本・書籍
2020/4/28 21:45

岩田健太郎氏に学ぶ、新型コロナウイルスを「正しく怖がる」ために必要なこと――『新型コロナウイルスの真実』

テレビも新聞も、新型コロナウイルスのニュースばかりである。

 

それどころか、ママ友からのLINEで「隣町のマンションで感染者が出たらしいよ」という情報が届いたり、父親から「親戚の○○さんが勤務している病院で新型コロナウイルスの感染が確認されて、外来が中止になったみたいだ」と連絡がきたり。

 

もう遠いどこかの話ではなく、自分のすぐそばまで新型コロナウイルスは近づいてきていると感じる。

 

この非常事態のもとで陥りがちなのは、ただ闇雲に「怖い! 恐ろしい!」とパニックに陥ること。事実、多くの人が「よくわからないけど、とにかく怖い!」と叫んでいるように思う。

 

けれど、いま必要なのは、“正しい知識をもって、正しく怖がること“ではないだろうか。

 

先日ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、船内の状況を動画で公開したことで一躍時の人となった岩田健太郎氏の著書『新型コロナウイルスの真実』(ベストセラーズ・刊)は、新型コロナウイルスを正しく怖がるためにピッタリの一冊だ。

「マスクは必要か不要か」という議論は不毛?

岩田氏は、本書の「はじめに」の中で、ズバッとこう述べている。

 

新型コロナウイルスから自分を守るために一番大事なものは、情報です。

(中略)

同様に、結論を決めつけない姿勢も大事です。

(『新型コロナウイルスの真実』より引用)

 

つまり、今回の新型コロナウイルスについて大切なのは、まずは感染症とはなにかという基礎知識を得ること。そのうえで、対処法を考えること。そして、未知なるウイルスのため、新しい情報が入ってきたら、柔軟に考え方を変えることなのだ。

 

たとえば、マスク。

 

いまや外を歩く人を見渡せば、ほぼ全員がマスクをしているような状況だ。先月取材に行ったある施設では、マスクをしていないと建物内に入れなかった。感染症のプロと言われている人たちも、「外出時には必ずマスクを!」と啓蒙している。

 

一方で、岩田氏や私がよく知る小児科医をはじめ、ちょっとした外出ではマスクはしていないという医師も少なくない。

 

これはマスクのことだけではなく、物事には必ず対極となる考え方がある。黒か白か、自分なりの結論を出すことは必要だが、その結論だけにこだわってしまって、反対意見に耳を傾けなかったり、新しい情報を排除してしまっては、なんの意味もないのだ。

 

だったら一体マスクをするべきなの? しなくていいの? と我々一般人は戸惑ってしまうのだが、ここで重要となるのが、そもそもコロナウイルスとはなんなのか? という「感染症の原則」である。

 

 

「ウイルスと細菌の違い」と「感染経路」を知る

大前提となる「新型コロナウイルス」とはなにか? という点。そもそも、ウイルスと菌の違いも怪しい人は多い(私を含めて)ので、岩田氏はここから解説してくれている。

 

・ざっくり区別すると、ウイルスは抗生物質が効かない、菌は抗生物質で殺せる

・新型コロナウイルスは、多くの人は感染してもまったく症状が出ないまま終わり、症状が出ても8割は軽い症状で治る、残りの2割が重症化する

・PCR検査の結果は、100%正しいわけではない

・感染経路は「飛沫(ひまつ)感染」と「接触感染」が主な2つ

・接触感染には「手指消毒」が大切

・飛沫は人間からしか出ず、いったん床に落ちた水しぶきが、再び空気などで舞い上がることはない

・マスクは飛沫が飛ぶのを防ぐものであり、ウイルスを防御する能力はない

(『新型コロナウイルスの真実』より一部抜粋・要約)

 

これまで私は、「もし自分が気づかないうちに新型コロナウイルスに感染していたとしたら、無症状でも誰かにうつしてしまうかも……」と怖かったのだが、症状が出ていない=くしゃみや咳などからの飛沫によってウイルスが飛び散ることがほぼないということなので、第三者に移す可能性はかなり低いということになる。ちょっと安心だ。

 

一方、マスクはどうしても隙間ができてしまうので、完全なる予防策ではないと岩田氏。自分に症状がなければ、する必要はないとのことだ。となれば、マスクよりも大切なのは、ソーシャルディスタンスをしっかり確保すること、という結論に至る。

 

けれども、誰しも不意に咳が出てしまうこともあるし、花粉症で鼻がグズグズの人だって少なくないし、接触感染に気をつけていながらどうしても顔をすぐに触ってしまう人もいる。

 

これらの情報を知ったうえで、「自分はマスクをすべきだ」と判断したら、着用すればいいと思う。咳もくしゃみもしていない人がノーマスクだからといって、白い目で見るのは違うのだ。

 

 

「思考停止状態」だけは避けたい

今回、岩田氏の一冊は大変勉強になった。例のダイヤモンド・プリンセスで起こっていたことも赤裸々に描かれているし、最終章の「どんな感染症にも向き合える心構えとは」は、今回の新型コロナウイルス騒動だけでなく、これからの生き方の指南だと感じた。

 

けれど、岩田氏の教えを100%信じることもまた危険だと思うのだ。マスクは絶対だと唱える専門家は、どうしてそう述べているのか。ワクチンだって賛否両論ある。

 

政府が「Aだ」と発表したから、権威のある著名な人物が「A」と言っているから、どのマスコミも「Aに間違いない」と報じているから、周りがみんな「A」をしているから。だから「A」を自分も信じる、というのは、ただの思考停止以外のなにものでもない。

 

自分から情報を取りに行き、信憑性が高いか否かを考え、では自分はどうするかを判断する。もしもその判断が間違っているとわかったら、すぐに方向転換する柔軟さを持つ。

 

岩田氏は、新型コロナウイルスというテーマを通じて、私たちにとても大切なことを教えてくれている。

 

【書籍紹介】

 

新型コロナウイルスの真実

著者:岩田健太郎
発行:ベストセラーズ

本書は、新型コロナウイルスの正体と感染対策をこれ以上なく分かりやすく解説した決定版です。感染症パンデミックとなったいま、世界中の人々が過剰にパニックを引き起こすメカニズムまでをも理解できます。そんなとき、組織はどうあるべきか、個人はどう判断し行動すべきか。「危機の時代を生きる」ための指針に満ちています。

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