本・書籍
2020/1/20 21:30

外国人向け町屋旅館のマネージャーが教える古都の魅力――『京都で町屋旅館はじめました』

「そうだ 京都、行こう」

JR東海のCMを見るたびに、たまらなく京都へ行きたくなるのは私だけではないだろう。パリに暮らすわが娘も「今度帰省したら、ぜったいに京都へ行く! 日本人として京都を知らないなんて恥ずかしいよ」とまで言っている。フランス育ちの娘はまだ京都へ行ったことがない。何度も帰省はしているものの家族が住む街とその周辺の親戚巡りをするだけで日本の観光地は何処にも行ったことがないのだ。日本が好きですでに日本各地を旅したというフランス人は多く、娘は彼らからその魅力を聞かされることが多いのだという。

 

というわけで、今年こそ京都に行こう! と決めた。で、書店に行くたびに京都のガイドブックをパラパラとめくっているのだが、ちょっとおもしろい京都のエッセイ&ガイド本を見つけた。それが、『京都で町屋旅館はじめました』(山田 静・著/双葉社・刊)だ。

 

旅の編集・ライターが京都の旅館のマネージャーに!

本書は、旅専門の編集・ライターの山田さんが、外国人向けの町屋旅館のマネージャーに抜擢され、その準備から開業してからの日々を綴ったもの。ちなみに山田さんは山梨県の出身で先祖代々八ヶ岳から西には住んだことのない根っからの”あずま女”だそう。

 

素人が京都の旅館のマネージャーなんて身の程知らずすぎと当初は思ったそうだが、長年、旅に関わり続け、それまでは自分が外に行き続けていたが、逆に旅人を迎える立場になってもいいのでは? という友人たちからのアドバイスもあり、奮起一発、仕事を引き受けることになったと記している。

 

この町屋旅館とは、「京町屋 楽遊 堀川五条」。2016年6月に開業した二階建て全7室の旅館で、今年2020年春には増築して11室になるという。

 

旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の「外国人に人気の日本の旅館」で2017年には見事1位、2019年には4位だったが、同サイトのトラベラーズ・チョイス・アワードを受賞している。

 

 

商売大好きの京都人

山田さんが京都に移り住んでいちばん心配したのが、「ヨソモノ、あるいは一見さんは相手にされないんじゃないか」ということだったそうだ。が、しかし、観光や旅館業ではそれは杞憂だったそう。宿屋の仕事は京都人だろうが、外資系だろうが歓迎される感触だったとか。マネージャーとしての最初の重要任務は。備品を一から調達していくことだった。

 

京都に縁もゆかりも知り合いもいないがゆえに、ひとつひとつ地道に業者を探していったのだが、老舗だろうが中堅どころだろうが、誰も彼もが、「明日、現場行きますよ(中略)」「はい、これから車でそっちに行きますから、会ってお話しましょ」

こんな具合で、動きがはやい。(中略)さらに話の流れで、楽遊的に「高くも安くもない価格」に落とし込むのがうまいし早い。気がつくと発注しているんである。(中略)このスピード感と巧みさは、京都の商売人の多くが、大きく店を広げるより、小さく手堅く商いをしていることに関係している、とある人に教わった。

(『京都で町屋旅館はじめました』から引用)

 

床の間に飾るもの、寸庭に置くもの、テーブルに椅子、座布団などなど、開業に向けて準備していく上で、出会った京都の職人たち、商人たちとのやりとりがおもしろおかしく描かれている。そしてそれが普通のガイドブックにはない、京都の奥深さを伝えてくれているのだ。

 

いよいよ、町屋旅館オープン!

 

数か月の準備期間を経て、町屋旅館はいよいよ開業した。最初はフェイスブック上で告知し、その後、ホテル予約サイト「ブッキング・ドット・コム」に掲載すると、たちまち予約の嵐となったそうだ。観光都市・京都は慢性的宿不足だからだ。

 

「たかが7部屋」と完全にナメてかかっていて、素人の私ひとりが予約窓口となったものだからさあ大変。業務の流れも仕組みも決めていないままマネージャー業と予約管理業、問い合わせ対応をいっぺんに背負うことになり、しかも掲載2日目にして悪名高いノーショー(No Show=予約したのに来ない)も食らったりして、掲載3日目にして大わらわ。私はあっという間に気力体力集中力の限界を超えてしまった。

(『京都で町屋旅館はじめました』から引用)

 

 

タフで明るい外国人観光客

しかし、その後、そんな山田さんを救い、やる気と元気を取り戻すことができたのは、陽気な外国人ゲストたちのおかげという。

 

はじめてのゲストはスペイン人のハネムーナーで、とりあえず2泊の予約だったが、宿を気に入られ8連泊もしてくれたのだそうだ。外国人観光客の多くは新幹線も乗り放題のジャパン・レール・パスを持っているので、日帰りで京都から広島、金沢に行くことも可能なのだ。

 

その後も、次々とやってくる外国人。イギリス人のバックパッカー、自転車で京都を巡ろうというドイツ人、マンマがすべてを仕切るイタリア人家族、10人の親族旅行の中国人などなど、ホストとゲストが繰り広げるエピソードの数々がとても愉快だ。

 

そして、SNS上の口コミが宿の人気を左右する時代。ゲストたちが予約サイト載せてくれる良い口コミのおかげで町屋旅館はますます繁盛しているようだ。

 

 

古都への興味は尽きない

さて、山田さんの本業は旅のライター。本書には独自の京都案内もあり、旅の参考になる。さらに、彼女が読んで面白かった、役に立ったという”京都本”がリストアップされているので紹介しておこう。

 

○京都ここだけの話(日本経済新聞京都支社編・日経プレミアシリーズ)

○京都ぎらい(井上章一・朝日新書)

○怖いこわい京都(入江敦彦・新潮文庫)

○京職人ブルース(文=米原有二、絵=堀道広・京阪神エルマガジン社)

○くらべる東西(文=おかべたかし、写真=山出高士・東京書籍)

○京都・観光文化時代MAP(光村推古書院)

○深ぼり京都さんぽ/ねうちもん京都(グレゴリ青山・集英社インターナショナル/KADOKAWA)

○はらへりあらたの京都めし(魚田 南・祥伝社)

 

長い歴史が重厚な層をつくっているこの古都では、行ったことのない場所、見たことのない祭事やイベント、知らないことの方がまだはるかに多いし、温かくときにシビアな京都人への興味、さらには世界中からやってくるゲストたちの考え方や行動にも相変わらず興味しんしんだ。

(『京都で町屋旅館はじめました』から引用)

 

外国人に混ざって町屋旅館に泊まるのもおもしろいかも? 本書を読み終え、そう思っているところだ。

 

【書籍紹介】

京都で町屋旅館はじめました

著者:山田 静
発行:双葉社

根っからのあずま女が、京都の旅館でマネージャー? 町家旅館の開業準備から、3年余りのドキドキとドタバタの日々、宿屋をやってわかった古都の奥深さ、町家の魅力、お気に入りスポット、「いけず」の実態、外国人から見た日本の姿etc.…あずま女のKYOTO暮らしエッセイ&ガイド。

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