よく「インプットが大事」なんてことを聞く。アイデアを出したり作品を作るため、つまりアウトプットをするためには、情報を自分のなかに入れておく必要があるという意味だ。
僕は、この「インプットが大事」というのになんとなく違和感を覚えていた。インプットが大事なのは重々わかっているが、「インプットが大事」と言われるとうーんと思ってしまう。その違和感を長い間消えないままだった。
不純な動機で得た知識は不純な作品しか生まない
『松本隆 言葉の教室』(延江浩・著/マガジンハウス・刊)を読んでいたら、同じようなことが書かれていた。松本隆といえば、はっぴいえんどのドラマー、そして日本を代表する作詞家だ。彼は、子どものころから観てきた映画や読んだ小説、体験したことが表現の根源になっているという。
だからといって、創作するためにインプットしようとすると、それは不自然。なにかのためになにかをするというのはとても不自然なこと。不純な動機で得た知識は不純な作品しか生みません。
(『松本隆 言葉の教室』より引用)
彼はわざわざ思いついたフレーズなどをメモしたりしないし、作詞のために意識的にインプットをしない。自分の身体の中に眠っている感覚や感情を使って作詞をしているという。
僕が感じていた違和感は、まさにこれ。仕事で必要な情報を得るために本を読んだりセミナーに出たりするインプットは必要だとは思うが、それはあくまでもアウトプット前提の行為。作詞といったアートな作業(僕は詩作もアートだと思っている)の場合、意図的にインプットをしてしまうと、アウトプットにより出来上がった作品が作為的になってしまう。僕はその辺りにすごく違和感を覚えていたのだ。
印象に残った松本隆の言葉
本書を読んでいると、「ああ、そうだよな」という言葉がそこかしこに散りばめられている。たとえばこのフレーズ。
メモしないと忘れちゃうような言葉は忘れちゃっていい。
(『松本隆 言葉の教室』より引用)
僕は若いころから音楽をやっていて、作詞作曲をしていたのだが(今でもやっているが)、頭に思い浮かんだフレーズをメモしたりすることはない。次の日の思い出せないような言葉やフレーズだったら、あまり意味がないのではないかと思うからだ。
難しいことを難しく言うのは簡単だけど、難しいことを易しく言うのは本当に難しい。
(『松本隆 言葉の教室』より引用)
これはもう、ライター業をやっていて常に思っていることだ。できるだけ誰にでもわかりやすい言葉で、わかりやすく伝えること。これは一番大事なことだと思っている。
書き終えたら声に出して読んでみるのはどうかな。
(『松本隆 言葉の教室』より引用)
これは、文章で悩んでいるライターに僕もよく言う。一度書いたものを声に出して読んでみると、リズムが悪かったり、言葉が重複しているところなどを理解しやすい。読んでみて違和感を感じやすいのだ。
稀代の作詞家の言葉で上質なインプットを
松本隆がとても偉大な人物だということは重々承知しているが、実際に彼の言葉を読んでいると、とても心に刺さるものが多かった。数々の名曲を作詞を手がけた彼が、どんな風に詞を生み出しているのか、その道筋を少し知ることができた。
彼に関する書はほかにもあるので、これから読んでいきたいと思う。おそらく、ビジネス書やハウツー本などよりもよいインプットができることだろう。
【書籍紹介】
松本隆 言葉の教室
著者:延江 浩
発行:マガジンハウス
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