こんにちは、書評家の卯月 鮎です。1938年の出来事、アメリカでラジオ番組『宇宙戦争』が放送されました。音楽中継の途中で火星人の襲来を知らせる臨時ニュースが入るというシナリオでしたが、これをリアルと勘違いして慌てる人が続出したとか……。
火星人と出会える未来はある?
ラジオが主要な情報源であった当時、何も知らずにたまたまこの番組を聴いた人はさぞかし驚いたことでしょう。そして、かつては今以上に火星人の存在が信じられていたようです。
今回紹介する『生き物がいるかもしれない星の図鑑』(荒舩 良孝・著/サイエンス・アイ新書)は、火星を筆頭に宇宙の星々に地球外生命体がいる可能性を探っていくロマンある科学読み物。図鑑と銘打っているだけあって、ページを開くごとに写真やイラストがオールカラーで掲載されている贅沢な新書です。
著者の荒舩良孝さんは、東京理科大学在学中から活動を始め、最先端研究から身近な科学のトピックまで幅広い分野で取材・執筆活動を続ける科学ライター・ジャーナリスト。『宇宙と生命 最前線の「すごい!」話』(青春出版社)、『5つの謎からわかる宇宙』(平凡社)など宇宙に関する著作も多数あります。
生命誕生の秘密に迫る!
まず、第1章「宇宙に生命はあるか」では、地球の生命が発生したメカニズムに迫ります。生命の共通の祖先は、深海で400℃近い熱水が噴き出している「熱水噴出孔」のような特殊環境で生きる「超好熱メタン生成菌」という菌に近いとされています。
掲載されている、マリアナ海溝にある熱水噴出孔の写真を見ると、ブルーグリーンの海底から白い煙のような熱水がもくもくと出ていて神秘的のひと言! ここがすべての始まりと思うと不思議な感慨があります。こんな環境でも微生物が存在し、それを食べるためにエビやカニが生息して独自の生態系が成立しているのは本当に驚きです。
続く第2章「太陽系に私たち以外の生命はあるか」では、本題ともいえる太陽系の天体に生命がいる可能性を考えていきます。人類が最初に地球外生命体の存在を科学的に意識したといわれているのが火星。19世紀末に望遠鏡で観測した結果、運河のような筋模様が見え、火星には高度な文明が成立しているのではないかと考えられたそうです。
本書には、この19世紀末の火星地図や1972年の米マリナー9号が撮影した写真、今年火星に到着した米探査車パーサヴィアランスが送ってきた画像まで、順を追って火星探索の歴史が美しい写真とともに解説されています。パーサヴィアランスが撮った火星地表は赤茶けて荒涼としており、昔読んだブラッドベリのSF小説『火星年代記』を思い出して、しばらく妄想に耽ってしまいました。
いつか地球外生命体が発見されたときに、「この本で読んだことがある」と思い出してもらえればうれしい……と著者の荒舩さん。多くの天文学者が確実に宇宙のどこかに生命は存在すると信じて、研究を進めているそうです。ラジオ番組『宇宙戦争』では悪い知らせでしたが、いつかポジティブなニュースとして生命体発見の速報が入るかもしれません。
生命起源の秘密を握るという小惑星「イトカワ」「リュウグウ」、太陽系外の惑星をいくつも発見してきた米の探査機ケプラーなども取り上げられています。科学ライターとして活躍する荒舩さんの文章はソフトでわかりやすく、フォトジェニックなカラー写真とあいまって肩がこらずにパラパラと読み進めていけます。まるでSF映画の世界に入り込んだ感覚。宇宙への夢をかき立てられる一冊でした。
【書籍紹介】
生き物がいるかもしれない星の図鑑
著者:荒舩 良孝
発行:SBクリエイティブ
私たちは宇宙に憧れます。星々の間を旅し、そこで誰かと出会う物語が、昔からいくつも編まれてきました。そして、人類は宇宙に行くようになりましたが、地球外生命体は、長らくフィクションの中だけの存在でした。しかしその常識は、この数十年で大きく変わっています。研究が進み、生命の存在する条件を満たしそうな天体がたくさんあることがわかってきたのです。そこで本書では、そのような太陽系の天体、さらに太陽系の外にある惑星についてご紹介していきます。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。