平日は約18時間。週末なら約15時間。筆者の1日あたりの稼働時間はこれだけある。コロナ騒ぎの前は平日でも昼前にならないと起きない日があったので、この1年は使える時間が確実に増えている。
生産性は高まったけど、無駄な時間も増えたかも
決して大げさではなく、昼ご飯を食べる前にその日の仕事の80%くらいが終わる気がしている。午前中の作業効率は高いというけれど、きわめて遅まきながらこれが本当であることを実感しているわけだ。午後に余裕ができるので、以前は感じることが多かった焦りめいた気持ちもない。
ただそれと同時に無駄な時間も増えている。YouTubeで80年代洋楽ヒットメドレーを次々に見てしまったり、サッカーゲームのオンラインマッチを6試合くらい立て続けに組んでしまったり。次の課題は、稼働時間の中でのオンとオフの使い分けについて考えることだ。
時間の使い方を見直してみる
そんな状態にある今の筆者に刺さったのが『1440分の使い方』(ケビン・クルーズ・著、木村千里・訳/パンローリング・刊)。7人の億万長者、239人の起業家、13人のオリンピック選手、29人のオールAの学生を紹介しながら綴られるのは「成功者たちの時間管理 15の秘訣」だ。表紙には「生産向上の日常習慣」という文字が目立つ。イントロダクションの前に“本書で学べること”がまとめられている。翻訳書らしい実用性が強く感じられる体裁だ。
読書やスポーツ、家族との団らんに使える「自由な時間」が毎日あと1時間、手に入るとしたら? 起業家、億万長者、オリンピック選手、オールAの学生たち288人への独自の取材と調査研究によって明らかになった、生鮮性向上の究極の秘訣とは?
『1440分の使い方』より引用
目に見える形で何かを成し遂げた人たちは、そのプロセスをどのようにこなしたのか。1440分=24時間の使い方が深く関係していたということだ。
時間を盗むもの
著者のクルーズ氏は、元デジタル学習企業の創業社長。立ち上げた事業はすぐ軌道に乗って収益ペースも倍々ゲームで進んだ。ところが会社が大きくなっていくにつれ、解決しなければならない問題の数も増えていった。当然のことながら、割かなければならない時間も長くなっていく。
アドバイスや助けを求めてくる人たちに罪はない。しかし、他人の優先課題や問題の解決で私の一日はつぶれていた。「ちょっと」頼まれたはずの打ち合わせが、どうしても30分以上に延びるからだ。私自身の優先事項、つまり会社の戦略上の優先事項は、永遠に終わらない“火急”の相談という奔流に押し流されてしまう。
『1440分の使い方』より引用
そしてクルーズ氏は、1440分=1日の時間の絶対量を分という単位で意識するようになる。目に見えない“時間泥棒”撃退の第一歩にするためだ。
1日を1440分という目盛りでとらえてみる
1日の目盛りを24時間ではなく1440分にセットすると何が起きるか。クルーズ氏と彼の会社の社員たちには、「1分のクオリティを高めたい」という気持ちが生まれたようだ。結果として、それぞれがこなすべきタスクに優先順位をつけて仕事の効率を高める努力をしたり、必要性が感じられないミーティングが行われなくなったりした。
失った時間は決して取り戻せない。時間を浪費してしまったから追加で手に入れよう、というわけにはいかない。時間は買うことも、レンタルすることも、拝借することもできないのだ。
『1440分の使い方』より引用
この文章だけ切り取って紹介すると、ごく当たり前に聞こえることはわかっている。でも、そうではないのだ。筆者には、組織の中で起きた変化を実体験として自分に刷り込んでいる人間が発する言葉の重みが感じられる。
時間との効率的な関係を築く
時間との向き合い方、効率の良い付き合い方が21章とふたつの付録にわたって詳細に解き明かされていく。時間というものを擬人化して、その人との付き合い方のノウハウが語られているような気がする。今の筆者にとって特に役立つと思われる言葉を3つ紹介しておきたい。
・「私は前の晩のうちに、やるべきことリストを作っておく。(中略)デスクの前に座ったら、メールをチェックする前にそのリストを片づける」アンドリュー・マコーリー(オートパイロット・ユア・ビジネス共同創業者)
・「メールは常に簡潔にまとめよう。私はもう10年以上、メールを3行にまとめるよう訓練してきた。余計なことは省いて最も革新的なポイントだけを残す。すると自分の時間も空いての時間も節約できる」 ライアン・ホームズ(フートスイート創業者兼CEO)
・「睡眠を犠牲にしてはいけない。そんなことをすれば、遅かれ早かれ悪い結果を招く。本来の力を発揮できなくなるし、病気になる」ウィル・ディーン(ロンドンおよびリオ五輪のボート競技カナダ代表)
『1440分の使い方』より引用
各章に職業別――起業家、管理職、フリーランス、学生、専業主婦/夫という分類――で大切なタスクを見極めていくためのヒント、そして章全体の内容をまとめる“秘訣”が簡潔な表現で示されているのも実用的。
時間とは追うものでも追われるものでもなく、おそらくは肩を並べて共に進んでいくという意識を持つべきものなのだ。
【書籍紹介】
1440分の使い方
著者:ケビン・クルーズ
発行:パンローリング
7人の億万長者、13人のオリンピック選手、29人のオールAの学生、そして239人の起業家。計288人への取材から導き出された、時間管理と生産性向上にまつわる15の秘訣を、本書ではより実践しやすい方式とともに紹介する。「ノートは手書きでとる」「メールは一度しか触らない」「ノーと言う」「日々のテーマを決める」など具体的ノウハウから、「最重要タスクの見極め方」「先延ばし癖を克服する極意」「桁外れの利益を得るための思考法」まで15の秘訣が、あなたの人生に輝きを取り戻してくれるだろう。