本・書籍
2020/2/27 21:45

海外ロングステイの光と影――彼らはなぜフィリピンへ「脱出」したのか?

フジテレビ系で日曜日の14時から放送されている『ザ・ノンフィクション』には日曜の昼下がりの番組とは思えない、なんとも言えない切なさを漂わせる回がいくつもある。

 

その中でも筆者に鮮烈なイメージが残っているのが、2019年5月に放送された「黄昏れてフィリピン~借金から逃れた脱出老人~」だ。わけあって日本を脱出し、フィリピンで暮らすシニア層の人たちを追った内容なのだが、この人たちのライフスタイルが脳裏から離れない。

 

日本を脱出する老人たち

この回の原作的な役割を果たしたのが『脱出老人~フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち~』(水谷竹秀・著/小学館・刊)という本だ。著者水谷竹秀さんは「日刊まにら新聞」の記者として2004年からフィリピンで生活し、日本人が関係する事件の取材をこなしてきた。まえがきに以下のような言葉が記されている。

 

若い女性と結婚したものの、英語もタガログ語もままならず、この国でどうやって生活をしていくのだろうか、と首を傾げざるをえない高齢者たちもいた。そんな取材を続ける中で遭遇したのが、無一文でこの国に暮らす「困窮老人」と呼ばれる男たちだった。フィリピン人女性を追い掛けて金を使い果たし、捨てられてホームレスのごとく転落してしまった失意の日々……。

『脱出老人~フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち~』より引用

 

いきなりヘビーな展開ではないか。

 

 

日本にいるよりも幾分かの幸せを求めて

海外ロングステイ。この響きのよい言葉に魅力を感じる人の数は多いにちがいない。筆者自身もそうだ。シニア層を中心に、多くの人々が集まるイベントも頻繁に開催されている。ただ、その人気に呑み込まれて見えなくなっている悲惨な事実があることも忘れてはならないようだ。

 

日本では想像できないほど豊かな生活を送っている高齢者もたくさんいる。ただ、“豊かなセカンドライフ”が100%保証されているわけではない。日本の年金をもらいながら豪邸に住み、運転手付きの車で買い物に行き、週末は友だちを大勢集めてホームパーティー。そんな“極上”の生活を送ることができる人ばかりでは決してないようだ。

 

一方で夢破れ、帰国した年金生活者も少なくない。そこには「極上」という美辞麗句だけでは語れない現実が潜んでいる。それでも日本で老後を送るよりは幾分、幸せな生活を過ごすことができるだろうと、老人たちは次々に日本脱出を果たした。

『脱出老人~フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち~』より引用

 

日本で老後を送るよりも幾分の幸せ。そんなあやふやなものに賭けなければならない人もいるということなのだろう。

 

 

脱出後の心構え

ある程度の年齢を迎えてから日本を脱出しようという動機はいろいろだ。章立てを見てみよう。

 

第一章 寂しさからの脱出

第二章 借金からの脱出

第三章 閉塞感からの脱出

第四章 北国からの脱出

第五章 ゴミ屋敷からの脱出

第六章 介護疲れからの脱出

第七章 美しい島へ

 

ネガティブなワードがこれでもかと並んでいる感は否めない。病気、ビザの落とし穴、言葉の問題…。リアルなケーススタディから透けて見えるのは、「こんなはずじゃかなった」という狼狽と焦燥感だ。しかし著者は、悲惨な実態を踏まえた上で、エピローグに次のような言葉を記す。そして読者は、少しだけ救われた気がするのだ。

 

ただし、フィリピンでの取材を通じてこうは言える。日本でそのまま暮らしたら寂しい老後を送っていた可能性の高い高齢者たちが、フィリピンに来たから幸せになった、という事実だ。

『脱出老人~フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち~』より引用

 

どこに住むにせよ、幸せになるための最低限の条件とは何だろう。それは、「その土地に住ませていただく」という心構えである、と著者は語る。ただ、思いのほかあっけないこの第一歩を踏みまちがえてしまうと、日本脱出生活のクオリティーやゴールもそれなりのものとなるようだ。

 

レジャーはもちろん、語学留学の行き先としても人気が高まってきているフィリピン。大都市ではなくても、瀟洒なホテルや語学学校の近代的な建物が多くなったと聞く。そういう街並みから通りひとつ隔てたところで、日本人シニア層が主役の、日本にいるわれわれには想像もつかない暮らしがひっそりと営まれていることも忘れるべきではないのだ。

 

 

【書籍紹介】

脱出老人~フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち~

著者:水谷竹秀
発行:小学館

高齢化社会の将来を占う渾身ルポルタージュ。一年中温暖、物価は日本の3~5分の1、やさしく明るい国民性、原発ゼロ、年の差婚当たり前。日本で寂しく貧しく苦しい老後を過ごすなら、いっそのことフィリピンで幸せな老後を送りたいと、日本脱出の道を選んだ高齢者たちは少なくない。はたして、老後の楽園はフィリピンにあるのだろうか。果たして、現実は……。

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