するための金融の常識を教えます。