ヒューマンライブラリーというイベントが世界で広がりをみせています。これは人間を本として貸し出す活動で、本(人)を選ぶと、その人の生き方を直接聞くことができるのです。こうした人間レンタル、今後世界中でさらに広がるかもしれません。
世界にたった1つの物語
人間を本にたとえるとしたら、世界にたった1冊のレアな本ということになります。その人だけの人生の物語を聞くことができるのはとても貴重な体験です。語り部には、LGBTなどのマイノリティの人や、障がいのある人など様々です。
このヒューマンライブラリーは2000年にデンマークで始まり、現在世界100か国近くにまで広まっているとのこと。日本でも2019年に150回も開催されています(日本ヒューマンライブラリー協会調べ)。今年はコロナ禍でオンライン開催の形で行われるなど工夫されているようですが、こうした人間レンタル、日本は先駆けだと思います。
レンタル彼女という癒し
『明日、私は誰かのカノジョ』(をのひなお・著/小学館・刊)という漫画があります。これは女性目線で彼女代行業を描いた興味深いお話です。日本人のなかには「恋人」や「友達」をレンタルして済ます人がいます。これは外国にはあまりない業種らしいのです。
人は貸し借りするようなモノではない、という考えかたも根強いですが、手っ取り早く恋人を借りて、疑似体験でもいいから楽しくデートしたいと考える人も増えてきました。そして1日だけ誰かの彼女になって、普通のバイトより高額の報酬を得たいと考える女性たちも出てきたのです。
パーソナルなお仕事
近ごろ「モノよりコト」消費と言われるようになりました。現代人はもうモノをたくさん持っているので、今後は体験を消費するようになるだろうと言われているのです。彼女代行はまさしくお金を払って恋人を体験するもの。手をつないで映画を観ることも、その後にカフェで見つめ合いながら感想を語り合うことも、お金さえ払えば味わうことができるのです。
最近は、集団で先生に教わる学習塾よりも、個別指導塾でマンツーマン方式がいいという人が増えています。大勢の人がいるジムに通うよりも、マンツーマンで指導してもらえるパーソナルトレーナーにお願いする人も増えています。彼女代行もマンツーマンで恋人体験を伝えてくれる、とてもパーソナルなお仕事です。個人的に体験する形態が最近どんどん増えているのです。
マスクをする登場人物たち
物語は彼女代行をする女子大生・雪と周囲の女性たちの、お金と消費についての話が連なる形で進んでいきます。作者が取材熱心なのか、コロナ禍以降は登場人物たちがしっかりとマスクを装着していて、その律儀な描写が物語を一層リアルに感じさせています。
雪は、割のいいバイトとしてこの仕事をしていますが、何度か会ううちにどの男性も自分のことを本当に好きになり、本当の恋人としての交際を求めてくることを冷静に観察し、お金をもらえるからこそ優しい言葉や可愛い笑顔でもてなしてもらえるのだという現実に気づけない男性たちを哀れんでさえいます。
それぞれがトクをする個人間取引
雪の目を通して、彼女代行業がどんな仕事なのかを私たちはかなり具体的に知ることができます。そして疑似恋愛での男女の駆け引きを漫画を通して味わうのです。どんなにお金を積んでも真実の愛は得られないのだというつらさが随所に詰まっているのですが、続きが気になってしかたがありません。
【書籍紹介】
明日、私は誰かのカノジョ
著者:をの ひなお
発行:小学館
彼女代行として日々お金を稼ぐ女子大生と彼女に魅せられた男達の、恋愛のリアルを描くビターラブストーリー。第1巻は主人公の雪を偽の彼女としてレンタルした若きサラリーマン、壮太と雪の歪な恋愛模様を描く。あくまで客と彼らの理想の女を演じる代行彼女…二人の心の距離は果たして近づくのだろうかーー