書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。
日本に住むイタリア人が誤解を解く!
「○○人は××だ」、なんて国別の安易なステレオタイプは良くないとわかっていても、つい無意識に思ってしまうものですよね。特に有名な外国人タレントさんがいると、その国のイメージが固まりがち。イタリア人ならタレントのパンツェッタ・ジローラモさんでしょうか。お洒落で人生を楽しんでいて、女性をすぐナンパするという印象です(笑)。
といっても、外国出身のタレントさんも、日本人が思い込んでいるその国の典型例にわざと合わせている部分もあるかもしれません。私たちだって、海外で周りから日本人的であることを期待されたら、いつもはしてないのに丁寧におじぎしたり、忍者のマネをしてみたり……(笑)。
『誤読のイタリア』(ディエゴ・マルティーナ・著/光文社・刊)は、そんな「イタリア人って××だ」という日本人の固定観念を打破していく一冊。著者は日本文学研究家、翻訳家、詩人のディエゴ・マルティーナさん。
南イタリアのプーリア州出身で、大学は日本学科に進み、東京外国語大学、東京大学に留学。谷川俊太郎さんの『二十億光年の孤独』などを本国向けにイタリア語訳しています。来日して9年になるディエゴさんが違和感を覚える誤解とは何でしょうか?
時間を守らないことがマナー!?
第1章はイタリアの国民性について。「イタリア人は時間を守らない」と日本ではよく言われていますが、これは正解だとか(笑)。ただ、そこには理由があるのです。
もちろん個人の習慣で大遅刻する人はいるとして、10~15分程度の遅刻はイタリアではある意味マナーだそう。客を歓迎する準備がまだ整っていない可能性があるから、時間通りに到着しては失礼に当たる……。所変われば礼儀の概念も変わるのですね。
イタリア人は、女性と見たらすぐ恋愛に持ち込もうと口説くというのは「誤読」。イタリアでは「女性は特別な存在」という考え方が根付いており、男性は女性に対して常に優しくすべきと教えられます。なので、親切に声をかけたとしても、それはナンパとは少し異なり、別に下心があるわけではない……。これはある意味、ちょっとショックかもしれません(笑)。
第5章は「誤読のイタリア料理」。イタリア人にとって、「日本人の言うアルデンテは硬すぎる」というのは衝撃でした。最高のゆで加減がアルデンテじゃなかったの!? また、イタリア人が一日に何杯も飲むエスプレッソは、「飲み物」ではなく「飴」感覚というのも本場ならではだなと。
ほかにも、「結婚相手の条件が年収」なんてイタリアではありえないと断言していたのも印象的。人間関係、家族、恋愛などトピックスのジャンルが広く、飽きずに読めます。
まったくイメージと違う部分があったり、当たってはいるけどその理由が予想外だったり……。イタリアと日本を見つめるエッセイであり、日本人の“誤読”がやわらかい語り口で解説されているカジュアルな比較文化論でもあります。
【書籍紹介】
誤読のイタリア
著者:ディエゴ・マルティーナ
発行:光文社
『誤読のイタリア』が描写する「イタリア人像」には、皆に知られている部分と、まったく知られていない部分のどちらもあると思う。すでに知られているところでは、イタリア人の行動。あまり知られていないところでは、その言動の理由。本書では、イタリア文化の「形」で止まらずに、その「神髄」まで遡って説明しようとした。イタリア人の目を借りると、イタリア人への理解を深められる。そうすることで、「いつものイタリア人」でありながらまったく「新しいイタリア人」像が見えてくるのだろう。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。