あなたは、『遠野物語』を読んだことがありますか?
『遠野物語』は、1910年に民俗学者の柳田国男が出版したもので、岩手県遠野市に”今”残されているお話を地元の青年から聞き、1冊にまとめた小噺集。現代の人でも読みやすいようにと口語訳されているものや漫画も多数出版されてはいます。が、聞いたことがあっても「よくわからない」と途中でやめてしまう人も多く、魅力いっぱいの内容なのになかなか読んでもらえず、悔しいなーといつも思っています。
というのも、私はこの『遠野物語』が生まれた岩手県遠野市出身。面白い話がいっぱいあるのですが、読んでみて! とおすすめしても「よくわからない」と言われてしまうことが多々ありました。でもこの『関西弁で読む遠野物語』(柳田国男・著、畑中 章宏 ・著&翻訳、スケラッコ・イラスト/エクスナレッジ・刊)ならすべての日本人に「おもろいやん!」と思ってもらえる一冊になる! と確信しました。今回はこの『関西弁で読む遠野物語』をご紹介します。
なんで関西弁なん?
元々『遠野物語』は、地元の青年から聞いたお話を一冊にまとめた本でしたが、普遍的な民俗資料とするため著者である柳田国男は口語体をさけ、文語体で書き残しました。そのため、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/001566/files/52504_49667.html)に残っている『遠野物語』を読んでみると、現代人には読みにくく「いやぁ〜”なり”とか、”べし”とか言われてもなぁ」としっくりこない部分がたくさんあるわけです。
じゃあ遠野の方言にしたらいいじゃん! と思いますが、「あんやまんず」とか「なんじょにしてぇ」とか「トトとガガ」とか言われて、何かわかりますか……? わからないですよね(笑)。そこで今の日本人にも分かりやすい関西弁に翻訳しようと考えたそうです。
関西、なかでも上方は説教節にはじまり、義太夫節や浄瑠璃など「語り物」の芸能がさかんでした。またいまでも落語や漫才、お笑い番組などで関西弁による語りは、多くの日本人に親しまれています。おかしみと親しみをそなえた関西弁で『遠野物語』を翻訳すると、わかりやすく、また楽しく読むことができるのではないかというのが本書の狙いなのです。
(『関西弁で読む遠野物語』より引用)
翻訳をされた大阪出身の民俗学者で作家の畑中さんの狙い通り、めっちゃおもろかったです! また、この『関西弁で読む遠野物語』は
・妖怪・霊獣・神様編
・不思議な動物編
・怪異・不思議な話編
と、項目別に掲載されているので、番号でずら〜っと資料的に並んでいる本来の『遠野物語』よりも読みやすくなっています。初めて読む方の入門としても個人的には超おすすめですし、お子さんへの読み聞かせ本としても楽しめるでしょう。
大好きな、乙爺の話
『遠野物語』と言えば、馬と娘が登場する「オシラサマ」や、幸福をもたらす? 子どもの姿をした神様「ザシキワラシ」、村人に悪さをする「かっぱ」などが有名どころですが、私が大好きな話をここで紹介させてください。
それは、乙爺(おとじい)さんです! 物知りで有名で、遠野の昔話をよく知っている人なのですが、ある特徴のため聞きたくても聞けない事情があります。
乙爺は最近、遠野の昔話をよう知ってるさかいに、
「だれかに話してきかせときたいもんやなぁ」
て口癖みたいに言うてます。せやけど、乙爺があんまり臭いもんやから、家に立ち寄って聞こうとするもんなんかおらしまへん。
(『関西弁で読む遠野物語』より引用)
もし、現代にいたら『水曜日のダウンタウン』とかに登場しそうなくらいのインパクト! ちなみに、『遠野物語(上)』では、以下のように書かれています。
年頃遠野郷の昔の話をよく知りて、誰かに話して聞かせ置きたしと口癖のようにいえど、あまり臭ければ立ち寄りて聞かんとする人なし。
(『遠野物語(青空文庫)』より引用)
同じ話なのに、言い方でこんなにも想像力が高まるかと思うと、どうですか? ちょっと興味を持っていただけたでしょうか?(笑)
「オチ」ではなく、「どんどはれ」で終わる物語
これだけ”関西弁”で読み続けていると、漫才の「もうええわ!」ようなオチが欲しくなってしまう方もいるかもしれません。でもこの『遠野物語』の中には、オチもなく「え、そこで終わり?」と、突然終わるお話もたくさんあるんです。じゃあ何で終わらせるか? 実は結びの言葉があるのです。
「昔々」の話の終わりは、どれかて「コレデドンドハレ」ゆう言葉で結びまんねん。
(『関西弁で読む遠野物語』より引用)
すべての物語の最後に「コレデドンドハレ」という言葉はついていませんが、『関西弁で読む遠野物語』をお子さんなどに読み聞かせするときには、ぜひ「ドンドハレ」を物語の終わりにつけてみてください。
たくさんの話が掲載されていますが、どれも個性豊かで、教訓になるような物語がたくさんあります。おうち時間が多くなっている昨今、ちょっとおもろい昔話で家族団欒なんていうのもおすすめでっせ!
【書籍紹介】
関西弁で読む遠野物語
著者:柳田 国男 (著)、畑中 章宏 (著、翻訳)、スケラッコ (イラスト)
発行:エクスナレッジ
『遠野物語』は、日本民俗学を始めた柳田国男(1875~1962)が現在の岩手県遠野市出身の佐々木喜善(鏡石)から聞き書きした話をまとめ、1910年に出版したものです。『遠野物語』の怪異かつ濃密な世界に入っていくのに、文語体に阻まれて戸惑う人も少なくはないでしょう。そんな『遠野物語』の語りを甦らせるため、語り言葉として現在多くの人に受け入れられている、関西弁に「翻訳」しました。思わず声に出して読みたくなる、新しい遠野物語です。