書評家・卯月鮎が選りすぐった直近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。
縄文大工って何をつくってるの?
初めまして。卯月 鮎と申します。普段はファンタジーを中心に書評をしていますが、活字ならフィクションでもノンフィクションでもなんでも来いの本好きです! 特に1000円前後で手軽に買える新書は、本を読む入口としては最適。世のなかの知られざる仕組みがわかったり、これまで触れてこなかった新たな世界に魅了されたり……そんなワクワクする新書を紹介していきます。
第1回目は雨宮国広『ぼくは縄文大工 石斧でつくる丸木舟と小屋』(平凡社)。「縄文大工って一体何?」と、タイトルからして興味をそそられました。
縄文時代、憧れますよね。現代はスマホを片時も離さず、スケジュールをにらんでは「あと何分で○○線に乗らなきゃ」と、キチキチ行動するのが美徳とされる時代。ただし、便利なツールがサポートしてくれる分、人間が本来持っている生きる力は弱まった気がします。まあ、縄文時代に親しみがあるのは、「勉強、頑張るぞ!」とまだ意気込んでいた新学期の最初に習うから、ということもあるでしょう(笑)。
著者の雨宮国広さんは、石斧で丸木舟や縄文住居をつくる「縄文大工」。宮大工の修業中に先人の手仕事に感動し、その後、石斧の可能性に魅せられ、石斧ひとつで住居や道具を作ってきました。
しかも、三畳ほどの小屋で、髭も剃らず冬でも裸足。稲作がなかった縄文時代のように米は食べずに山の幸で暮らす「縄文暮らし」を実践しているユニークな人物です。スマホもクーラーもガスコンロもない縄文暮らしの楽しさと苦労とは? すごく気になりますよね。
第1章「縄文大工になったわけ」と第2章「能登に縄文小屋を建てる」には、もともと機械や鉄の道具に違和感を持っていた雨宮さんが縄文大工を志した理由が書かれています。
私は、その栗の丸太を作業台の上に置き、石斧を振り下ろした。『コーン』、私の心は青空になった。
『この石斧一本あれば、何でもつくれる』と感じたのだ。
『ぼくは縄文大工 石斧でつくる丸木舟と小屋』より引用
石斧の可能性に目覚めた瞬間の回想は、読んでいるこちらも晴れやかになるほど。
第3章「三万年前の丸木舟で大航海」では、杉の巨木を石斧で伐採し、掘り抜いて丸太舟に仕立てていく様子が詳しく書かれています。安定性を得るためひたすら丸太を石斧でコツコツと削る……。苦労と工夫の末、黒潮の荒波を越えて台湾から与那国島までの航海を達成! 自然の神秘と人間の潜在力を感じます。
そして、特に興味深かったのは第4章「縄文暮らしから生まれた哲学」。縄文暮らしを実践する雨宮さんの食材は、ドングリ、栗、銀杏、ニンニク……。囲炉裏の灰のなかで蒸し焼きにすると病み付きになるほど旨いのだとか。川魚も常識にとらわれず、塩も振らず腸も取らずにそのまま串焼き。
「ひと口食べて、目が点になった。『魚本来のままが、こんなに美味しかったのか!』」
ただし、90分以上焦がさずゆっくり焼くのがポイント。忙しい現代人には考えられない贅沢かもしれません。
さらに、縄文人にならって冬場も裸足で過ごすと足の裏が一年中ポカポカになるのだとか。丸太6本を並べただけのベッドも「最高の寝心地」というから驚きです。この4章は比較的短かったので、もう少し詳しく知りたかったですね。
縄文に関するエピソードを読むうちに、便利な生活と引き替えに「私たちが失っているものがたくさんあるんだな」と痛感しました。「もっとタフにならなきゃ!」、そう感じさせてくれる一冊でした。
【書籍紹介】
ぼくは縄文大工 石斧でつくる丸木舟と小屋
著者:雨宮国広
発行:平凡社
自ら建てた三畳の小屋に暮らし、蒸しドングリや川魚を食べ、囲炉裏の灰で歯を磨く。能登に縄文小屋を建て、三万年前の丸木舟を走らせる。「縄文暮らし」を実践しながら、原始を生きた人の姿を探る。原始人の暮らしをたどれば、現代人が失ったものが見えてくる。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。