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2021/6/8 6:15

半世紀前の新書がいま話題に! 60年代ルワンダを救ったひとりの日本人の奮闘記——『ルワンダ中央銀行総裁日記』

アフリカの小国、ルワンダが世界のニュースのトップになったのは1994年の同国の動乱の時。当時のハビャリマナ大統領暗殺事件をきっかけに勃発した大虐殺では80万から100万人もの人々が犠牲になった。つい先日、ルワンダの首都キガリを訪問したフランスのマクロン大統領は演説で、当時、フランスは虐殺を進めた政権を支持する側にいたとし、はじめて責任を認めたことが日本のメディアでも大きく報道された。

 

そのルワンダを舞台にした1冊の本が、今SNS上で話題になって10万部を突破し、若いビジネスマンの必読書となっているのをご存じだろうか?『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』(服部正也・著/中央公論新社・刊)の初版が出たのが1972年6月、半世紀前の本が、なぜ今話題になったのか?

 

嘘のような実話に若者が共感

本書は最近SNSでバズり、またテレビニュースなどでも取り上げられ、読者層をぐんぐんと広げている。著者の服部氏は1918年生まれの日銀マンだ。彼は46歳になった1965年、アフリカ中央にある小国で、超赤字国家だったルワンダの中央銀行総裁に任命されたのだ。

 

国際通貨基金の技術援助はすでにルワンダで失敗したあとで、そこに私がゆくのではないか。無からなにかを創造することはやさしくないが、崩れたものを再建することも至難である。これは大変なことになったと思った。

(『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』から引用)

 

降り立ったキガリの空港には空港ビルなどなく、滑走路の横に電話ボックスのような小屋が2つあり、そこが入国管理と検疫の事務所だったそうだ。勤務する中央銀行もペンキのはげかかった2階建ての建物、さらに仮の宿舎の床はカーペットもなくセメントのままで家具もわずか。さらに、ひげを剃るための鏡を買うために町中を探してやっと見つけたのは、ガラスが割れて縁が錆びているものだった。服部さんの着任当時のキガリの物資の欠乏は想像を絶するものだったという。さらに、総裁付きの運転手として現れた人の服はボロボロで、なんとはだしだった!

 

そのような現状にも服部さんは屈せず、その後6年間の任期中に、ルワンダ経済を見事に再建させ、国民の生活環境を大きく向上させたのだ。その記録である本書は、経済政策の真髄に迫るノンフィクションの傑作といえる。

 

ルワンダ共和国とは

ここで、ルワンダとはどういう国なのかをざっと紹介しておこう。東アフリカに位置する小国だが、人口密度はアフリカでもっとも高い。多数派で農耕民系のフツ族、少数派の牧畜民系のツチ族から成っていて、ルワンダ大虐殺では、多くのツチ族とフツ族穏健派が殺害された。

 

ルワンダはドイツ植民地時代、ベルギー植民地時代を経て、1962年に独立国家となった。経済を支える中心産業は農業で、コーヒーの産地として知られている。また、重要な輸出品としては、スズ、タングステン、レアメタルなどの鉱物資源がある。

 

常にルワンダ人と対話した「現場の人」

服部氏は、まず緊急救済策として、二重為替相場を廃止し、ルワンダ・フランの対外価値を自由相場並みに切り下げて一本化。また、それまでの外国人優遇税制という問題にも切り込み、着任から一年後の1966年には通貨改革を成功させた。

 

これと並行して、ルワンダ経済の発展のために、自活のためだった農業を市場経済へ引き出すべく物価統制を廃止したり、流通機構を整備するためにルワンダ商人の育成にも着手した。

 

このとき、服部氏が最も関心をもったのは、ルワンダ人は怠け者かどうかということ。国民が働かなければどんな計画も失敗に終わるからだ。そこで彼は、現場に出て農民たちと話をすることにしたのだ。その結果、当時、落ち込んでいたコーヒーの生産は、彼らが怠け者だからではなく、物資の供給が不足し、価格体系が悪いから、彼らにとって価値を失った現金収入を捨てて自活経済に後退したにすぎないこと気づいた。

 

これは彼らが経済的に合理的に反応することを示すものではないか。私は非常に力づけられた。ルワンダ人の殆ど全部がもともと農民であり、そして農業に従事しているときは働き者である。彼らは彼らなりに自分の生活を大切にしているから、価格体系を是正して物資の供給を潤沢にすれば彼らはよく働き、農業生産は増進するはずである。これはまた、大統領の命じたルワンダ国民の福祉に直接つながるのである。

(『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』から引用)

 

服部氏の成功の秘訣は「現場の人」だったからだだろう。総裁としてオフィスにいることより、現場に赴き、ルワンダの人々の声を聞き、彼らの心情に常に寄り添っていたのだ。

 

英雄はルワンダの農民と商人

本書のまえがきでも服部氏はこう記している。

 

平和といい、貿易といい、援助というものは、究極的には国民と国民との関係という、いわば人の問題である。この人の面を無視して進められる国際関係の基礎は、きわめて脆弱なものである。アフリカには経済的には恵まれないが黙々として働き、子孫が自分よりも豊かな生活ができるよう地道な努力をしている国民が多い。こういう国と関係を深めることこそが、同じ道によって今日の繁栄を実現したわが国のとるべき道ではなかろうか。

(『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』から引用)

 

さらに、ルワンダの発展は、ルワンダ人農民、ルワンダ人商人の自発的な努力によるもので、彼らこそが英雄だときっぱりと言っている。これから活躍の場を広げていくであろう日本の若きビジネスマンたちも、服部氏のこの言葉を肝に銘じておくべきだろう。

 

ルワンダ動乱について

ルワンダ経済を再生させた服部氏は1971年に帰国。その後は世界銀行の副総裁、アフリカ開発銀行、国際農業開発基金などの委員を務め、1999年に逝去された。

 

本書は増補版で、1994年に起こったルワンダ動乱についての服部氏の論考も収録されている。「ルワンダ動乱は正しく伝えられているか」と題して、ルワンダをよく知る立場としての報道に対する疑問、大国の影などを綴っている。

 

今回の事件でもわかるように、世界はいまだ力が支配していることを痛感すべきで、ただ「平和。平和」と一国で喚いても、一人で祈っても平和は来ない現実を直視すべきである。弱者の悲哀は、ルワンダの惨状がまざまざと見せつけている。

(『ルワンダ総裁日記 増補版』から引用)

 

動乱によりルワンダ経済は壊滅的な打撃を受けたものの、その後は復興し、1998年には農業生産も回復し、その後も経済は発展し続けている。現在のルワンダ政府は2035年までに高中所得国、2050年までには高所得国になるべく目標を掲げているそうだ。そのルワンダ経済の礎を築いたのが、一人の日本人だったことは、私たちにとって誇りである。

 

本書はどんなビジネスシーンであっても、常に「現場の人」であるべきということを教えてくれる。ぜひ読んでおきたい一冊だ。

 

 

【書籍紹介】

ルワンダ総裁日記 増補版

著者:服部正也
発行:中央公論新社

一九六五年、経済的に繁栄する日本からアフリカ中央の一小国ルワンダの中央銀行総裁として着任した著者を待つものは、財政と国際収支の恒常的赤字であったー。本書は物理的条件の不利に屈せず、様々の驚きや発見の連続のなかで、あくまで民情に即した経済改革を遂行した日本人総裁の記録である。今回、九四年のルワンダ動乱をめぐる一文を増補し、著者の業績をその後のアフリカ経済の推移のなかに位置づける。

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