ふにゃっとした薄ピンク色の体とつぶらな瞳に長い二本の前歯。愛らしい姿を見つめているとなごめるからか、最近はキャラクターグッズも増えているハダカデバネズミ。『〈生きもの〉 ハダカデバネズミ-女王・兵隊・ふとん係』(吉田重人、岡ノ谷一夫・著/岩波書店・刊)では、ヒト社会との類似も指摘されています。
ヒトとの共通点
彼らにはそれぞれ役割分担がされていて、女王や兵隊のほか、掃除係や食料調達係、そして子どもを温めて育てるふとん係までいます。兵隊の生き方は衝撃的で、天敵のヘビがやってくると、自分の身を進んで投げ出すのです。自らが食べられることで仲間を逃すというのだから胸が熱くなります。
また、ハダカデバネズミは個体によって働きかたが違い、仕事に打ち込んでいるものもいれば、マイペースに作業しているものもいるそうです。一部には仕事をサボってだらけるものもいて、女王がしばしば巣穴を見回り、休んでいたら叱りつけることもあるのだとか。まるで、ヒトの会社組織のようです。
「真社会性」に生きる
とはいえ、ヒトとは大きく違うところがあります。ハダカデバネズミは、繁殖する個体がごく少数に限られ、ほとんどの個体は繁殖の手伝いをするだけなのです。これは「真社会性」と言われ、哺乳類では2種類だけが持つ形態なのだとか。
ヒトは、それぞれが繁殖するのでこの点は同じではありません。臨機応変に生きかたを変えることができるこの多様性こそが、ヒトの面白さや奥深さなのかもしれません。
自分探しの旅に出る
本書のなかでとても興味深かったのは、群れを飛び出して新天地を探す旅に出るハダカデバネズミがいるということ。ヒトにも自分探しの旅に出るケースがあるので、親近感を持ってしまいます。
ハダカデバネズミだって、工事係が掘ってくれた大きな巣穴の中で仲間と助け合って暮らしているほうが安全だし楽なはず。それなのに、外の世界を知りたいと決意の一歩を踏み出す小さな個体がいるという事実は感動的です。
ヒトの世界も、今までに作り上げられたシステムでほどほどに働けば、そこそこに生きていけるようにできていると思います。けれど、そこから飛び出して新しい何かを始める勇気を持つ人がいるからこそ、世界は変化し、技術革新も行われていったのでしょう。私たちも人生を賭けてみたいものに出会った時に一歩を踏み出せる勇気を備えておきたいものです。
【書籍紹介】
〈生きもの〉ハダカデバネズミ-女王・兵隊・ふとん係
著者:吉田重人、岡ノ谷一夫
発行:岩波書店
ひどい名前、キョーレツな姿、女王君臨の階級社会。動物園で人気急上昇中の珍獣・ハダカデバネズミと、その動物で一旗あげようともくろんだ研究者たちの、「こんなくらしもあったのか」的ミラクルワールド。なぜ裸なの?女王は幸せ? ふとん係って何ですか? 人気イラストレーター・べつやくれい氏のキュートなイラストも必見。