本・書籍
2021/11/8 6:15

テレ東の人気100番組を分析すれば、テレ東の秘密が見えてくる!~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。東京で生まれて東京で育った私にとって、いわゆる故郷らしい故郷の思い出はないのですが、テレビ東京の思い出ならあります(笑)。

 

愛されるテレビ局「テレ東」

一昔前はテレビ東京というと「振り向けばテレビ東京」「何が起きてもアニメ優先」など、やや嘲笑を含んだ形で話題にのぼることが多かったように思います。しかし、昨年は学生の就職希望先ランキングでテレビ業界1位に躍り出たことがニュースとなり、風向きは変わってきています。

 

硬直化し衰退するテレビ業界で、柔軟な発想で勝負するテレビ東京。YouTubeがテレビの地位を脅かしていますが、テレビ東京はもともとYouTube的存在だったのかもしれません。

今回紹介する新書21世紀 テレ東番組 ベスト100』(太田省一・著/星海社新書)は、テレビ東京の革新性、柔軟性、ユルさに着目し、各1~2ページで100本の番組を紹介していく新書。ただの番組ガイドではなく、なぜそれがヒットしたのかの考察がなされています。“21世紀”というくくりで、「モヤモヤさまぁ~ず2」や「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」など比較的新しい番組が多めです。

 

著者の太田省一さんは、テレビ、お笑い、アイドルなど、メディアと社会・文化の関係をテーマに執筆活動を展開している社会学者。著書に『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)があり、今回は「テレビ史の文脈を踏まえながらも、より気楽に読んでいただけるものを目指した」とあとがきにあるように、カジュアルながらテレビに求められているものが見えてくる一冊となっています。

 

「開運!なんでも鑑定団」が人気番組になったわけ

100本の番組はバラエティ、ドラマ、お笑い、報道……とジャンルごとに分類されています。第1部「テレ東の真骨頂、『ユルさ』と『素人』」。第2部「“深夜”というフロンティアを開拓したテレ東〈ドラマ編〉」、第4部「テレ東の定番、旅と食」、第5部「テレ東はアイドルの庭」……。各部のタイトルを眺めているだけでもテレ東イズムが見えてきます。

 

本書で一番最初に取り上げられている番組が「開運!なんでも鑑定団」(1994年放映開始)。私もやっているとついつい見てしまう番組です。「うちに転がっている古いガラクタが、もしかしたらすごいお宝かもしれない……」。そんな夢を見せてくれますよね。

 

著者の太田さんは、平成に入りバブルが崩壊した直後という時代状況を人気の理由のひとつにあげています。また、素人が主役となる視聴者参加番組の側面があり、「『お宝』を通して、持ち主の人柄や人生、その品物への強い思い入れが伝わってくる」とドキュメントバラエティとしての魅力にも言及しています。

 

個人的に私が好きだった番組は、当時は愛川欽也さんが司会をしていた「出没!アド街ック天国」(1995年放映開始)。毎回ひとつの街を取り上げ、名所や名物を独自にランキングする番組です。馴染みのある街、行きたい街だと何が1位になるのか気になって見入ってしまいます。

 

著者の太田さんは、「青物横丁や椎名町と言われても、関東に住むひと以外にはピンとこないはずだ。だが、そんな街をしれっと特集してしまうのも、テレ東らしい」と、全国的に知られていない街が取り上げられることが面白さにつながっていると分析しています。

 

そのほか見開き2ページでは「ワールドビジネスサテライト」「隅田川花火大会」「ポケットモンスター」「勇者ヨシヒコと魔王の城」「ガイアの夜明け」などテレ東を代表する番組がセレクトされています。

 

巻末には「元旦&大晦日の番組年表2001-2020」と題して、当時のテレ東の番組表を掲載。「年忘れ・にっぽんの歌」に「大食い世界一決定戦」、ボクシング世界戦、ジルベスターコンサート……。年末年始もマイペースなテレビ東京なのです。

 

100番組を扱っていることもあり、ひとつひとつは少々読み足りない感もありますが、「テレ東論」を超えてテレビ論として短いながらもまとまっている印象。本書は21世紀縛りだったので、続編として80~90年代の人気番組編にも期待です。

 

【書籍紹介】

『21世紀 テレ東番組 ベスト100』

著者:太田 省一
発行:星海社

1964年、前の東京オリンピック開催の年に開局したテレビ東京、通称「テレ東」は、現在の在京キー局のなかで最後発、かつ科学教育専門局としてスタートしたことから、当初より低視聴率という苦難に陥ってしまう。ところが、平成の時代になるとお金や人手を十分に割けない分、企画のユニークさや斬新さで勝負する番組づくりが世の中から脚光を浴びるようになってくる。本書は、テレ東が発揮する〈アイデアの力〉に注目し、自身も長年にわたってテレ東に魅了されてきた社会学者が、2001年以降に放送された番組の中からベスト100を選出。「テレ東っぽさ」の秘密に迫る「テレ東番組ガイド」です。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。