本・書籍
2021/10/10 6:00

イルカ研究に捧げた人生。実験の相棒・イルカのナックが示した感動の行動とは?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。みなさんの心に最初にイルカの存在が強く刻まれたのはいつですか? 水族館のイルカショー、アニメ『海のトリトン』、クリスチャン・ラッセンの絵画……という人もいるかもしれません。Excelのヘルプとして表示されるイルカが消えなくてイライラしたのが思い出、なんてケースもあったりして(笑)。

 

 

あなたのイルカのイメージは?

私のイルカとの出会いは、『2001年宇宙の旅』のアーサー・C・クラークによるジュヴナイルSF『イルカの島』。学校の図書室でふと手に取って読んだ本で、漂流する主人公の少年を助けるイルカたちの頭の良さと愛らしさに心を奪われました。

今回の新書イルカと心は通じるか 海獣学者の孤軍奮闘記』(村山 司・著/新潮新書)は、イルカを長年研究している海獣学者によるイルカ本。イルカと人間の絆が見えてきます。

 

著者の村山 司さんは東海大学海洋学部教授で、専門はイルカの視覚能力や認知機能の研究。高校生のときに『イルカの日』というアメリカの映画を何気なくテレビで見て衝撃を受け、「イルカと話したい」という夢を抱いて研究者を志したそうです。しかし、当時はイルカの研究に今以上に理解がなく、変わり者扱いされながら独学で30年以上この道を歩んできました。そんな村山さんの夢が、実現間近になってきているのです。

 

イルカの賢さの秘密に迫る

まず1章では、脳の仕組みや「エコーロケーション」などのイルカの生態に迫ります。知らなかったことも多く、イルカの知能の高さには驚くばかり。イルカはそもそも脳が大きく、神経細胞の数も約100~200億個と、ヒトの約140億個と比べても引けを取りません。

 

脳が大きくなった理由は、超音波を発して跳ね返ってきた音で物の大きさ、形、材質、距離などを認識する能力「エコーロケーション」を獲得したから。これによって行動が多様になり、大脳が発達していった……とされています。イルカは人間が示す複雑な文章をも理解し、群れを作り、同盟を結んだり、乳母役を引き受けるイルカがいたりと、社会性も人間並みだとか。

 

イルカと心がつながった瞬間

本書の後半では、著者の村山さんの具体的な研究内容が紹介されていきます。実は村山さんは極度に船に弱く、遊覧船の映像を見るだけでも船酔いしてしまう体質……。そこで、水族館のイルカに対して行動実験をするという手法を長年続けています。

 

たとえばイルカに三角形と円形のパネルを見せ、三角形を識別して選んでもらうといったもの。しかも「カニッツァの三角形」というあるはずのない三角形が見える錯視図像も、人間と同様にイルカも錯覚して三角形と認識するそうです。イルカと人間が把握している世界は近いのかもしれません。

 

現在はイルカにことばを教える研究にも取り組んでおり、30年以上のパートナーである鴨川シーワールドのシロイルカ・ナックは物を示す記号を覚え、さらに鳴き音でその物を表すことができるようになったとか。そしてとうとうナックは村山さんの名前を……!

 

イルカの生態が詳しく分かるのはもちろんですが、30年以上イルカを追いかけてきた研究者のイルカ愛や、誰も手がけていなかった分野を究めることの苦労と喜びも明かされていて、村山さんにも親近感が湧きました。

 

イルカをテーマにした生物本を超えて、研究者と研究対象の絆が見えてくるドキュメンタリーともいえる本書。イルカのお茶目さも伝わってきて、胸が温かくなります。

 

【書籍紹介】

イルカと心は通じるか―海獣学者の孤軍奮闘記―

著者:村山司
発行:新潮社

イルカと話したい。しかし、著者には大きな弱点があった。大小かまわず船がダメ、泡を吹き、気絶したことも。これでは大海のイルカは追えない。ならば、「陸」のイルカの知能に迫ろう。水族館に通い続ける日々が始まった。ことばを教えるには、音か視覚か? シャチが実験に飽きた? そしてついに、シロイルカが「私」の名を呼んだ!? ――孤軍奮闘の三十余年、変わり者扱いされながらたどりついた「夢のはじまり」を一挙公開。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

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