「えっ、なんで?」
一部の人々のありえない言動を目の当たりにして、思わず口走ってしまうことがある。なんでそんなことするの? なんでそんな風に思うの? なんでそんな言葉遣いになるの? たまたますれ違った人であれ、テレビでしか見たことのない政治家であれ、向ける思いはまったく同じだ。
オッサンとは、年齢と性別で決まるものではない
彼らはおそらく何も考えないまま言葉を発し、そして行動に出ている。彼らに対してコモンセンスなんていう言葉は持ち出したくないし、そうする意味も必要もない。感じるのは、決定的かつ絶望的な違いだけだ。『劣化するオッサン社会の処方箋~なぜ一流は三流に牛耳られるのか~』(山口周・著/光文社・刊)を読んで、そんな思いを強めた。
本書において用いる「オッサン」という用語は、単に年代と性別という人口動態的な要素で規定される人々の一群ではなく、ある種の行動様式・思考様式を持った「特定の人物像」として定義される、ということです。しかして、その「特定の人物像」とは次のようなものです。
1:古い価値観に凝り固まり、新しい価値観を拒否する
2:過去の成功体験に執着し、既得権益を手放さない
3:階層序列の意識が強く、目上の者に媚び、目下の者を軽く見る
4:よそ者や異質なものに不寛容で、排他的
『劣化するオッサン社会の処方箋』より引用
この本のキーワードである“オッサン”の定義は、“中年以上の男性”という単純なグループ分けではない。ここに挙げた資質がある人には、年齢や性別に関係なくオッサンというラベリングをして間違いないのだ。
簡単にキレる人たち
過激な内容を想像させるタイトルだが、オッサンたちを感情的にディスるだけでは決してない。論拠のひとつとして挙げられるのは、冷静で確実な数字だ。
民営鉄道協会が発表している平成27年度に発生した駅係員・乗務員への暴力行為に関する調査集計結果によると、加害者の年齢構成は、六十代以上が188件(23.8%)と最多で、これに五十代による153件(19.3%)が続いている一方、一般に感情のコントロールが上手にできないと考えられがちな「若いもん」、つまり二十代以下の数値は127件(16.0%)となっていて全年代でもっとも少ない(平成28~29年度も、六十代以上が最多という傾向は変わらず)。
『劣化するオッサン社会の処方箋』より引用
ここで紹介した文章の切り口は年齢だが、この本でいうオッサン像を具体的にイメージする助けになるはずだ。YouTubeにも“キレる老人”的な動画があふれている。見たことあるでしょ? ああいう人たちですよ。
世代的には筆者も一員です
著者は、世代的な特徴に目を向ける。
昭和の高度経済成長を支えた一流のリーダーたちが、二十代・三十代を戦後の復興と経済成長のなかで過ごしたのに対して、現在の「劣化したオッサン」たちは、同じ年代をバブル景気の社会システム幻想、つまり「会社や社会が示すシステムに乗っかってさえいれば、豊かで幸福な人生が送れる」という幻想のなかで過ごしてきたのです。
『劣化するオッサン社会の処方箋』より引用
筆者が就職したのは、バブル期の始まりの1986年だ。この時点で愕然としたのは、自分自身も劣化オッサン世代の構成員であるという厳然とした事実。ものすごくショックだ。
劣化が止まらない人たち
財務事務次官や某市市長によるセクハラ、某私大アメフト部監督による暴行指示と事件発覚後の対応、一部地方自治体の教育委員会によるいじめ調査結果の隠蔽……。実際に起きている劣化の現状を見せつけられると、さらに気が滅入る。だが、ここは気を取り直して目次を見てみる。
なぜオッサンは劣化したのか ― 失われた大きなモノガタリ
劣化は必然
中堅・若手がオッサンに対抗する武器
実は優しくない日本企業―人生100年時代を幸福に生きるために
なぜ年長者は敬われるようになったのか
サーバントリーダーシップ ― 「支配型リーダーシップ」からの脱却
学び続ける上で重要なのは「経験の質」
セカンドステージでの挑戦と失敗の重要性
最終章 本書のまとめ
劣化の原因として、著者は“モノガタリ”の概念の介在を指摘する。モノガタリという言葉は、それぞれの世代に共通する集合的無意識めいたもの、と言い換えることができるかもしれない。ただ、すべての世代のモノガタリはおそらく例外なく諸刃の剣であり、劣化のきっかけにも刷新の始まりにもなる。
劣化したオッサンたちは、いくらでもいる。そして不本意な自粛生活期間中に増殖し続け、その存在は今後さらに先鋭化していくに違いない。筆者自身を含め、オッサン世代の人たちにとってはわが身を振り返りながら劣化の発生を遅らせたり予防したりするため、そしてほかの世代の人たちにとっては反面教師的な存在との正しい接し方を知るための一冊として強くお勧めする。
【書籍紹介】
劣化するオッサン社会の処方箋~なぜ一流は三流に牛耳られるのか~
著者:光文社
発行:ビジネス書大賞2018準大賞受賞作『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の著者による、日本社会の閉塞感を打ち破るための画期的な論考!